元国税芸人 さんきゅう倉田です。好きな言葉は「増税」です。きょうから始まりましたこちらの連載は、時事ネタや身近な税法上の取り扱いをさんきゅう倉田がやわらかく解説。みなさんを絶好調時のムドーを一撃でがさ入れできるくらいの税金マスターにします。
はじめに
今回は、「酒税法改正」について。いま、知っておけば、クラスや職場でうんちくを傾けられること間違いなし。改正の理由や、小売店の掲示方法まで知っておけば、酒席で「新聞を読め」と老婆心を隠さない上司の鼻を明かすことができます。
あまり話題になっていませんが、酒税法が改正されてみなさんの生活にも影響が出そうです。6月1日以降、スーパーやディスカウントストア、ドラッグストアなど規模の大きい小売店では、ビール、発泡酒、第3のビールの値上がりが散見されます。これは法改正によってルールが変わったためなのですが、どのように変わったのか、その辺りをひも解いていきたいと思います。
改正内容
主な改正は2つ。簡単にいうと「お酒の過度な安売りの規制を強化した」「酒を売る人は研修が必要」です。国税庁は、次のようにいっています。
製造・卸・小売は、次のいずれにも該当する行為を行ってはいけません。
①正当な理由なく、酒類を総販売原価を下回る価格で継続して販売すること
②自己又は他の酒類業者の酒類事業に相当程度の影響を及ぼすおそれがある取引をすること
(税務署「酒類の適正な販売ルールについて~酒類業者のみなさまへ~」)
つまり、
①賞味期限が迫っているとか展示品だったなどの理由なく、「仕入れ値+経費」より低い金額で販売してはいけない
②町の酒屋さんを苦しめない
みたいなことを言っています。
この場合の経費とは、販売費及び一般管理費、いわゆる「販管費」ですが、販売手数料、販売促進費・広告費、倉庫費、運送費、間接的に要した費用の本社人件費、光熱費、家賃、通信費、減価償却費などがあります。これらを計算して、酒の仕入れ値に加えた金額以上の値段で、販売しなければいけません。
通常の商売で考えると、原価を割って商品販売することなどめったにないように思われます。例えば、オープン記念とか閉店セールとか、何か特別な理由があればそういうこともあるでしょうが、継続的に安い価格で販売されることはない。しかし、こと「酒」に関しては、原価を割って販売されることが常態化されていたわけなんです。
それは、なぜなのかと言うと、酒は致酔性と習慣性を利用した「おとり商品」だからなのです。依存性もあり魅惑的なアルコール類を顧客誘引のために低価格で販売し、やってきた客に他の商品も買ってもらうことで、ペイするという手法です。
これは、酒の販売と天狗のジャーキーの販売のみの町の酒屋さんにはまねできません。さらに、大型の販売店には、メーカーからのリベートがあり、更に販売価格を下げることができます。この場合のリベートは、不正なお金ではなく、仕入れ代金の割戻しです。販売奨励金や広告料の名目でアルコールメーカーから店舗に支払われたりします。それによって、チェーン店と町の酒屋には圧倒的な価格差が生まれてしまいます。これは、不適正な取引慣行である、ということで、今回の改正に至った、というわけなのです。
ルールを守らなければ、「指示」「公表」「命令」「罰則」「免許取消」となる場合があり、6月1日より価格を変更したスーパーマーケットがたくさんありました。義務化される研修には、きっとその辺りの話があるのではないでしょうか。
今後の酒税
聡明な読者の方はご存知かもしれませんが、酒税は今後も段階的に変更されます。ビール、発泡酒、第3のビールの税額は10年かけて一律になることが決まりました。
■今の350mlあたりの税金
ビール(77円)
発泡酒(47円)
第三のビール(28円)
これらは全て(55円)になります。ビールは安く、他は高くなりますので、ビール党にはありがたい。でも、発泡酒や第3のビールは今後縮小してしまうかもしれません。元国税局職員としては、今後のメーカーの対応と酒税の相関から、目が離せないところです。
執筆者プロフィール : さんきゅう倉田
芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行なったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら。