ほほえみの国・タイは、ほんのりスリリング!? 街も人も、なにもかもが新鮮なおもしろローカル旅を50ページ超の描き下ろしマンガとともに描いた、小林眞理子さんの紀行エッセイ『タイランドクエスト てくてくローカル一人旅』(大和書房)より、オススメのエピソードを抜粋してご紹介します。

タイ語を話す

私はタイ語を学んでいるのだが、あまりセンスがないようでなかなか上達しない。

それでも、とくにスクールなどには通わずタイ人の友達に教えてもらいながら気長にやっている。知り得たタイ語を実際にタイ人に使ってみて、問題があれば訂正をしてもらい、通じるとわずかながら進歩する、その繰り返しだ。

タイ語には母音が9個、子音は42個あり、それぞれが高子音、中子音、低子音と3つに大別される。これらを平音以外に2~4種類ある声調と組み合わせて使う。加えて、有気音や無気音といったものがあるのだが、とにかくこれらを間違えるとまったくもって意味が違ってきてしまう(日本語の白と城、橋と箸のような感じ)。

まぁ単語の発音を間違えたとしても、文脈でわかってくれそうなものなのだが、悲しいかな初心者だからそもそも長い文章が話せず、文脈から推測してもらうことができない。

英語や日本語だと、多少単語の発音がおかしくてもなんとなくわかってもらえることは多いのだが、タイ語に関してはそうは問屋が卸してくれない。しっかりとしたタイ語の発音への理解。これがないと伝わることがないと心得ておいてちょうどいい。

ただ、それ以上にタイ語学習を始めた最初のころに大きな壁になることがある。例えば、街の食堂や屋台などで、勇気を出して覚えたてのタイ語でタイ人に話しかけるとする。つまり、初めてのタイ語の実践だ。

何をいうかにはもちろんよるが、先述のアクセントの問題で最初から一発で通じる人はなかなかいない。

そして通じないとき、その壁は現れる。

しかめっ面をされた上に、ものすごい圧で「あぁ!?」といわれることが多々あるのだ。

これを日本人の感覚で「はァ? 何いってるか、わかんねーよ!」的な感じに捉えてしまっても仕方がない。

もちろん、そんなことはない。

これはタイ人にとっては悪意があるわけではなく、わからないときの普通のリアクションだったりする。ただ、その習慣がわかっていないと早速心が折れてしまうレベルの、それはそれは見事な圧がこもった「あぁ!?」なのだ。実際これはタイ語学習をした経験のある人だったら結構受けているタイ語の洗礼だと思う。

逆に、食堂や屋台とかでちゃんと注文が通じると、今度はなぜかノーリアクションで無視されることも結構ある。「おや、オーダーはちゃんと通ったのかしら?」と心配になるほどのスパッとした無視だ。ただ、そういうときは問題なく注文したものを持ってきてくれる。ちゃんとタイ語でいえたんだから、多少ホメも兼ねてリアクションしてくれたらいいのに、とは思うのだがそういう甘えは許されないらしい。

タイ語は獅子のごとく初心者にとことん厳しいのだ。

だからこそ、多少でも通じるようになり始めると超絶嬉しかったりする。

ちなみに私は現在その段階にいる、と思いたい。といっても、やみくもに初心者に厳しいわけではない。必ず手を差し伸べてくれる誰かがいる。そしてタイには、この誰かが非常に多いように感じる。

発音がうまくできなかった場合、相手が知り合いでなくても、聞き返せるタイミングがあるときはなるべく正しい発音を聞くようにしている。

多くのタイ人はこちらがちゃんとできるようになるまで教えてくれる。

ここでいう、ちゃんと、は本当にちゃんと、だ。大体のタイ人は発音に関してテキトーをヨシとしない。自分が許容できる発音レベルまで何度もやり直しをさせるのが常だ。発音に限ってマイペンライ精神(タイ人の細かいことは気にしないという国民性)はどうやら適用されないらしい。

でもようやくできるようになると、チャーイ!(そう!)といって笑ってくれる。

『タイランドクエスト てくてくローカル一人旅』(小林眞理子/大和書房)

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