元国税職員さんきゅう倉田です。好きな納税者は「高額納税者」です。

「遠慮」には3段階あるそうです。家族や友人など親しい人には遠慮せず、精神的に距離のある知人には遠慮して、赤の他人には遠慮しない。

芸人さんが居酒屋で知り合ったおじさんに「え? 芸人なの? 何か面白い話してよ」と言われるのも遠慮がないからだと思います。

同時に匿名であることがおじさんを横暴にさせます。目の前にいるから顔は分かるけれど、詳細な個人情報は分からない。匿名性は人から遠慮を奪います。遠慮しないから、他人に役務の提供を強要できる。

SNSと似ています。SNSの匿名性・半匿名性が他人への中傷を促しています。

また、対象に敬意を持つか否かも重要です。居酒屋で医者と知り合っても「え? 医者? ちょっと脈測ってよ」とは言いません。芸人と比べると医者は畏れ多い職業だからだと推測しています。

スナックで知り合ったおじさんに強要される

さて、いつもにこにこしているさんきゅう倉田は、知らないおじさんによく絡まれます。だから、職業を聞かれても「ライターです」と答えています。

しかし、先日一人で行ったスナックで隣のテーブルのおじさんに絡まれてしまいました。ホステスさんからぼくが芸人であることを聞いたようです。おじさんは突然言いました。

「一曲歌って」

ぼくは戸惑いました。友人ともカラオケに行かないようにしているくらい歌唱を避けているのに、知らないおじさんに不躾に強要されてしまいました。

ぼくが、すみませんと言って断ると、おじさんは執拗にマイクを突き出してきます。

5回くらい断ったところで、ママがおじさんを窘めてくれました。おじさんはぶつぶつ文句を言いながら選曲し、ホステスと肩を組んで歌っていました。

おじさんの横にはもう一人おじさんがいます。強要したおじさんを甲、このおじさんを乙とします。なんだかんだあって、後日ぼくと乙は一緒に飲みにいく計画を立てることになりました。

乙を賢くて素敵な紳士だと思ったからです。ただ、乙はメールでのやりとりの中でこんなことを言いました。

「甲さんも一緒に飲んだら面白いかもしれませんね」

嫌がるぼくに無理やり歌わせようとした甲と飲んで、面白いことなどあるわけがありません。

あのやりとりを見ていたし、甲が「なんで歌わねぇんだよ」と暴言を吐いていたのも聞いていたはずです。ぼくはやんわりと断ることにしました。

ぼく「ぼくがカラオケを断ったら甲さんは不快に思っておられたので、会うとトラブルになるような気がします」

乙「そんなことありません。私の周りに、自分を持っていない人はいません」

なんて不合理なんだ。

自分を持っているとかいないとかそんな話は関係がないし、初対面で名前も知らないのに強要して、それを断られて捨て台詞を吐いていたのに、「そんなことがありません」とはどういうことなのか。

甲も乙も芸人だったら芸を披露して当たり前だと思う世代なのかもしれません。

無形資産という概念がない時代に働いたから、見えないものに価値を感じることができないのかもしれません。

個人事業者は、そういうおじさんが存在することを理解して、日々働かなければいけません。

若き個人事業者の悩み

このように役務の提供を無償だと思われてしまうことがあります。

ぼくの講演会とか取材の価格は内容や時間によって決まっています。ご依頼の内容から価格を算出して提案し、合意をもらって契約します。

契約書をまくわけではないけれど、互いに合意しているので、価格の変更は容易ではありません。しかし、作業の追加は比較的簡単に行われます。打ち合わせの回数が増えたり、入り時間が早くなったり、録画を求められたりします。

そんなとき、追加報酬が提案されることはほとんどありません。役務が軽微だと判断され、無償の役務だと認識されたからです。

個人事業者は自分で追加報酬についての話を切り出さなければなりません。無料だと思っている人にお金の話をするのは、気が引けます。何度やっても、清々しいものではありません。

だから悩ましい。

それでも、あなたの進言が、後にその人と取引をする個人事業者を守ることにつながるかもしれないし、あなた自身を守ることになると考えて、言うべきです。

僕だったら、「100円でもいいので、報酬を追加していただけませんか」と言います。

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