元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな経費は「使途不明金」です。
会社員のみなさんは、働いてお給料をもらうと源泉徴収がなされており(所得税を天引きすることだよ)、我々個人事業者やフリーランスも、依頼者から報酬を受け取る時は源泉徴収されています(ちなみに、源泉徴収されるお仕事とされないお仕事があるよ)。
個人事業者は仕事にかかった経費を依頼者に請求できる場合がありますが、この経費相当分は、報酬として源泉徴収の対象となるのでしょうか。もしくは実費となり、所得税はかからないのでしょうか。
源泉徴収の対象となる範囲
会社員であればどんな仕事をしていようと、月のお給料が8万8,000円以下であるような場合を除いて、自動的に所得税が引かれています。しかし、個人事業者の場合は、仕事の内容で源泉徴収の要否やそのパーセンテージが異なります。
例えば、プロボクサーであれば、(ファイトマネー -5万円)×10.21%の金額を源泉徴収されます。プロテニスプレイヤーであれば、100万円以下の報酬×10.21%、100万円を超える報酬×20.42%が源泉徴収されることになっています。また、現金ではなく物で支払う場合も、報酬として源泉徴収の対象です。ぼくの仕事であれば、所属事務所を経由したテレビ出演や講演会は源泉徴収の対象ですが、個人的に受けた取材は源泉徴収されません。
個人事業者が立て替えた経費はどうなるのか
取材や都内にあるテレビ局の番組への出演で交通費が出ることはありませんが、地方の仕事の場合は、新幹線やタクシーのチケットをもらいます。このように、直接依頼者が経費を負担する場合は問題ありません。
ただ、ぼくが交通費を立て替えて、報酬を払ってくれる人に実費を請求するような場合は、報酬ではないはずの交通費も、源泉徴収の対象となっています。 つまり、1万円の交通費を負担したのに、経費の請求をしたら源泉徴収をされて9,000円くらいしか振り込まれないので、納税者に優しくありません。しかし、『週刊 税務通信』(税務研究会)が国税庁に行った取材によって、立て替え払いでも実質的に依頼者が直接支払っていると同視できれば、源泉徴収が不要となることがわかりました。
依頼者が直接支払ったとみなされる経費とは
個人事業者が立て替えない経費は、もちろん依頼者が直接支払ったとみなされますが、個人事業者が立て替えても、領収証をもらって、その領収証の宛名が依頼者であれば、依頼者が直接支払ったとみなされます。つまり、領収証をもらうときに、自分の名前ではなく、その仕事を依頼してくれた会社の名前を書いてもらうようにすれば、経費の分は源泉徴収されません。ただ、自動券売機などの宛名のない領収証の場合にどのように扱われるかは、不明です。
消費税も源泉徴収の対象
また、報酬には消費税が含まれています。この消費税も源泉徴収の対象です。例えば、1万円の仕事をして、消費税を含めた1万1,000円を請求すると、1万1,000円からその10.21%を引いた金額が振り込まれることになります。ただし、請求書で消費税が明記されていれば、1万円から10.21%を引いた金額が源泉徴収されることになります。
ぼくの場合、所属事務所へ請求書は出さないし、毎月送られてくる報酬の明細書にも消費税は明記されていないので、支給額全体が源泉徴収の対象です。しかし、どこかの会社と直接取り引きをする場合は、請求書を発行し、そこに消費税を明記しているので、消費税分を除いた本体価格のみが源泉徴収の対象となります。
税の専門家の間でも意見が分かれていた立て替え払いの源泉徴収。質問をした税務通信の記者の方には、深い感謝の意を表したいです。
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