あの「読みづらいアルファベットの入力」は古本のデジタル化だった

元国税職員さんきゅう倉田です。好きなアルファベットは差し押さえを表す「S」です。

テレビ東京のWBSワールドビジネスサテライトをよく見ています。

スポーツや芸能を扱わず、経済を中心に報道するので自分のニーズとマッチしています。ニュースは鮮度が重要だけれど、録画して週末にまとめて見ることもあるくらい、番組に傾倒していて、受験勉強の間も欠かさず見ていました。

WBSは「なんておもしろいんだ!」と感じる情報を与えてくれることがあります。

先日、世界一の語学学習アプリDuolingoのCEOが WBSの単独取材に答えていました。同じ時期に東京大学でこのCEOが講演を行っていたので、来日することを知って取材をしたのでしょう。

取材内容と講演は一部重複していて、その中にCAPTCHAに関する話がありました。

CAPTCHAはインターネット上で人間であるかどうかを判別するシステムです。

新しいサービスなどに会員登録するとき、個人情報を入力してから、非常に読みづらいアルファベットの羅列が表示され、それをテキストボックスに入力した経験が誰にでもあると思います。あれがCAPTCHAです。

AIでアカウントを大量に取得して悪用する事業者がいるため、人間かロボットか判別するシステムが開発されました。アルファベット入力した後に「私はロボットではありません」にチェックするので、気づいていた方もいると思います。

このシステムを開発したのが、前述のCEOです。

彼はインタビューの中で無駄なことが嫌いだと言っていました。

しかし、世界中でCAPTCHAが利用されるようになり、入力回数が一日2億回に達したことを嘆きました。自分は無駄なことが嫌いなのに、ロボットかそうでないかを判断するだけの生産性のない作業を発生させていることが耐えられなかった。

どうにかこの入力作業を何かに活用できないだろうか。

さて、コンピューターが文字を読み込むシステムとして、OCRがあります。みなさんが提出する確定申告書もOCRで読み込まれて、税務署にデータで保存されます。

このOCRは古い文字を読み取ることができません。例えば、古本をまるまる一冊読み取ってデジタル化したいけれど、文字が掠れているためコンピューターは正しく認識できない。しかし、人間であれば程度によるけれど掠れていても文字を判別することができます。そのため古本のデジタル化には大量の労働力が必要でした。

CEOはこの点に目をつけました。

古本のデジタル化の作業は人間にしかできないので、CAPTCHAで表示するアルファベットの羅列を古本の画像にして、人間に入力させることにしました。ロボットでないことの証明と古本のデジタル化を結びつけて、ビジネスにしたのです。

その後、このサービスReCAPTCHAをGoogleに売却し、CEOはヒューマンコンピューテーションの分野で活躍します。

男性のエロに向かう力を利用して

CAPTCHAが登場しても、大量にアカウントを取得したい事業者はいなくなりません。しかし、人の手で一つひとつアカウントを取っていたら利潤が増加しないし、CAPTCHAをクリアできるシステムは開発できない。

そこで、男性のエロに向かう力を利用することにしました。

アダルト動画を視聴できるポルノサイトで動画を見ようとしたユーザーの端末に、CAPTCHAの入力画面を表示して、正しく入力した場合に動画が見られるようにしました。

これは動画を開こうとしているユーザーが人間かロボットかを判別しているのではなく、別のサイトでアカウントを取得しようとしたときに表示されたCAPTCHAを、瞬時に転送していると考えられます。問題を解決する能力が高いですね。

ここまで読んで、「そもそも古本の文字が判別できないのだから、ユーザーがでたらめなアルファベットを入力しても、コンピューターは正誤を判断できないのではないか」と思った方はとても賢いと思います(ロボットが間違えて入力しても、古本の画像に何が書かれているかはわからないので、コンピューターには何が正解か判断できない)。

これは、古本の画像と同時に、コンピューターが既に正しく認識している文字を表示することで解決しています。後者を正しく入力した場合は人間であると判断するようです。

不便を解消するために合理的なシステムを開発することで、大きな利潤を生み出すことができる一例でした。