元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな営業は「闇営業」です。

時折、よしもとの芸人さんが、闇営業についてテレビで話をしているのを見ることがあります。「闇営業がないと生活できない」とか「知り合いの社長に呼ばれて、闇営業に行った」とか「そもそもよしもとと契約してないので闇営業というものはない」といった用例を採取することができます。

闇営業の定義

ぼくは、よしもとさんに入って、10年くらい経ちます。その間に、いわゆる「闇営業」というものについて社員の方から話をされたことがありません。だから、定義も分かりません。

三省堂国語辞典、通称「三国」で引いたところ、「闇営業」という言葉はありませんでした。そこで「闇」を引いてみると、「(4)正規の取り引きによらないこと」とあります。

闇営業とは「正規の取り引きによらない営業」と解釈できます。正規ではない営業といっても、反社会的勢力の方と取り引きしたり、納税を怠るような取り引きをしたりするわけではないので、よしもとさんを仲介させていない取り引きを「正規ではない」と定義していると考えられます。

「闇」の部分については分かりましたが、どのような仕事が「営業」とされるのかがより重要です。若手芸人はほとんど仕事がなく、みなさんがテレビで見ていて知っているような芸人でもアルバイトをしていることが往々にあります。

先日、コントの大会で優勝した芸人さんも先月の月給が1万円とか2万円とかそんな金額であると、テレビでおっしゃっていました。そうなると、アルバイトをしなければ生きていけません。飲食店やコールセンター、ごみ収集、清掃など、融通がきき、かつ、時給の高いアルバイトをやっています。結婚していて、子供もいる若手芸人もいます。基本的にアルバイトは、給与所得です。よしもとさんからもらう、いわゆる「お給料」は事業所得なので、一線を画しています。

では、自分で事業として何かを行った場合はどうでしょう、執筆や講演会、楽曲の作成、不動産の仲介、コンサルタントなど、芸人さんが行っている副業は多岐にわたります。法人を設立して、給与でもらっていれば、同じ業務でも給与所得となりますが、事業所得であれば、よしもとさんのいう「闇営業」の定義に触れるかもしれません。

ただ、生活のための労働は必要ですから、その所得区分に違いによって、異を唱えることはできないと考えます。次に、業務の内容に注目します。芸人さんが所属するよしもとクリエイティブ・エージェンシーはタレントのマネジメントをする会社です。ぼくの見立てでは、仲介に近い。所属しているのに、タレント活動を個人で行うのは(この場合の個人の定義には、コンビやトリオ、ユニットが含まれることをここに明記します!)、信義則に反します。

コンビで文化祭やパチンコ屋へ行きネタをやる、何かのイベントでMCをやる、そのような場合です。このような業務は、正規の取り引きと内容が同じで、正規であれば間によしもとさんを挟むところを、介さずに直接の取り引きを行い、差分を得るものです。本人もこれらが「闇」であることは認識していると思います。 では、絵を描いたり、コンサルタントをやったり、執筆をしたり、講演会をやったりするのはどうでしょうか。そもそも、よしもとさんからそのような仕事の依頼はないわけです。自らTwitterやInstagramで発信し、認知されたところで依頼が来て、仕事に繋がります。

ぼくの執筆や講演の仕事は、自分で取引先に営業をかけて(営業にかかったコストは、すぐに回収しました!)、はじめはおそろしく安い金額で承り、口コミで広めてもらうことで、たくさん依頼が来るようになりました。

そうやって収入を得ていると、何も考えていない人々に「闇で稼いでるんですか?」と言われます。個人事業者が、生きるため、家族を守るため、納税のため自ら取ってきた仕事を他人が「闇」と定義するなんて、失礼です。給与所得者特有の、生ぬるい思考以外に何者でもありません。自分で仕事を取らずに、誰が仕事をくれるのでしょうか、誰が生活を保障してくれるのでしょうか。

「仕事をくれ、保障しろ」なんて、他人に依存するようなことは言いません。せめて、最低限度の生活ができるような環境を作れるほど仕事を取ってきたことを、褒めてやってほしいのです。

さんきゅう倉田

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さんきゅう倉田

さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら