元国税局職員さんきゅう倉田です。好きなのれんは「負ののれん」です。
仕事を受けるとき、依頼主と直接やり取りをすることもあれば、仲介人がいることもあります。そして仲介人がいるときは注意が必要です。依頼主の希望や提示した条件が、自分に正確に伝わらない可能性があるからです。
これは、ぼくが未熟だった頃(今でも未熟だけど)、芸人の先輩の依頼で講演をした時の話。
先輩からの連絡
6年くらい前、7期上の事務所の先輩から、地方の医師会で講演をしないかと誘われた。
「内容はなんでもいいんだけど、金額はふたりで10万円。時間は90分。オレ、30分しゃべるから、さんきゅうは60分しゃべってくれ。ギャラは、5万ずつな」
都内の公園に呼び出され、ギャラや医師会の説明をする田中先輩(仮称)。今思えば、自販機すらない、ただの公園で打ち合わせをするような人間を信じるべきじゃなかった。その1カ月後には田中はこう言った。
「先方が、オレの話はいらないから、90分税金の話をしてくれって。いい? ただ、先方がギャラはオレにも払いたいって言ってて、5万円ずつなんだけど、いい? 先方がどうしてもオレにも払いたいって言うからさ」
ぼくは何も聞いていないのに、ずっとひとりで話していた。田中は何度も、地方にあるその医師会に出向いているらしく、特別仲が良いのだろう。先方には紹介料を支払いたいという欲求があるのかもしれない。
飛行機に乗って地方の医師会へ
はじめの提案より負担は増えたが、当時はまだアルバイトをしていたので、5万円の仕事は貴重だった。依頼内容も悪くなければ、依頼主もちゃんとしている。90分で5万円だったら効率の良い仕事だ、安易にそう考えていた。
ぼくはそれまで講演経験がなく、なにをすればいいのかわからなかった。それなのに、依頼主へ連絡をしてニーズを聞き出すこともせず、手探りでスライドを作り本番に臨んだ。結果、当日の講演は60分で終わってしまい、参加者も依頼主も残念そうな顔をしていた。
ここでぼくは依頼主が講演内容に注文をつけずとも、こちらから確認しなければいけなかった。参加者の属性と参加者が何を求めているか、事前に聞かなければいけなかったのだ。
講演の後は、依頼主と医師会のメンバーで打ち上げに行くことになっており、ロビーで待つよう指示された。この待ち時間が長い。なんの連絡もなく、1時間待っても迎えは来ない。案内役としてはるばる飛行機に乗ってやってきた田中は、打ち上げの会場や時間も把握しておらず、ぼくの横で、口を開けて天井を見ていた。
打ち上げ会場は、その県の名物が食べられる居酒屋だった。地域の特産物に舌鼓をうつ。しかし、割り勘だった。講演の後の打ち上げや懇親会で、支払いを求められたのは、後にも先にもこの1回だけだ。講演の内容がよっぽどひどかったのだろう。自らのパフォーマンスのせいだ。自戒の念に駆られた。
仲介者の裏切り
解散してホテルに戻ると、打ち上げ参加者のLINEグループに、依頼主からこんな投稿があった。
「倉田さん、ギャラの15万円なんですけど、ここに消費税を乗せて、源泉を引いて、明日の朝、現金でお渡ししますね」
ぼくは驚いた。ぼくのギャラは、5万円だったはずだ。
「ぼくのギャラは、田中と5万円ずつって聞いていますけど」
「いえ。倉田さんに15万円です。直接お渡しします」
ホテルの同じ部屋でスマホの画面を見ていた田中は、無言を貫いていた。
「医師会が、田中に5万円払いたいから、何もしてないけど5万円ずつって聞いてます」
「いや、知りません」
田中と依頼主のどちらかが嘘をついているが、ぼくにはわからない。翌朝15万円の入った封筒を受け取ると、田中はそれをぼくからむしり取り、10万円を抜いて、言った。
「倉田は5万円な」
予め納得した上でのことなので、金額については異論がない。ただ、依頼主は15万円分の仕事を求めていただろう。
仲介人がいる場合は、依頼主がいくらお金を出しているか、しっかりと考える必要があります。そして、自分の受け取る金額ではなく、依頼主の支払った金額に応じて役務を提供しないと、効用は下がってしまう。
さらに、仲介人を通じて、依頼主と密に連絡を取り、ニーズを必ず聞き出さなければなりません。仲介人がいる仕事の依頼には、注意して自分の役割を考えなければならない場合もあるのです。
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