元国税職員さんきゅう倉田です。好きな間接税は「酒税」です。

芸人になって13年。吉本興業からは、給与でなく、働いた分に応じて報酬をもらっている。だから、仕事がまったくなければ、その月の報酬は0円。芸歴5年目くらいまでは、ずっと0円が続いた。

さて、仕事の依頼があると、内容と共に報酬金額が提示される。そのまま了承したり、交渉したりしてから、契約して仕事をする。こういうときに、芸人だけでなく、ライターさんやイラストレーター、多くのフリーランスが直面する課題が仕事の追加だ。

「イラストの修正をお願いします」
「予定にはなかったんですが、取材に行ってきてください」
「追加の打ち合わせをお願いします」
「イラストをWEBでも公開させてください」
「講演を動画で配信させてください」

契約時に決まった報酬を増やすことは難しいけれど、追加の作業を求められることは比較的容易に行われている。

ちょっとした作業の追加であれば、依頼主はほとんど気にしない。ただ、それが「ちょっとした作業」なのかどうかは、作業をする側に聞かなければ分からない。イラストの修正にとても時間がかかるかもしれない。動画の配信は本来別料金かもしれない。

しかし、仕事をする側は「追加料金をいただけますか」とは言いづらい。どのような場合に追加料金が発生するか、あらかじめ伝えてなかったからだ。

以前、イラストレーターさんにボードゲームのイラストをお願いした時、「3枚で◯◯円です。修正は1回まで」と契約時に伝えられた。きっと、日常的に修正を依頼されるのだ。相手の求めに応じて、何度も修正することはできない。予め、回数を制限するのは当然だ。フリーランスは、そうやって取り引き内容に線を引かなければならない。

追加料金を請求するか否か

よく講演の仕事をする。相手に「打ち合わせをしたい」と言われなくとも、1回は打ち合わせがあるだろうと想定して、報酬の金額を決めている。

先日の講演会では、前日から当日にかけて、追加の打ち合わせをして、リハーサルを行って、講演で使うスライドの修正をした。 依頼主と参加者の満足度を高めたいので、こういった作業は求めに応じて可能な限り実施したい。

ただ、追加の料金を求めるか否かが悩ましい。

あれだけ楽しく仕事をして帰ったのに、最後に金の話をすれば、相手の気分を損ねるかもしれない。向こうから、追加料金の話をしてくれたら、どんなに楽だろうか。

この人たちは良い人だ。きっと、請求すればいくらか払ってくれるだろう。そんな人たちに金を請求するのか。ああ、この人たちがどうしようもないくらいの悪人だったらよかったのに。

敬語も使わないし、呼び出しておいて遅刻するし、値切ってくるし、「アルバイトはしてるんですか」と聞いてくるし、メールは返さない。

そんな悪い人間だったら、どれだけよかったことか。それだけ悪い人間なら、きっと請求しても、簡単には支払わないだろう。

良い人からはなるべくお金を取りたくない、悪い人からは取りたい。しかし、良い人は労働に対してちゃんとお金を払い、悪い人は払わない。

「矛盾」

ぼくの頭の中は、この2文字でいっぱいだった。葛藤した。日々の生活の中で葛藤することなんてないのに。

若きさんきゅうの選択

ぼくは期待した。先方からの「いろいろと追加でお願いしたので、報酬を上乗せしてください」という言葉を。

甘かった。ビジネスなのだ。少しでも安い料金で取り引きすることを望むだろう。どんなに良い人であっても、お人好しではないのだ。

余程のことがない限り、そのような提案はしてこない。それに、会社員とフリーランスでは考え方が異なる。

会社員は追加で作業を行っても、給料が増えることはない。残業をすれば、残業代が支給されるが、勤務時間内に作業を終わらせれば、見かけの給料が増えることはない。ただ、仕事が増えただけだ。

だから、追加の作業に金銭が発生するという文化がない。そのような相手に対し、追加報料金を請求すれば、相手は驚くかもしれない。気分を害するかもしれない。

それでも、ぼくには請求する義務がある気がした。

つづく

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