10月は「鉄道の日」があり、各地で鉄道イベントが開かれた。ところで、2015年10月といえば、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の放送開始20周年。ハリウッド映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』で未来として描かれた年でもある。さて、現代の鉄道は、私たちが子供の頃に描いた未来の姿だろうか……。

10月19日に報道公開された「500 TYPE EVA」

スマートな新幹線車両が走り、ユニークな観光列車が続々と誕生する一方で、赤字ローカル線は危機に晒されたままだ。悪いほうの予想も当たってしまった気がする。いつか2015年10月を振り返ったとき、「楽しい時代だった」と思いたい。誰もがそう思えるように、今月は楽しいニュースをピックアップした。

「エヴァ新幹線」出現! 使徒はカレーライスになった!?

10月19日、JR西日本は「500 TYPE EVA」車両を報道公開した。500系新幹線車両を人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のテーマで大改装。塗装は劇中に登場するエヴァ初号機をモチーフとし、1号車は「展示・体験ルーム」となっていて、「エヴァンゲリオン初号機」のコクピットを設置、実際に座って「使徒」と模擬戦闘できる。

展示物も凝っている。使徒と戦う特務機関「NERV(ネルフ)」の基地を再現したジオラマにさりげなく鉄道コンテナが置かれ、新幹線車両基地のジオラマにエヴァ初号機を載せた貨車があって、ニヤリとさせられる。どうやって運行するんだ? とか、いちいち架線を外すのか? なんて邪推は無粋だ。2号車は通常の座席車(自由席)だけど、「特別内装車」として、ヘッドカバーやウインドウスクリーンが特別デザインになっている。3号車の喫煙室には、劇中でタバコを愛するキャラクターが佇んでいる。

1号車「展示・体験ルーム」、2号車「特別内装車」など、車内の装飾も凝っている

このコラボレーションは、山陽新幹線全線開業40周年と、『新世紀エヴァンゲリオン』テレビ放送開始20周年を記念した「新幹線 : エヴァンゲリオン プロジェクト」のひとつ。JR西日本は今年7月にプロジェクトを発表し、ポスターやキャンペーンサイトを提示していた。その時点で、アニメファンは「なんでエヴァが電車に?」と思っただろうし、鉄道ファンは「何で500系がロボットアニメと?」と、腑に落ちなかったかもしれない。

ちなみに、『新世紀エヴァンゲリオン』の主戦場は関東の箱根あたり。山陽新幹線とは縁遠い。しかし、ポスターに描かれたエヴァ初号機と500系の顔は確かに似ている。疑問が期待に変わって3カ月が経ち、ついに実車がお目見えした。両方を知る人のほとんどは「うまくやったなあ」と感じたことだろう。

『新世紀エヴァンゲリオン』は、少年少女が決戦兵器のロボット「エヴァンゲリオン」に搭乗し、謎の侵略者「使徒」と戦う物語。一方、500系新幹線車両はJR西日本が独自に開発し、関西と九州を結ぶ航空機と戦った(競った)電車だ。新幹線車両として初めて時速300kmの営業運転を実現した。鋭角的なデザインはドイツの会社が手がけており、従来の新幹線車両とは一線を画す。

500系は5年前まで東京駅発着の「のぞみ」にも使われていた。しかし運行本数が少なかったから、全国的な認知度は低いかもしれない。そして「座席配置が他の形式と違う」「室内が窮屈という批判」などの理由で東海道新幹線から引退したといわれている。500系は第一線から退き、現在は編成も短くなって、山陽新幹線の各駅停車「こだま」に使われている。それでもなお、鉄道ファンからは根強い人気だ。この「高性能ながら冷遇された」ようなプロフィールが、『新世紀エヴァンゲリオン』に通じるかもしれない。

このようなプロジェクトは鉄道車両とアニメ作品の両方を知る人にとっては感涙もの。実際にそういう人は多いだろう。しかし、その人たちを喜ばせるだけでは成功と言えない。鉄道ファンにアニメ作品を観て感動してもらいたいし、アニメファンにはこの機会に列車に乗って、鉄道の旅の楽しさを知ってもらいたい。筆者は『新世紀エヴァンゲリオン』のテレビ版を観ただけだけど、この機会に劇場版を観たくなった。良いコラボレーションになりそうだ。

「500 TYPE EVA」は11月7日に運行を開始した。謎の侵略者「使徒」は、博多駅の「500 TYPE EVA Cafe」でカレーライスになっているという。「新幹線 : エヴァンゲリオン プロジェクト」は2017年春までの予定。『新世紀エヴァンゲリオン』の名台詞になぞらえて「全速力でサービス、サービス♪」といきたい。

「すべてがAになる」東海道新幹線、2019年に

山陽新幹線に続いては東海道新幹線の話題。JR東海は10月22日、最新型新幹線車両N700Aの追加投入を発表した。2019年までに全列車をN700Aタイプとし、700系は東海道新幹線から引退となる。

東海道新幹線ではN700A(写真左)の追加投入が決まり、2019年度末までに700系(同右)を置き換える

N700Aは2013年から運行開始した最新型だ。基本設計はN700系と同じで、ブレーキディスクの改良、振動検知システム、線路状況を予測する定速走行装置などを搭載。安全性能を高めた上で、東海道新幹線内の時速285km運転を実現した。

あわせてN700系も改良が施され、N700Aと同等の性能になる。当初からN700Aとして製造された車両は、車体に大きな「A」の文字が入る。N700系からの改造車は、従来のロゴマークのヨコに小さな「A」の文字が追加されている。「スモールA」という愛称で呼ばれているようだ。N700A(ビッグA)もN700系(スモールA)も、走行性能は同じ。ただし、N700Aは客室設備も改良されている。同じN700Aタイプといっても、ロゴの形ほどの違いはあるというわけだ。

鉄道路線は、性能の同じ車両を使うと、列車同士の運行間隔が一定になり、同じ時間内で運行本数を増やせる。だから東海道新幹線の場合、700系とN700系・N700Aが混在した状況で運行本数を最大にするためには、最も性能の低い700系に合わせてダイヤを設定しなければならなかった。700系が引退することで、東海道新幹線は高性能なN700Aタイプに統一される。2019年以降の新ダイヤは、運行本数を最大にして、全列車が時速285kmに対応できるだろう。

N700Aと700系は最高速度だけではなく、加速力も違う。700系の加速度は1.6km/h/s。これは1秒あたり時速1.6km上昇するという意味だ。N700Aは2.6km/h/sである。計算上では、700系は発車から時速100kmまで62.5秒かかる。N700Aは38.4秒だ。つまり、2019年までは700系に合わせてN700Aの性能が抑えられていた。2019年に全列車N700Aタイプになれば、N700A本来の性能を発揮できるというわけだ。4年後のダイヤ改正が楽しみだ。

「車内吊り広告やめません」山手線新型車両、いよいよデビュー

JR東日本は10月13日、山手線の新型車両E235系(量産先行車)について、11月30日から営業運転を開始すると発表した。大崎駅15時18分発の山手線外回りでデビューするとのこと。現在は試運転が行われており、ネット上では写真入りの目撃報告が多数投稿されている。鉄道ファンであるか否かにかかわらず、新しい電車は注目される。東京のど真ん中で利用者が多い山手線らしい現象だ。

山手線新型車両E235系。11月30日のデビューが決まった

E235系の特徴について、外観デザイン以上に車内のデジタルサイネージが注目された。従来の乗降ドア上だけでなく、窓上や隣の車両へ向かう通路の上などにも液晶画面がある。2014年7月、JR東日本がE235系の導入を発表したとき、車内広告のデジタルサイネージを増やすと同時に、中吊り広告を廃止すると報じられた。しかし、今回の営業運転では中吊り広告の存続が決まった。紙媒体を併用した新たな広告価値を追求するとのことだ。

実際のところ、中吊り広告の廃止については当初から決定事項ではなかった。デジタルサイネージ化を進める上で、可能性のひとつにすぎない。報道発表項目にはなく、談話で語られていたようだ。当時、筆者がJR東日本の車内広告を扱うジェイアール東日本企画に取材したときも、「正式決定ではないし、中吊りは後から治具を付ければ設置できると(JR東日本から)聞いている」という話だった。中吊り広告廃止は報道の先走りだったわけだけど、広告業界をはじめ一般の話題にのぼるなど反響は大きく、今回は正式に「やめません」と発表するに至った。

JR東日本はE235系のデビューに先駆けて、前日の11月29日に「E235系初乗りツアー」を実施する。鉄道趣味的にも広告業界的にも、こちらのほうが興味深い。なぜなら、このツアーが山手線ではなく横須賀線で実施されるからだ。

鉄道車両の動向から考えると、東京近郊のJR線でE233系、常磐線ではE231系の派生車種E531系の導入が進んでいるものの、横須賀線・総武快速線はいまだにE217系が走り、新型車両が導入されていない。そこで、横須賀線の次世代車両はE235系の近郊形タイプになるのではないか? という見方ができる。E235系初乗りツアーの横須賀線走行は、その布石とも受け取れる。

広告業界の見方からすると、じつは山手線と横須賀線は同じ広告枠で販売されている。JRの広告は路線単体のオーダーも可能だけれど、「首都圏全域セット」「3線群セット」などというセットメニューが主体だ。「3線群セット」は、路線のエリアごとに「京浜東北線群」「山手線群」「中央線群」が設定されている。この中の「山手線群」には、山手線の他に常磐線と横須賀線・総武線快速、つくばエクスプレスが含まれる。

つまり、今後、常磐線や横須賀線・総武線快速、つくばエクスプレスにE235系、または同じデジタルサイネージ仕様の車両が導入されたら、従来の中吊り広告と同様、デジタルサイネージも「山手線群」として販売できる。そう考えると、E235系は山手線にとどまらず、横須賀線・総武線快速に導入されるかもしれない。もちろんこれは筆者の予想にすぎないけれど、当たるか外れるか、横須賀線の車両動向にも注目したい。

札幌市電のループ化が進捗、忘れられない「Googleロゴ時刻表」

その他、2015年10月のニュースは、札幌市電のループ化開業に向けた試運転開始の発表、北海道新幹線新青森~新函館北斗間の運賃・料金の申請、京成電鉄・北総鉄道と南海高野線・泉北高速線のダイヤ改正(12月5日実施)の発表、京阪電気鉄道のプレミアムカー(2017年導入)の発表など、未来に向けた話題が多かった。

札幌市電については、11月5日に「12月20日開業」が発表されたので、次回で紹介したい。京成電鉄のダイヤ改正では、「シティライナー」の運行終了にともない、長きにわたって成田空港特急として活躍したAE100形の定期運用が消滅する。南海高野線・泉北高速線に有料特急、京阪電気鉄道にプレミアムカーが登場するなど、有料座席設置のブームも起きているようだ。こうした営業戦略の動向も気になるところだ。

最後にもうひとつ。2015年10月で忘れられないニュースとして、10月5日にGoogleのロゴマークが時刻表になり、インターネット上で大きな話題になった。日本の鉄道趣味の盛り上がりが、インターネットにおいて頂点に達した感がある。日本の定期刊行物としての時刻表が出版された記念日とのことだ。10月は日本の鉄道における記念月である。ぜひGoogleの鉄道ネタを定番化して、来年も楽しませてほしい。