元国税局職員 さんきゅう倉田です。好きな小説の書き出しは「ある日の事でございます。御釈迦様は税務署の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな申告書のようにまっ白で、そのまん中にある赤色の帳簿からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります」です。

芸人から投資家になって吉本芸人を辞めて就職せず、FXに没入した元同期がいました。

ツイッター上で見る限り、書籍でたくさん勉強して最初は利益を上げ、そのうち大きなお金を動かすようになったと思ったら、ツイッターをやめていました。

みなさんは、FXで4億円の利益を上げて、1億円以上脱税した主婦の話を聞いたことがあるでしょうか。今から10年ほど前にニュースになりました。この報道により「FXは簡単に誰でも儲かる」と考える方が増えました。

確かに「主婦」というのは投資の初心者の比喩として使われていて、主婦が儲かるならボノボでも儲かるかもしれません。しかし、「他人が儲かっているから、自分も儲けられる」と安易に考えて、投資に手を出してはいけません。

儲かっている人の足元には、儲からなかった人が99人倒れています。

FXは外国のお金を買ったり売ったりして利益を出します。このとき、あなたの持っているお金より大きなお金を、使うことができます。例えば、100万円しか持っていないのに、2,500万円分買うことができるのです。

あなたの思惑通りに、価格が動けば大きな利益を出せますが、ハイリターンということは、ハイリスクでもあります。世田谷に家を買えるくらい大きく儲かることもあれば、三親等以内の血族の尻の毛まで抜かれるくらい身を滅ぼすこともあります。でも、なぜか、周りにはFXで儲かった人しかいません。

なぜかというと、儲からなかった人、損した人は、その話を他人にしないからです。儲かった人だけが自慢するために他人に話します。だから、誰でも儲かるように錯覚する。甘い話を聞いたら、足元に倒れている人の人数を数えてください。

知らない人に儲け話を持ちかけられたら

ぼくは、毎月、渋谷の無限大ホールというよしもとさんの劇場に出演していました。だから、うろうろしたり、チケットを売ったりするために、渋谷にいることが多くなります。すると、芸人という概ねアルバイトで生計を立てている夢追い人を狙って、ずる賢くない狐が声をかけてきます。

「全然働かないから時間もあるし、お金もたくさん入ってくるから、こんな風に海外に行けるのよ。ほら、これはニューヨークに行ったときの写真。ほら、これはフランスに行ったときの写真、ほら、これは南極に行ったときの……」

彼らは、街や飲み会で声をかけてきて、まやかしの裕福な暮らしを自慢してきます。金持ち自慢をするなら、その場の飲み代やコーヒー代くらい出せばいいのに、それはしません。ただひたすらに、自慢話を繰り返します。

ぼくは、他人の自慢話に興味がありませんし、自慢話を聞いてもらうならそれなりの対価を払うべきだと考えています。でも、大人なので「すごい」とか「いいなあ」とか適当なことを言って、当座を繕います。

すると「儲かるから一緒にやらない? 仲間にならない? 」と魅力のない誘いをかけてきます。「私は今、月に100万円もらっているの。でも、働くのは月に5日くらいで、あとは海外旅行に行っているのよ。あなたも仲間にならない? 」などとのたまうのです。

そうやって声をかけられて、芸人を辞めていってしまった人たちがいました。数年たった今、彼らは、芸人をやっていた頃より貧乏です。

あなたがもし、「儲かるからどう? 」と声をかけられたなら、その「儲かる」という言葉は、あなたが儲かるのではなくて「声をかけたひとが儲かる」という意味だと気づかなければいけません。

だって、儲かる話をわざわざ他人のあなたに教えるわけがないじゃないですか。本当に儲かるなら、自分の友達や恋人を誘います。でも、彼らは友達がいません。自分が儲かるためなら、友達が損をしてもいいと考えているからです。

投資をするときも、とてつもなく儲かるらしいビジネスを持ちかけられたときも、冷静になって判断していただきたいです。

新刊『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』

(総合法令出版/1,404円/税込)
さんきゅう倉田の初の著書が発売されました。ぼくの国税局時代の知識と経験、芸人になってからの自己研鑽をこの1冊に詰めました。会社員やパート・アルバイトの方のための最低限の税の情報を、たのしく得られます。購入は コチラ