新年度を迎える時期は、鉄道各社から経営計画の発表が相次ぐ。新線開業、新車導入などの情報が盛り込まれるため、鉄道ファンにとっても注目の情報だ。今年は赤字路線廃止の話題がなくひと安心。新車導入など前向きな発表が多く、その中でも東武鉄道の新型特急車両の発表に注目した。一般紙ではリニアの最高速が世界記録を更新するなど、明るい話題が報じられた。

東武鉄道の新型特急車両500系

スカイツリー5周年に合わせ、東武特急に待望の新車

東武鉄道は4月22日、2017年春に新型特急車両500系を導入すると発表した。3両固定編成を8本新造し、途中駅での分割・併結を可能とする。たとえば、浅草駅を6両編成で出発し、途中の下今市駅で東武日光行・鬼怒川温泉行に分割したり、JR新宿駅を6両、東武線浅草駅を3両で出発し、途中の栃木駅で併結して東武日光駅へ向かったり、といった運用ができる。伊勢崎線系統の赤城・新桐生・佐野方面と都心を結ぶ通勤ライナー・ホームライナーのような運行もできそうで、500系の活躍の場はかなり広そうだ。

500系車両のデザインは奥山清行氏率いる「KEN OKUYAMA DESIGN」が手がける。JR東日本の新幹線車両やフェラーリなど、乗り物のデザインで知られている。東京スカイツリーの先進的なイメージと、沿線の豊かな自然のイメージを融合するスタイルとのこと。車体にはアクティブサスペンションを搭載し、乗り心地も在来車より改善するという。

「日光詣スペーシア」も4月にデビューした

現在の看板車両100系「スペーシア」は、登場から20年が経過している。200系「りょうもう」も同様で、しかも初期型の機器の一部は1960年代の1720系(デラックスロマンスカー)からの流用。300系はリフォーム前の1800系から数えると45年以上も使われている。丈夫で長持ち名車両を大切に使うという姿勢は良いけれど、小田急ロマンスカーなどが新車に置き換わる中で、比較的な古さは否めない。

首都圏の各地向け観光特急が新車を導入する中で、日光・鬼怒川の関係者にとって、東武特急への新車への期待は高まっていたことだろう。本来なら東京スカイツリーの開業に合わせて新車をデビューさせ、相乗効果を期待したいところだ。しかし、東京スカイツリー自体が東武グループの社運をかけたプロジェクトであり、特急の新車にまで手が回らなかったようだ。「スペーシア」のリフォームにとどまった。

4月18日には、日光東照宮四百年式年大祭を記念した金色の「日光詣スペーシア」が登場している。東武鉄道はこのまま在来車のリフォームでお茶を濁すのかな……と思ったら、しっかりと新車プロジェクトを動かしていた。しかも分割・併合という思いきった運用を見据えた前面貫通型の先頭車を採用した。

ところで、前面貫通スタイルといえば地下鉄の避難通路としても使える。100系が登場した時代とは違い、現在は日比谷線に加え、東京メトロ半蔵門線経由で東急田園都市線とも直通運転を行っている。東武特急がすべて500系に置き変えられる頃には、多摩田園都市方面から日光・鬼怒川方面へ走る列車も現れるだろうか?

JR東海、リニア実験線で603km/hの有人走行世界記録達成

4月16日、JR東海は山梨リニア実験線において有人走行最高速度590km/hを達成して、鉄道による世界最高記録を達成した。さらに4月21日10時28分、山梨リニア実験線において603km/hを樹立。世界記録を自ら更新した。JR東海はギネスブックへ申請するとのこと。過去にも当時の世界記録が認定されており、今回も認定される見通しだ。

この世界記録は海外でも報じられ、多くの通信社が記事やビデオニュースを配信した。とくに英国BBCの放送動画が、中国の上海リニア、ユーロスター、日本の新幹線の速度を比較した表を示し、ネットで話題になったようだ。フランス国鉄は4月23日に、「LES SEPT DIFFERENCES ENTRE LE MAGLEV ET LE TGV(リニアモーターカーとTGVの間の7の違い)」というコラムを発表した。「リニアモーターカーは鉄道とは構造が異なり、単純に比較すべきではない」とし、費用などの面で鉄道が優れているという内容だ。

SNCFはリニアの記録を「陸上交通として」認めているし、鉄輪式としてはTGVが2007年4月に574.8km/hという記録を出している。SNCFの主張は間違っていない。高速鉄道の海外輸出において、フランスと日本は競い合っているし、もしかしたらBBCの表の中にTGVが入っていなかったことが悔しく、一筆啓上申し上げたく候、となったかもしれない。

JR東海のスピードへの挑戦は世界記録のためではない。営業運転速度は505km/hの方針を変更していない。今回の実験は高速行きの走行による資料収集が目的で、データは保守コストの算定や乗り心地の向上のために利用されるとのことだ。ただし、東海道新幹線も当初の設計は最高営業運転速度210km/hで、その後の線路改良や技術の進歩によって、2015年3月ダイヤ改正から最高速度285km/hとなった。同じ手法でリニア中央新幹線が時速600km/h運転になるかもしれない。「技術的に可能な速度」は、海外への売り込みにとっても重要な記録といえる。

北陸で活躍した683系が転勤、新形式「289系」誕生へ!

JR西日本は4月28日、特急形電車の新形式「289系」を導入すると発表した。対象の列車は京都・新大阪駅と紀伊方面を結ぶ特急「くろしお」、新大阪駅と北近畿方面を結ぶ「こうのとり」、京都駅と北近畿方面を結ぶ「きのさき」「はしだて」の4系統。先に北近畿方面に導入された287系に続く新形式だけど、新造ではなく改造。今年3月のダイヤ改正まで、名古屋駅と北陸方面を結ぶ特急「しらさぎ」に使用された683系をリフォームした電車だ。

特急「しらさぎ」で活躍した683系2000番台。改造とともに289系へ改番される

289系投入で置換え対象となる国鉄特急形電車381系

形式名「683」の百の位は交流・直流の両方に対応するという意味がある。しかし、「くろしお」「こうのとり」ら4列車は直流電化区間しか走らないため、形式名の百の位を直流を示す「2」とした。ちなみに十の位の「8」は特急を示し、一の位の「9」はモデルナンバーを示す。「683」から「283」にしようとしても、すでに283系は存在しているため「289」となった。

北陸新幹線の開業によって、大阪駅と北陸方面を結ぶ「サンダーバード」、名古屋駅と北陸方面を結ぶ「しらさぎ」は富山駅に乗り入れなくなり、運行区間が短縮された。その他、北陸地域の特急列車の再編成によって、JR西日本などが所有する681系・683系が余った。そこで、「サンダーバード」で余った681系の一部を「しらさぎ」へ転用し、「しらさぎ」で使っていた683系を「くろしお」「こうのとり」「きのさき」「はしだて」に充当する。そしてこれら4列車で使っていた国鉄特急形電車381系を置き変える。

683系から289系への改造にあたり、客室設備もリフォームされる。トイレは和式から洋式へ変更され、男子小用も追加。客室出入口付近の席に電源コンセントを設置し、授乳などに使える多目的室も用意される。これらは従来の381系にはなかった設備で、サービス向上となっている。

381系は、営業列車としては日本で初めて自然振り子機構を採用した記念すべき電車だ。曲線区間の遠心力を軽減し、通過速度を高め、乗り心地を改善した。重心を下げるため、冷房機など機器を床下に収め、屋根上がすっきりとした外観が特徴だ。381系の成功はその後の振り子機構採用車両に影響を与えた。「くろしお」用の車両は日本の在来線最高速度179.5km/hを記録している。今回の施策により、381系の活躍の場は岡山~出雲市間を結ぶ特急「やくも」のみとなる。

リニア開通を見据えて!? JR東海と静岡県がタッグ

4月9日、静岡県とJR東海は共同で観光キャンペーンを展開すると発表した。同日からウェブサイトにて情報展開し、フリーきっぷや旅行商品などを販売している。静岡県の「徳川家康公顕彰四百年記念事業」と、JR東海の東海道新幹線沿線観光キャンペーン「Japan Highlights Travel(ジャパン・ハイライツ・トラベル)」のコラボレーションだ。

富士山をバックに走行するJR東海313系

フリーきっぷは「ふじのくに家康公きっぷ」の名前で、東部版・中部版・西部版の3種類。各地域ともJR東海の在来線と沿線のバス、私鉄などが2日間乗降り自由となる。価格は3種類それぞれ大人1,000円・こども500円。このきっぷと宿泊、新幹線往復きっぷをセットにした商品も主要旅行会社で販売する。

地域と鉄道会社のコラボレーションは珍しくはない。しかし、静岡県とJR東海といえば、新幹線「のぞみ」の静岡駅停車問題でもめた経緯がある。国鉄による新幹線開業時代から、静岡駅に「ひかり」は停車しなかった。1976年、一部の「ひかり」が停まったものの全列車ではなく、1992年に「のぞみ」が運行を始めると、静岡駅は再び最優等列車が停まらない駅となった。この問題は積年の課題となり、2002年に当時の知事が「静岡県内に停車しない列車から通過料聴取する」と発言して物議を醸した。

2009年には静岡駅に停車するブルートレインが廃止され、九州へ乗換えなしで行ける列車がなくなった。静岡県が静岡空港の直下を通る新幹線に対して新駅の設置を求めても、JR東海はトンネル内の駅建設、待避構造にできない場合の輸送力低下、費用対効果と安全性などを理由に否定的だ。リニア中央新幹線も静岡県北部をかすめるだけで、駅はできない。むしろ環境面で大井川水系に影響が心配される。こうした経緯から、どうも静岡県とJR東海は相性がよろしくないと見えた。

ただし、静岡県にとっては、リニア開通後に東海道新幹線のダイヤが見直され、静岡停車の「ひかり」が増えるという期待もある。JR東海としても、東京~名古屋間の東海道新幹線の乗客数減少を予想し、沿線の需要を増やしたい。お互いに関係を密にしたいのかもしれない。今回の観光提携は「両者の冷めた関係を温める」という、うがった見方もできそうだ。

たまたま死傷者がいなかった「山手線架線柱倒壊事故」

4月12日朝、山手線・京浜東北線の神田~秋葉原間で、役目が終わった架線柱が倒れて線路にかかり、危険な状態になった。隣の線路を走る列車の運転士が目撃し、防護発報装置を作動させて付近の列車に知らせたため、幸いにも大事には至らなかった。しかし、架線柱の除去が終わる夕方まで、山手線・京浜東北線は運休した。

山手線・京浜東北線が並行する区間で、架線柱が倒れる事故が発生

この区間では3月25日に新しい架線柱を立て、使用済みの架線柱と梁を撤去した。架線柱は架線を平行に保つため、重りを付けて張力を保つしくみだ。しかし、今回は関連する柱をすべて撤去せず、張力のバランスを崩した柱を残し、それが倒れた。該当する区間は直前まで列車が通行しており、タイミングが悪ければ接触して大惨事になったかもしれない。

報道では工事の手順ミスが指摘されている。しかし、JR東日本の安全意識を問う声も上がった。この柱については、4月10日に傾きが報告され、13日に撤去するよう工事の手配が済んでいたという。そのため11日夜と12日早朝に乗務員から傾きが報告されても放置されていた。乗務員は「事故につながり、自分や乗客、他の乗務員仲間にも危険が及ぶ」と判断して報告しているわけで、報告を受けた側の対応が問題視されている。

この件に関しては、「太田国土交通大臣が激怒」「JR東日本を非難し調査員を派遣」などと報じられている。しかし、その国土交通省が当初は「調査に当たらない」とし、2日後に腰を上げている。この点も批判されて然るべきだ。5月15日に毎日新聞は、運輸安全委員会の初動の遅れを指摘。その背景に「鉄道会社から報告がなければ出動できない」という法令があるためと伝えている。

当日は日曜日で通勤に大きな影響はなかったとはいえ、朝から旅行客などの大混乱が報じられていた。二次情報であっても緊急出動して、早期に原因を割り出し、今後の安全施策に反映させるべきだ。危険を放置できるような法律とその運用に課題が残った。

京都丹後鉄道がスタート、西武鉄道で"DJ列車"など

4月の話題では、北近畿タンゴ鉄道改め「京都丹後鉄道」が発足し、早くも観光客の掘り起こしに成功している。西武鉄道では、乗入れ先の東京メトロ有楽町線新木場駅付近で開催されるクラブイベントとタイアップした"DJ列車"の運行を発表するなど、斬新な取組みも話題となった。この列車は6月に運行予定で、チケットはローソンでも扱う。そのローソンは東京メトロの駅売店に参加するとも報じられた。

車両関係では、阪神電気鉄道が5700系を発表。普通列車用としては20年ぶりの新型車両となる。さらに京阪電気鉄道13000系、東京都交通局も都営大江戸線12-600形の増備を発表するなど、設備投資関連で前向きな話題があった。路線関係では、気仙沼線BRT区間が6月から柳津~前谷地間に鉄道区間と並行して運行されることに。JR北海道の日高本線は大部分の区間で運休が続き、復旧に約26億円必要と報じられるなど、鉄道路線の存続問題として心配だ。

4月は新年度、新学期、人事異動などの時期。鉄道路線や車両にも区切りが訪れる。人事が動く時期は不慣れなことが多く事故も起きやすい。引き締めていきたい。