元国税局職員 さんきゅう倉田です。好きな曲は「マルサの女のテーマ曲」です。
ぼくは芸人になって11年ですが、お笑い業界には目まぐるしく変化が起きています。
吉本興業の養成所NSCに入った頃は、とにかくネタの質が重要視され、テレビ番組の企画に合わせて1分程度の短いネタを作るように指導されていました。そしてお笑いブームが落ち着き、ネタ番組がなくなると、芸人たちは特技や趣味を求められるようになりました。
ここ2、3年は、第7世代や賞レースの盛り上がりにより、お笑いブームが再びやってきたように思います。一方で、趣味や特技を用いて活動する芸人さんも増え、働き方は多様化しています。
ぼくは、去年、舛方(ますかた)さんという先輩とコンビを解散したことをきっかけに、ネタをやめてしまいました。舞台で、コントや漫才を披露することはもうないでしょう。10年前だったら考えられないことでしたが、今ではそういう芸人さんがマイノリティではあるもののたくさんおり、異常なことではないとされています。
働き方が変わり、タレントと事務所の契約の方法も変わっていきました。この変化には、良い面と悪い面があると思います。ぼくは、従来の書面によらない契約が好きでしたが、世論が傾いたので仕方がありません。契約書を読み込み、自分の働き方にあった契約をすることにしました。
「芸人」から「芸人さん」へ
芸人たちの生き方や働き方、契約が変わった一方で、「芸人」という職業の呼称も変化しました。以前であれば、一般の方も芸能の方もみな「芸人」と呼んでいたように思います。
しかし、現在は、芸人以外の方がテレビで「芸人」と言うことはなく、「芸人さん」と言っていますし、芸人自身も「芸人さん」と言っているのを見かけます。
先日、お笑い界の頂点に君臨する先輩がテレビで「芸人さん」と言っていたのを見て驚きました。
しかし、若手芸人や売れている芸人が会話の中で「芸人さん」と言うことはほとんどありません。
警察官が「警察官さん」、弁護士が「弁護士さん」、国税局職員が「国税局職員さん」とは言わないように、芸人も「芸人さん」とは言いません。
アイドルが別のアイドルを指して「アイドルさん」、俳優が別の俳優を指して「俳優さん」とも言いません。ただし、俳優が「女優さん」と言う例はあります。性別が異なるため、自分とは別の職業と考えているのだと思います。
テレビで先輩芸人が「芸人さん」と言う時は、話題が若手芸人である場合がほとんどです。同じ芸人ですが、芸歴と仕事内容に差があるので、別の職業であるかのような錯覚を生み、敬意を払ってそう呼んでいるのではないかと思いました。
ぼくはどうしているかと言うと、自分の職業に「さん」をつけるのは一般的には不自然であると思い、かといって「芸人」と呼ぶのは乱暴だと考え、「芸人チーム」と言っています。
誰も使っていない呼び方なので、これを聞いた芸人は「なにそれ? 」と思っているかもしれませんが、些細なことなので見逃されています。
「さん」をつけること
小学生の頃に読んだ、漫画『クレヨンしんちゃん』に殺し屋が出てくる回がありました。悪い人が殺し屋を雇って仕事の依頼をするのですが、殺し屋は雇い主に「殺し屋と呼ぶな」と進言します。八百屋だって、客に「おい、八百屋」と言われたら嫌だろうから「八百屋さん」と呼ぶだろう、自分のことも「殺し屋さん」と呼べ、こう言うのです。
この漫画の思い出が、現在のぼくの職業に対する考え方を形成したような気がします。記事に書く時、絶対に「税理士さん」と書きますし(校正で敬称がカットされていることはありますが)、アイドルなど「さん」をつけることが一般的でない職業の場合は「アイドルの方」と言います。
そのような呼称への意識が、相手の職業に対する敬意の礎となり、円滑な仕事をする上で大切だと考えています。
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