元国税局職員 さんきゅう倉田です。好きな小説の書き出しは「行く確定申告書作成会場のながれは絶えずして、しかも本の列にあらず。」です。
今まで出会った中で、最もお金や社会常識と疎遠な人間は、芸人の同期の西日本だと思っていました。彼は、ギャンブルやお酒、性風俗にもハマることなく、実家に住んでいて借金を300万円作った逸材です。飲む打つ買うの三拍子に関わることなく負債をこさえるなんて、なかなかできません。
彼は、買い物とリボ払いと無計画な生活で借金を形成しました。リボ払いのシステムなどお金のことは知らないし、世の中のルールやマナーもほとんど知りません。一度、パン屋に一緒に行ったら、パンを手で取っていました。トングを使うことを知らなかったようです。
しかし、先日、そんな彼以上に無知な男の子と出会ってしまいました。
敷金も礼金も仲介手数料も知らない
ぼくの知り合った男の子Sくんは、3月に大阪の大学を卒業し、東京の会社に就職をして、4月から東京で一人暮らしを始めました。
就職先は大きな不動産売買の会社です。一人暮らしの物件はこの会社が探してくれたそうです。Sくんは、会社に斡旋された田町駅徒歩5分の物件、家賃6万5,000円が高額だと嘆いていました。
ぼく「別に高くないと思うけど」
S「みんなもっと安いって言ってます」
ぼく「みんなって誰? 」
S「大阪の友達です」
ぼく「大阪と東京じゃ相場が違うでしょう。東京の人に聞かないと」
Sくんはずっとこの調子です。会社の斡旋とのことだったので、仲介手数料について聞いてみました。
S「仲介手数料ってなんですか? 」
ぼく「仲介してくれた不動産屋に払うお金」
S「え! なんで、不動産屋にお金を払うんですか! ? 」
ぼく「タダでは仲介してくれないでしょ」
不動産会社に勤めているのに、仲介手数料を知りませんでした。
ぼく「敷金、礼金は払ったの? 」
S「なんですか、それ? 」
ぼく「敷金は預かり金で、退去時の修繕とかに使うお金、礼金は大家さんの収益」
S「払ってないですね」
ぼく「じゃあ、会社が払ってくれたんだね。良い会社だね」
S「その敷金って、ぼくの手元に戻ってくるんですか? 」
ぼく「会社が払ったんだよね? それなら、君の手元には戻ってこないね」
S「なんで!? 」
このあたりで、説明するのも嫌になってしまいました。さらに、Sくんは、現在の家が狭いことを理由に、今すぐ引っ越しをしたいと言います。
ぼく「引っ越しはお金がかかるよ。例えば、敷金、礼金、仲介手数料、家賃2カ月分で、5カ月分くらいは必要だよ」
S「"5カ月分"って、何の5カ月分なんですか? 」
ぼく「家賃だよ」
まさか、不動産屋の男の子が、「敷金1カ月」の意味を知らないとは思ってもみませんでした。さらに、次の一言でぼくは目をまるくします。
S「でも、引っ越し代は会社が出してくれますよね? 」
ぼく「なんで? 転勤でもないのに、出してくれるわけないじゃん」
S「え!? なんで出してくれないんですか? 」
ぼく「会社は、君のお母さんじゃないんだよ」
自己都合の引っ越しにかかる費用も会社が負担してくれると思っていたようです。
他人の優しさに感謝しない人がいる
Sくんと話して思ったのは、他人の優しさに気づかず、その行為に気づいたとしても感謝をしない人がいるということです。だから、こっそり他人のためになにかをしても、その人はなんとも思わないことがあるし、逆にそれくらいやってもらって当然などと思うかも知れません。
そういうのは、無知に由来していると思います。敷金、礼金、仲介手数料を会社が負担してくれていたと知っても、Sくんは感謝をしていないようでした。 さらに、家賃は本来11万5,000円で、会社が5万円負担してくれていましたが、そのこともなんとも思っていませんでした。大阪の友達に聞いて、それが一般的なことであるか特別なことであるかも確認していません。
無知は、他人の施しに鈍感になります。きっとSくんのような人にはなにをしても無駄なのだ、そう思いました。
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