元国税局職員さんきゅう倉田です。ご近所さんとは、扶養家族ぐるみの付き合いをします。

個人事業者や法人が帳簿や確定申告において仮装・隠ぺいを行うと、「不正」と認定され、支払う税金が増えます。これを「重加算税」といいまして、不正があれば35%増しで税を支払うことになります。

確信犯的に仮装・隠ぺいをする納税者は少数派

国税局の職員は増差(漏れている税金や所得のこと)を見つけつつ、この重加算税を賦課しようと常に考えており、経験と勘と知識とほんのちょっぴりの意地悪な心が結果に結びつきます。

■さんきゅう倉田による用語解説■
帳簿 収入や経費を書いた紙の束
増差 みなさんが確定申告書に書いた所得と税務調査によって増えた所得の差
賦課 税金をかけること

しかし、納税者の方々もそう簡単に仮装・隠ぺいを行いません。ほとんどの納税者がガンジーのように良識のある納税意識の高い高尚な人間で、ミスを犯すことはあっても、ゆめゆめ脱税しようなんて考えてらっしゃらない。

その中でもごくごくたまに行われる仮装・隠ぺいの具体例を挙げると、そのような取引はないのに架空の外注費を計上したり、とっくに辞めた従業員がまだ在籍していることにして架空の給料を計上したり、現金で受け取った売り上げを社長がポッケに入れて売り上げを除外したりなのですが、ミスではなく故意にあるいは、確信犯的にやっている納税者は、少数派です。自らの行動で他人に対し責任を負うことのない一般人である納税者でも少ないのに、公人が同じような不正に傾倒するとは考えられません。でも、しましたね……。

とある地方議会の議員さんが、印刷業者に架空発注をして政務活動費720万円を不正に受け取ったと報じられています。本人は記者会見を開き、「架空発注ではない」と否定しましたが、印刷業者は弁護士を通じて、「実際には印刷の仕事をしていないのに、請求書と領収書を頼まれて渡していた」というコメントを出しました。不正に加担していた人自らが情報をリークしたのです。

政務活動費は議員報酬とは別にもらえるお金で、議員としての活動のための経費に当てます。余ったら返します。

とある地方の議員さんは、この政務活動費を使って印刷業者にチラシを発注し代金を支払いました。代金を支払ったので領収証を受け取って保管します。でも、実際には取引も代金の支払いもなかった!!!かもしれない。おれたちにできないことを平然とやってのけるッ!架空の外注費を計上して、720万円を懐に入れた可能性があるのです。恐ろしい胆力。戦国時代に名をはせた武将の子孫かもしれません。

収支報告書は税務調査の対象外

情報を流した印刷業者には、どのようなメリットがあったのでしょうか。 印刷業者からすれば、チラシの作成で受け取ったお金は売り上げです。売り上げが増えれば、納税も増えてしまいます。税務上の不正は、納税を減らすために行いますので、その逆になるわけです。それではなぜ不正に加担したかというと、きっと、市議に恩を売ることに利点を感じたのでしょう。今回は本人のリークで明らかになりましたが、税務調査があった場合も、入金の確認がとれませんので、市議の不正が明らかになっていたかもしれません。

議員は、収支報告書を提出しますが、確定申告書ではないので、税務調査の対象ではありません。悔しいことに、国税局が出向いて帳簿を確認したり、重加算税を賦課したりすることはできない。帳簿や領収証を見て、本人に聴き取りを行えば、すぐに真実が明らかになるでしょう。でも、できない。

議員は、「現在精査中」とのことで、報道が事実であれば、重加算税は賦課されずとも、詐欺罪に問われる可能性があります。女性とも不正とも手をつなぐ市議の今後の動向が、運動会の天気くらい気になりますが、納税者の規範となるべき行動が望まれます。

執筆者プロフィール : さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら