元国税局職員 さんきゅう倉田です。好きな所得は『一時所得』です。

元国税局という肩書のためか、アルバイト先との労働問題やマンションの敷金の返還、仮想通貨の動向について、質問を受けることがあります。

それらは、ぼくがのうのうと生きていて得た情報と知識ではなく、積極的に本を読み、コストを支払って専門家と会い、経験を使って自ら考えたものです。

それを提供するときに、ぼくはそれらに価値を感じますが、情報をもらう側は価値を低く見積もります。情報という商品について、ぼくと相手に「情報の非対称性」があるから起こることだと思います。今回は「情報の非対称性」とそこから起こる「モラルハザード」と「逆選択」について解説します。

「情報の非対称性」とは

まず「情報の非対称性」という素敵な響きの言葉を覚えてください。ひとつの商品を売買するときに、買う人と売る人の持っている商品の情報に差があることです。

レモン市場という考え方があります。この場合の「レモン」とは欠陥品、不良品のことを意味しています。とある商品があったときに、お店はその商品の品質を知っていますが、買う人は知りません。

すると、お店は、品質が悪いことを隠したり、品質が良いと偽ったりして不良品を売るようになります。買う人は、買ってから不良品であることに気づきます。買う人はだまされたくないので、そのうち、その商品は売れなくなります。

このことは、中古車を例にして解説されるのが一般的です。街では、2種類の外見の同じ中古車が販売されているとします。ひとつは100万円の良い車。もうひとつは、20万円の悪い車です。でも、買う人は、その価値を外見から判断できません。判断できないので、2種類の平均価値60万円なら買っても良いと考えます。

しかし、お店は良い車を安く売るわけはありませんから、悪い車を60万円で売ろうとします。みんな車を買うときは、60万円までしか出さないので、街では、悪い車ばかりが売られるようになります。通常の経済では、時間が経つと良い商品だけが残り、質の悪い商品は淘汰されますが、ここでは悪い商品だけが残ります。これを「逆選択」といいます。

保険でも同じようなことが起こります。保険に入るのは、健康でない人が多く、健康な人は保険に入る可能性が低い。でも、健康でない人の方が、病気をして保険料をもらう確率が高い。そんな人ばかりが集まると、保険会社は損をしてしまいます。

すると、保険会社は毎月の掛け金を高くします。するとすると、健康な人は、病気をしないので、今まで以上に保険に入らなくなります。保険会社は誰が健康で、誰が不健康かわからないので、対策として医師の診断書を求めたり、禁煙を促したりします。

モラルハザードが起こる理由

保険や労働では「モラルハザード」という問題もあります。自動車保険を契約した場合、契約していないときと比べると「事故を起こしても保険でお金がもらえるから」と運転が乱暴になり、事故率が増えてしまいます。

また、あなたが時給で働いていたら、同じ仕事を3時間でやるより5時間でやる方が得だと考えて、上司の見ていないところでサボろうと考えませんか。これらがモラルハザードです。保険会社や上司があなたの行動を監視できないために起こります。あなたはあなたの行動を知ることができるが、保険会社や上司は知ることができない「情報の非対称性」があるためです。

悪い商品が残り、良くない客ばかり集まってしまうような社会的に望ましくない状態は「市場の失敗」と呼ばれます。経済のメカニズムを理解していないと、あなたは悪い商品を掴まされ、損をしてしまうかもしれません。正しい情報を掴んで、適正なコストを支払って、社会で上手に生きてください。

さんきゅう倉田

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さんきゅう倉田

さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら