元国税局職員 さんきゅう倉田です。嫌いな言葉は「水増し」です。

大卒のサラリーマンの生涯賃金は、2億7,000万円だそうです。高卒で2億1,000万円、中卒で1億9,000万円。これは男性の場合で、女性は大卒で2億2,000万円、高卒で1億5,000万円、中卒で1億4,000万円になります。

この差は、男性と女性の能力の差ではなく、妊娠・出産・子育てによる休暇や結婚後の退職、一般職という旧世代の採用方式によるものだと考えられます。

  • 芸人が失った生涯賃金と老後の資金

国家公務員から芸人へ

ぼくは大学卒業後、国家公務員になりました。その後、退職して芸人を目指すべく、よしもとの養成所NSCに入ります。そこから計算すると、現在時点で、9年間分の社会人としての給料・賃金をもらっていないことになります。

無論、アルバイトをしている時期もありましたし、よしもとからの仕事や執筆、セミナー、書籍の出版があるので、収入がないわけではありませんが、それでも、国家公務員であったときの実入りと比較すると、圧倒的に少ない時期が長く続きました。

ぼくがNSCに入ってから現在に至るまで、無収入であったと仮定した場合(芸人の中には、そういう人間もたくさんいますので)、生涯賃金のうち、どのくらい失ってしまったのでしょうか。

大卒で定年まで38年間働くとすると、1年間の算術平均は710万円です。平均年収が420万円と言われているのに、個人の生涯賃金を平均すると、年収710万円になる。不思議に思えますが、この記事を読んでいる聡明かつ本気の社会人と一線を画すような、アマチュアの社会人が大勢いるということではないでしょうか。あるいは、パート・アルバイトや休職している人間が多く含まれているのかもしれません。

9年、お笑いの世界にいると、710万円を失う機会を9回捨ててしまうことになります。6,390万円です。

今すぐ6,390万円稼ごうと思ったら、どのくらいの努力と運が必要なのでしょうか。就職してすぐに710万円もらえるわけではないので、単純な掛け算では損失の正確な計算は困難ですが、大卒後、9年お笑いをやってから就職したとすると、31歳から働き始めます。60歳が定年だとすると29年間。38年間働けるはずが、29年しか従事できない。要職に着き、最も稼げるはずの37年目や38年目がやってこないのです。

芸歴10年で7105万円、15年で1億657万円、20年で1億4,210万円を失います。1億4210万円を取り返すのは、あまたのテレビに呼ばれ、CMに出演して、全国を営業でまわっても容易ではありません。

月収300万円で6年、月収200万円で8年以上かかります。一度売れたとして、その金額を稼ぎ続けることができるでしょうか。ゆめゆめ、芸人を目指すことなかれ。多くの物を失ってしまいます。しかし、ぼくを含め同輩が、なぜ続けているかと言うと"圧倒的に楽しい"からではないでしょうか。

老後の資金はどうする?

老後の資金も心配です。あなたとあなたの配偶者の老後の生活費は月に28万円程度になります。85歳まで生きるとしたら、8,400万円必要です。さらに、持ち家でない場合は3,000万円加算され、1億1,400万円になります。

年金収入が65歳から月に22万円あるとすると、85歳までに5,280万円受け取れますが、老後の支出と収入の差は6,120万円です。退職金が2,000万円あったとしても、4,120万円足りません。それを預金や確定拠出年金や再雇用で補うことになります。

「定年後は働きたくない」と考えるのなら、4,000万円以上の預貯金を準備することをお勧めします。あるいは、資格やスキルを保有し、退職前からコネクションを作り、月に20万円でも収入が得られるような方法を考えておけば、老後の生活はかなり楽になります。齢を重ねてから将来の心配をするなんていたたまれない。いまから、計画的に準備しましょう。

さんきゅう倉田

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さんきゅう倉田の初の著書が発売されました。ぼくの国税局時代の知識と経験、芸人になってからの自己研鑽をこの1冊に詰めました。会社員やパート・アルバイトの方のための最低限の税の情報を、たのしく得られます。購入は コチラ

さんきゅう倉田

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さんきゅう倉田

さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら