元 国税局職員 さんきゅう倉田です。趣味は「がさ入れ」です。
ぼくが働いていた東京国税局は「国税庁」という組織の中にあります。更に国税庁は「財務省」の中にあります。これは物理的にあるのではなく、組織として存在するという意味ですが、ぼくの同期たちも年次を重ねて国税庁や財務省で働くようになりました。
その国税庁では、報道用に様々な情報を公開しています。そのうちのひとつが「査察の概要」です。国税局査察部(通称「マルサ」)が行った業務の結果を、まとめて知らせてくれています。査察の概要にはどんなことが書いてあるのでしょうか。
ちなみに査察部が行う「査察」とは、わるーい脱税者に対して、懲役や罰金を与えるために頑張ることです。税金を払わせて終わる税務調査とは違います。
積極的に見つけようとした脱税
何と「査察の概要」では、査察部がくる可能性の高かった脱税方法を発表してくれています。敵に塩を送る国税局。昨年度は4つです。
■社会的波及効果の高い事案への取組
・消費税の還付に関するもの
・海外との取引を利用したもの
・太陽光発電に関するもの
・震災復興に関するもの
(平成29年6月 国税庁「平成28年度 査察の概要」より)
「消費税の還付」に関するものを簡単にいうと、こんな内容でした。
知り合いの会社の高級腕時計を仕入れた
→海外で知り合いの会社に全部売った
→消費税の還付を受けた
高級腕時計は、実際に海外に移動させていましたが、本当に仕入れたり売ったりしていた訳ではなく、高級腕時計を何度も国内と海外でぐるぐるさせて、取引があったように見せかけていました。こうすることで、消費税の不正還付を受けていた事例です。
会社員の方は、基本的に「消費税は払うもの」という認識だと思います。みなさんは物を買ったりサービスを受けたりしたときに代金と消費税を「払い」ます。お店はお客さんから集めた消費税をまとめて、税務署に「納める」ようになっています。このとき、集めた分を全部「納める」のではなくて、お店自身も仕入れなどで「払った」消費税があるので、
〔お客さんから集めた分〕-〔仕入れなどで払った分〕=〔税務署に納める分〕
となります。
このとき海外に輸出して販売すると、消費税が免税になるため、〔お客さんから集めた分〕が0になります。この方法で、〔税務署に納める分〕をマイナスにして、消費税の不正な還付を受けていました。何てずるいんでしょう。我々、小市民ですら払っている消費税を、高級腕時計を扱うようなお金持ちっぽい人たちが不正に受け取るなんて。
脱税の多かった業種
いつの時代も、景気のいい業種が脱税しがちです。ここ数年ですと、オリンピック特需のためか建設業の脱税が目立ちます。昨年度も1位です。おめでとう、建設業!
脱税したお金の使い道 & 隠し場所
脱税した方々は、家や高級外車、高級腕時計、金、競走馬を買ったり、 愛人に援助したり、ギャンブルに使っていることが多いようです。また、使わずにちゃんと現金で残した方や、まじめに貯金する方もいました。
みなさん、知恵を絞って頑張って隠していらっしゃいますが、がさ入れが入った時点で99%見つかります。今回は、押し入れにわざわざ可動式の床を作って隠したり、逆にシンプルにタンスの中に入れたり、ボストンバッグの中に入れて床に転がしておいた事例が見つかりました。
査察部の今後の取り組み
何と、「査察の概要」は、今後どんな脱税を重点的に見ていくかも教えてくれています。敵にヒマラヤ岩塩を送る国税局。
消費税の不正還付や海外との取引を利用したもの、確定申告をしていない会社に目を光らせるようです。確定申告をしていない会社、いわゆる、「無申告」ですが、個人事業者の中にもたくさんいますし、ビットコインやアフィリエイトで稼ぐ会社員の中にも見受けられます。税金は、社会に対する「会費」です。必ず、申告しましょう。
終わりに
査察部と脱税について、ご理解いただけたでしょうか。査察の概要は、毎年発表されます。年々変化していく脱税の多い業種やお金の隠し場所をチェックすると社会的な背景が見えてきて、脱税と日本の景気の関連も分かります。来年は、どんな脱税が出るのか。愉しみでなりません。
執筆者プロフィール : さんきゅう倉田
芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら。