ほほえみの国・タイは、ほんのりスリリング!? 街も人も、なにもかもが新鮮なおもしろローカル旅を50ページ超の描き下ろしマンガとともに描いた、小林眞理子さんの紀行エッセイ『タイランドクエスト てくてくローカル一人旅』(大和書房)より、オススメのエピソードを抜粋してご紹介します。
レンとアップルのフルーツジュース屋
さて、タイから日本に戻るとやはり食べ物は高く感じてしまう。日本の食費は30年以上大差がなく、よくも悪くも現在それはインバウンド集客の大きな武器の1つにはなっている。
一方、タイの物価は確実に高くなっており、食堂のカオパッ(チャーハン)ひとつとっても、ここ30年でみたら倍以上の価格になっている。ただ、それでも2023年現在、タイの屋台や食堂には圧倒的なコスパを感じる。
一皿50バーツだとして、200円であんなにもおいしい焼き飯が日本のどこで食べられるだろうか?
そんな中でも、最もコスパを高く感じられる食べ物がある。果物だ。
タイの果物は、味は元よりコスパが半端ない。市場やスーパーなど街のいたるところで買うことができるのだが、1個2個ではなくキロ単位で売っている。
例えば、ピンキリではあるが、マンゴーだとしたらキロ100バーツぐらいなので、大体400円ぐらいだ。バナナやパパイヤ、パイナップルのように一年を通して収穫できるものもあるし、季節に応じた旬な果物もたくさんある。
ところで、私のバンコクの定宿の近くにはフルーツジュース屋がある。私はそこの店主と従業員でもある店主のガールフレンドと仲よくさせてもらっている。店主の名前はレン、ガールフレンドはアップル。
往々にして、東京でこの手のお店は自由が丘や成城にあって高級感があったりオシャレだったりするのではないだろうか。一方、私がよく行くそのフルーツジュース屋の店舗は軒先2畳ほどのスペースの屋台。店の目の前は、狭い上に2車線の道路でスクーターやら軽トラやらがバンバン通過する。イメージとしては、自由が丘にあるオシャレな店舗というよりは、駅構内にたまにあるジューサーバーの方が近いか。
タイのフルーツジュースは圧倒的な原価の安さから、大体25~60バーツ程度(100円~240円くらい)、基本的にワンサイズで日本のL相当なのでコスパがまったく違う。
フルーツジュースは1つの果物から作るだけでなく組み合わせをすることもできる。つまりミックスジュースだ。そこにヨーグルトや炭酸などをカクテルすることも可能なのでその組み合わせは多岐にわたる。
こちらにとくに希望がないとき、私は大体店主のレンにおまかせで頼んでいる。というのも、「目がショボショボする」といえば、「じゃあ、ミックスベリーとマンゴーだな」「朝たくさん走って汗かいてきた」といえば、「じゃあ、酸味だろう。パッションフルーツにレモンを足すか」「あんま食欲がないんだけど、ごはんのかわりに」といえば、「じゃあ、ヨーグルトベースにアボカドとバナナだな。お通じにもいい」「寝不足なんだけど仕事が終わらない」といえば、「じゃあ、リフレッシュすっか。タマリンドをソーダで割ってやろう、そこにライムを絞りゃ目が覚める」と、ジャストフィットなものをすすめてきてくれるからだ。
また、こちらが何もいわなくても、「飛行機での長旅のあとはこれ」、「ストレスで肌荒れのときはこれ」、「生理不順のときはこれ」といったように適宜オススメをしてくれることもある。そのどれもが的確で効果があり、私にとってレンはちょっとした管理栄養士だ。
そのことをレンに伝えると、「同じ女だからわかるさ」と、レンはテレ隠しにベリーショートの頭をかきながらいうのだった。
『タイランドクエスト てくてくローカル一人旅』(小林眞理子/大和書房)
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