元国税局職員 さんきゅう倉田です。死ぬまでにやってみたいギャンブルは「結婚」です。
競馬、競輪、競艇などのギャンブルによる利益は、「一時所得」となります。一時所得は、年間50万円の控除があるので、1年間に50万円以上の利益があれば、確定申告が必要になります。
むかしむかし、大阪府に、競馬で30億円以上の払戻金を得ていた男性がいました。男性は、3年間で約30億円の払戻金がありましたが、確定申告をしておらず、国税局から指摘を受け、所得税法違反の罪で起訴されてしまいました。
国税局の主張は、30億円から3年分の控除150万円を引き、経費は認めず、所得税をかけると言いました。住民税なども入れたら、納税額は10億円以上になります。しかし、男性は馬券の購入に、28億円使っていました。30億円の当たりを出すためには、それくらいのコストがかかるのです。もちろん預金はなく、とても納税できません。そこで、外れ馬券が経費になるかどうかが裁判で争われることになりました。
このときの税法では、当たったときの馬券の購入代金は経費にできるが、他のレースの外れた馬券は経費にできない、というルールでした。外れた9回は経費にできないのに、当たった1回には課税する。そんな無茶苦茶な、となったのです。男性としては、外れた馬券すべてを経費として認めてほしい。そこで、自分の競馬の払戻金は一時所得ではなく、外れ馬券が経費として認められる雑所得に該当する、と主張したのです。
男性は、自動的に馬券を購入するパソコンソフトを使用して、インターネット上で継続的に大量の馬券の購入を行っていました。それも、人気の馬を買うとか、血統の良い馬を買うのではなく、過小評価されているオッズの馬を買うという独特の手法を使っていました。
そもそも、競馬というのは収益性の低いギャンブルです。それは、主催者が25%以上をピンはねして、払戻金としているからです。宝くじの場合はもっと悪く、50%以上が購入者に還元されません。宝くじに当たっても、みんなが払ったお金の半分しかもらえないのです。これを「期待値」と言いますが、期待値で考えると、ギャンブルの中ではバカラが人気です。バカラの期待値は95%程度なのです。競馬は場所代や人件費がかかるので仕方がありません。話がそれました。だから、競馬で勝っても、それは運が良かっただけであり、継続的に利益を出すために行ったとは考えづらく、その場合、雑所得として認められるのは難しいのです。
国税庁は、一時所得について、
「一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得」
と言っています。
期待値が75%以下の基本的には利益の出ない競馬は、「営利を目的とする」とは言えないわけです。しかし、男性は、独自の方法で継続的に馬券を購入し、利益を上げていました。
そこで最高裁判所は、「本件の行為は継続性があって雑所得に該当する」とした上で、「外れ馬券を含むすべての馬券の購入代金が当たり馬券の払戻金に対応する」と判断しました。つまり「買った馬券は、当たろうが外れようがすべて経費にしていいですよ」と言ってくれたのです。
それ以外にも、馬券購入用のソフトやパソコン、机やテーブル、水道光熱費や家賃があれば、経費として認められることになります。この最高裁の判決は革命的で、競馬と税金に関する考え方に大きな影響を与えました。国税庁のホームページの文言も変わりました。それもこれも、男性の訴えのおかげです。
しかし、男性は確定申告を怠っていたため、無申告加算税の対象となり、延滞税(利息)も賦課され、その時点ですべてを納付することはできなかったそうです。分割での納付になりました。やはり、ギャンブルで利益を出すのは難しい。
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