元国税職員さんきゅう倉田です。好きな女性のタイプは「正規の簿記の女」です。

芸人になって東京に引っ越してきてから、3週間に1回髪を切っています。通算130回くらい切った中で、100回以上は同じ美容院で切ってもらっていました。 その美容院が今月、値上げをすることになりました。1回5,000円が7,000円になります。40%の値上げです。

40%は大きい。値上げの理由について、美容師さんは「美容師としてよりステップアップするため」と言っていました。

日本の値上げとアメリカの値上げ

くら寿司。コロナ禍で久しく行っていませんが、ずっと変わらない価格で、美味しいお寿司を提供してくれています。物価も賃金も上昇しているのに、価格を変更しないのは並大抵の企業努力ではできません。

また、お菓子業界は何十年も値上げをせずに、内容量を減らして対応しています。価格をあげれば消費者が離れてしまう、しかし、こっそりお菓子を小さくすればインターネットで叩かれる。企業の葛藤を想像すると、袖が濡れてしまいます。

さて、カリフォルニアにはくら寿司があります。カリフォルニアの最低賃金は日本円で1,500円を超えていて、ここ数年の上昇率も日本より高い。だから、人件費を反映して商品の価格は日本より高く設定されています。さらに、賃金上昇に合わせて価格も弾力的に改定しています。

日銀は、「日本の価格は粘着的」と言います。たしかに、価格の上昇に対し日本の消費者は敏感です。

お金のリテラシーが低いから騙される人は多いのに、目に見えるわかりやすい負担には激しく抵抗するという敏感な部分を持つ国民性です。

個人事業者としての価格交渉

ぼくには、この連載のように長く続けている仕事がいくつかあります。

過去には、報酬をあげて欲しいと交渉したことがありました。なんとなく言い値で始めた仕事だったけれど、相場やコストを考慮して、再設定が必要だと考えてのことです。

多くの場合、快く対応していただくことができます。もちろん、それで取引が終了してしまうこともあるでしょうが、現在時点ではみなさんのご厚意に甘え続けています。

ずっと用いていた価格の変更を打診するのはとても勇気のいることです。

「もうここで終わってもいい」

ピトーと戦うゴンの気持ちがわかります。

価格変更と客離れにおける利益の上昇

美容院の価格変更は、客には交渉の余地はありません。選択肢は、受け入れるか、店を変更するかしかない。お店側もそれは理解しています。客の大半は理解して通い続けてくれるが一部は離れてしまうだろう、そう思っています。

今回、40%の値上げをしても、客の減少が3割以内なら美容院は利益を増加させることができます。仮にそれ以上減ったとしても、接客が減った分、自己研鑽や店舗改善に時間を費やすことができます。

すでに顧客がたくさんいるのなら、値上げくらいするでしょう。

さて、ぼくはどうするか

値上げに際し、美容師さんから説明書きを頂戴しました。ひとりひとりの客との会話を増やして手厚く対応したい、自らのステップアップをしたい、だから値上げをするとのことでした。

値上げをする理由が、顧客のニーズやメリットとマッチすれば、客は離れません。マッチしなくとも、損失がなければ客は継続して利用するかもしれません。

ぼくは、美容院では会話をしたくない。

応援する気持ちはあるし、ステップアップにも協力したいと思いますが、苦手な会話を増やされた上に、40%も値上げされたら、もう通うことはできません。それに、顧客のメリットを提示せずに、一方的に価格の改定をすることは軽視できません。

例えば、新しい機械を導入してカットが早くなったとか、よいシャンプーに変えたとか、アシスタントを増やしたからこれからはマッサージもするようになるとか、そういう何かがあれば譲歩の余地があります。

しかし、なるべく話さないように眠ったふりをしているぼくに「ゆっくり会話をするため」と提案するのは、良くない。いつか店の広告に「無口な店員が集まっています」と書かれたら、また通いたいと思います。

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