元国税局職員 さんきゅう倉田です。好きな所得は「一時所得」です。

個人事業者になって11年目になりました。個人事業者の良いところはたくさんありますが、会社員との違いのひとつに「取り引きする相手を選べる」という点があります。この担当者とは取り引きをしたくないな、そう思ったらいつでも断ることができます。

販売の仕事ならば、商品の価格が決まっていて、それに対してお金を支払ってもらい、商品を引き渡すことで、関係が終了することが多い。しかし、個人事業者が行う多くの取り引きは、店頭で行われるような一度の相対では終わりません。

連絡を受けて、打ち合わせをし、契約をする。そして役務や商品を提供して、相互確認。請求書を提出し、数カ月後に振り込まれるような一連の流れがあります。

その間、担当者と何度もやりとりをします。場合によっては、毎月一定量の仕事を行い、定額を報酬としてもらうかもしれません。そうすると、ずっとやりとりが続きます。

  • 元国税芸人さんきゅう倉田の「役に立ちそうで立たない少し役に立つ金知識」 - 第156回「税理士さんと2枚の価格表」

みなさんが、携帯電話や住宅を毎月定額で契約したとしても、支払先とやりとりをすることは稀だと思います。しかし、個人事業者の仕事はそうはいかない。だからこそ、楽しい相手とだけ取り引きをします。

価格が決まっていないから

お店の商品や大手のサービスと異なり、価格が不明確なことも、個人事業者の特徴です。例えば、ぼくであれば、執筆や取材、講演の価格を設定していますが、Twitterでもホームページでも公開していません。

これは大変難しい問題ですが、公開によって不利益が起こることが予見されるからです。一般的には、タレントをイベントに呼ぶときの価格やテレビ出演のギャラは公開されていません。それは、仕事の内容や拘束時間が個々の取り引きによって異なること、ある時期を境に価格が高騰することなどが理由だと思います。また、公開することで、他社と価格競争になることを恐れているのかもしれません。

ぼく個人としては、「公開する理由がないこと」が大きな理由です。

価格を変更する税理士さん

個人事業者は取引先との関係が深くなるので、設定した価格を報酬としてもらえるからといって取り引きするとは限りません。設定した価格は、あくまで取り引きしたい相手に対する最低価格であって、無理な注文をする人や礼節を持たない人に対する価格ではないからです。

昔、お台場の方で行われていたとても大きな教育のイベントで、優秀賞をもらったことがあります。ノーベル平和賞を受賞したユヌスさんの講演を見た後、 表彰式に出ると、イベントを主催していた理事が言いました。

「今度、イベントに呼んであげる」

呼んでくださるそうですが、出たいと思っていないし、時間もない。

こういう誘いの場合、報酬を払うつもりもないと思います。自らは「仕事」でこのイベントを行っているのに、出演者には報酬を支払わなくて当然と考えている給与所得者は、世の中にたくさんいます。それは、その人が悪い人なわけではなくて、単に、報酬をもらってイベントに出る人たちがいることとその報酬の相場がいくらになるかを知らないから、そう考えるのだと思います。

個人事業者は、そういう人とは距離をとります。他人の仕事に敬意を払うのが、正常な取り引きだからです。では、そういう人に、取り引きを持ちかけられたらどうするか。

仲良しの税理士さんは、こう言っていました。

「価格表を2枚用意しています。契約したくないな、と思ったら高い方を提示しています。それでも契約したいのなら構いませんが、大抵は諦めて帰っていきます」

ぼくは、価格表を提示することはありませんが、途中で価格を変更することはできないので、数回のメールで相手を見極めなければいけません。そのため、相手の「弊社に来てください」や「ちょっとやってみてください」といった発言に敏感になりました。

みなさんも、自分なりの「良い取引先」を見分ける方法を考えて、取り引きに活かされると良いと思います。

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