元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな小説の書き出しは「親譲りの無申告で子供の頃から損ばかりしている。」です。
お金を得るということは、常にリスクやコストを伴います。だから、生きる上で常にリスクを意識してそれを減らす選択をすることが重要です。今回は、ぼく自身で減らせるリスクを減らさずに、失敗した話です。
温かいうどんと冷たいうどん
ぼくがまだ芸人になって1年目の頃です。NSCを卒業したばかりで、"さんきゅう倉田"という名前も賜っておらず、同期とコンビを組んで漫才をしていました。
ある日、NSC担当の社員さんに言われて、8月に1週間ほど行われるお芝居の手伝いをすることになりました。稽古時に、日替わりゲストの代役を務めたり、舞台袖で小道具の準備をしたりする仕事です。ギャラはどうだったかな、なかったような気がします。交通費はかかるけど、ギャラのない仕事です。
本来、そういうのを"仕事"とは言いませんが、1年目で何の仕事もなく、社員さんから指名されることは大変名誉だと考えていました。今となっては何の名誉でもありませんが、全く接点のない先輩芸人さんと交流できることも魅力でした。
その舞台に出演していた8人の先輩は、芸人なら誰でも知っている実力者で、お笑いファンからの絶大な人気がありました。ぼくらからは尊敬や羨望、畏怖の対象でした。
舞台の主役だった先輩は、M-1グランプリの決勝に出場するほどの実力があり、背も高く顔も男前で容姿に恵まれていましたが、今ではバーでアルバイトをしています。右も左も分からないぼくと相方を稽古中に虐げていたので、やはり優しさを持った人だけが売れるんだなといつも思います。
10年経った今ではほとんど辞めてしまい、テレビで活躍しているのはとにかく明るい安村さんのみになりました。お笑いの難しさを感じます。
舞台が始まって3日目のこと、ゲストでいらしたトータルテンボスの大村さんにお使いを頼まれました。大村さんは、屈託のない素敵な笑顔で、ちょっと頼んでいい、と声をかけてくれました。
「なか卯でさ、牛丼買ってきてもらっていい? あと、ちっちゃいうどんも」
「承知しました!」
ぼくは元気良く返事をし、預かった1,000円を握りしめて、なか卯に走りました。テレビでずっと見ていた大村さんに声をかけられて高揚し、いつもより少し早く走れた気さえしました。
なか卯について、牛丼とうどんを注文します。うどんには種類がありましたが、指定がなかったのでオーソドックスなうどんにしました。
しかし、「温・冷」が選択できます。大村さんが所望しているのはどちらでしょうか。うどんに慣れておらず、事前の確認を怠ってしまいました。悩んだ挙げ句、うどんとは基本的には温かいもの。8月のとても暑い日でしたが、何も言わなかったときは「温」、「冷たいうどん」と言われたときに「冷」と判断し、「温」にしました。確率1/2のギャンブルです。
楽屋に帰り牛丼と小さいうどんを渡すと、大村さんはお礼を言って、お釣りをくださいました。ぼくはうどんの温度の是非が気になって、大村さんがうどんを見る前に、楽屋から逃げ出してしまいました。
今思えば、そのような賭けをすることが間違っていたと分かります。芸人のルールとして、お釣りがもらえることが初めから分かっていました。そうであれば、お釣りで「冷」も買っておき、大村さんに選んでもらえば良い。よしんば、お釣りがうどん代に足りなかったとしても、それくらい自分で払えば良い。
数百円で他人の期待に応えられるのなら、費用対効果は絶大です。お金を惜しんでリスクを取るなんて、最も愚かで恥ずべき行為です。ぼくは、リスクを取るかコストを取るか迷ったとき、このうどんの経験を思い出して、リスクを最小限に抑えるようにしています。
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