2015年になって早1カ月半。3月14日のダイヤ改正に向けた動きが続く中、寝台特急「北斗星」の最終運行日が確定し、東急電鉄の名車2形式の引退も報じられた。寂しい情報だけではなく、北近畿タンゴ鉄道が生まれ変わり、仙石線が全線再開するなど明るい話題もあった。将来の新幹線の動きも気になるところだ。
整備新幹線の開業時期短縮、そのしくみは?
1月14日、政府と与党は整備新幹線検討委員会で、整備新幹線未着工区間の開業予定時期の前倒しを決定した。北海道新幹線の新函館北斗~札幌間は当初の予定より5年早く平成42年度(2031年3月まで)の開業予定。北陸新幹線金沢~福井~敦賀間は3年早く平成34年度(2023年3月まで)の開業予定。九州新幹線長崎ルートの武雄温泉~長崎間も、平成34年度(2023年3月まで)の開業予定を可能な限り繰り上げたい意向だ。
それぞれの財源については、各ルートの貸付料を前倒しするという。一時はJR九州の株式上場益を繰り入れるという案も検討されたが、今回は見送られたようである。
そもそも新幹線の開業時期がどのように決まるかというと、建設費と予算のバランスで決まる。ふんだんに人材や重機などを投入すれば、工期はいくらでも短縮できる。それができない理由は、人材や重機などを手当てする費用が工面できないからだ。
整備新幹線の建設費は、まずJRが想定される利益に見合う費用を支出し、残りの2/3を国、1/3を地方自治体が負担する。国の負担分は公共事業費と既存の新幹線の譲渡収入、地方の負担分は9割が地方債で、地方債償還時は地方交付税が充当される。1割は地方の予算だ。つまり、大部分は国税からの支出となっている。国の予算を新幹線ばかりに使うわけにいかないから、割り当てられた予算内でしか建設できない。
今回の工期短縮は、費用の増額方法を決定したから実現できた。増額は税金ではなく貸付料の前倒しで実施する。整備新幹線は国が保有し、JRに貸し出す方式だ。いままでは開業済みの新幹線の貸付料を整備新幹線の建設費に使っていた。これからは、未開業部分の貸付料の前倒しが加わる。要するに、開業したときの利益を担保にして借金をする形になる。将来の利益を見込んで資金して事業を興すという手法は、会社経営では当たり前のこと。今後の新幹線基本計画路線にも応用していきたい。
各地の新幹線誘致活動が活発化
整備新幹線の工期短縮は2014年末に見通しが立っていた。それに刺激されてか、整備新幹線の次の段階、基本計画路線の早期実現をめざす動きが活発になっている。
1月13日には、山形県が奥羽新幹線(福島~秋田間)、羽越新幹線(富山~青森間)のフル規格新幹線の実現に向けた有識者作業部会を発足した。大学准教授をはじめ、鉄道工学、国土政策、県内経済の専門家6人が選任され、運輸政策研究機構も参加している。山形新幹線のミニ新幹線方式では他の地域との優位性に欠けるとして、既存区間を含めたフル規格化を求めるようだ。
その他、2014年12月には四国4県経済団体が中心となって「四国新幹線に関する検討会」を発足。2013年には鳥取市・松江市・京丹後市の3市長を発起人として、「山陰縦貫・超高速鉄道整備推進市町村会議」が発足している。リニア新幹線の大阪から山陰への延伸も視野に入れるとしている。
しかし技術、ルート、採算性、並行在来線の処遇を検討しても、整備新幹線が開業するまでは国からの資金援助はあてにできない。その整備新幹線開業後の貸付料は借金のカタに取られており、次の路線の建設費には回ってこない。リニア中央新幹線も基本計画路線のひとつで、整備新幹線計画より後回しになっていたため、JR東海は自社で率先して建設すると決めた経緯がある。どうしても新幹線がほしいなら、まず検討すべきは建設資金問題だろう。
沖縄振興予算減額、鉄道計画はどうなる?
1月14日に平成27年度の予算案が閣議決定された。整備新幹線の開業前倒しもこの予算案を受けて決まっている。そしてこの予算案で、沖縄振興予算の減額も決まった。沖縄振興予算は沖縄の本土復帰を受けて、国の責任で沖縄を支援するための予算だ。沖縄以外の県では国が各省庁を通じて支援している方式で、県の担当者が事案ごとに国の各省庁と個別に折衝する。しかし沖縄県については、県の要望を受けて内閣府が一括して予算を決める。
2015年度の沖縄振興予算は約3,340億円。2014年度より162億円の減額となった。2014年度は県の要望よりも増額となったけれど、2015年度は一転して減額となっている。2014年度予算は普天間基地の辺野古移設を決めた知事の要望、2015年度予算は普天間基地の辺野古移設に反対する知事の要望とあって、政府の意向と沿わない知事への牽制との見方がある。政府はこの報道を否定し、「前年度に未執行の予算が多かった」などとしている。
沖縄県には那覇と名護を結ぶ鉄道計画がある。これは政府の沖縄振興策のひとつであり、沖縄振興予算が充当される分野だ。今回の予算減額は沖縄県に用途が任される一括交付金などが主で、目的別の予算については県の請求通り。那覇~名護間の鉄道建設に関する調査費、那覇空港第2滑走路建設費などは維持された。
沖縄県は「ゆいれーる」が開通するまで、鉄道ファンの関心を集める対象が県営鉄道などの遺跡しかなかった。現在は那覇~名護間の鉄道のほか、ゆいレール延伸、南大東島のシュガートレイン復活計画などもある。実現すれば沖縄観光が楽しくなるかもしれない。
さようならブルートレイン
1月23日、JR東日本・JR北海道は寝台特急「北斗星」「カシオペア」と急行「はまなす」について、2015年上半期の運転計画を発表した。「北斗星」は3月14日のダイヤ改正で定期運転が終了し、臨時列車となる。下りの運転時刻は、「北斗星」が2往復だった頃の「北斗星1号」に近い上野駅16時20分発。上りの運転時刻は現在より1時間早い札幌駅16時12分発となった。下りは宇都宮あたり、上りは東室蘭あたりまで明るい車窓を楽しめそうだ。
プレスリリースによると、上野発「北斗星」の最終運転日は8月21日、札幌発の最終運転日は8月22日とのこと。上野~青森間を結んだ寝台特急「あけぼの」は2014年3月に臨時化された。しかも春以降の運転計画がない。今後の運行は難しいとのことで、事実上の廃止といえる。「北斗星」の運行終了で、上野発のブルートレインの歴史が終わる。
「あけぼの」は臨時化されて以降、定期列車時代に連結されていた個室A寝台と「ゴロンとシート」が消えた。臨時列車の終盤は個室B寝台も消え、開放B寝台のモノクラスとなっていた。はたして臨時化される「北斗星」の編成にどんな変化があるか、気になる。
プレスリリースは運転日と運転時刻だけ記載され、サービス内容の変化には触れられていない。JR東日本が運営する「えきねっと」の列車紹介によると、6号車は「半室ロビー車」から「ロビーカー」に変更されるようだ。食堂車の変更は明示されていないので残りそうだけど、どうか最終運行日まで残してほしいところだ。
仙石線全線復旧・仙石東北ライン開業が5月30日に決定
1月29日、JR東日本仙台支社は、「石巻線および仙石線の全線運転再開と仙石東北ライン開業に伴う営業キロの変更及び運賃の適用等について」というプレスリリースを公開した。東日本大震災で被災し、一部不通となっていた仙石線は、5月30日に高城町~陸前小野間が復旧し、全区間の列車運転を再開する。石巻線も被災した浦宿~女川間が3月21日に復旧し、全区間で列車運転再開となる。
また、仙台~石巻間の所要時間を短縮するため、東北本線と仙石線が近接する部分に短絡線を新設し、「仙石東北ライン」として開業する。線路は東北本線塩釜駅から松島駅までの区間の途中で分岐し、仙石線高城町駅の手前で合流する。仙石東北ラインは専用車両のハイブリッドディーゼルカーHB-E210系を新造して導入する。東北本線は交流電化区間、仙石線は前身が私鉄だった経緯で直流電化となっているため、架線から電気を取らない車両となった。
仙石線・石巻線は被災した2011年3月以来、約4年ぶりの全区間再開となる。仙石線の陸前大塚~陸前小野間は内陸部へ移設し距離が短縮され、石巻線の女川駅は旧駅より約200m手前となるため、運賃が若干安くなる場合がある。仙石東北ラインの短絡ルートについては、営業キロを0.3kmと設定し、運賃は東北本線の松島駅を経由したとして計算される。仙台~高城町間は仙石東北ラインのほうが1.3km短くなるため、両駅間で途中下車しない場合は仙石東北ライン経由で運賃を計算する。
これらの新運賃については、5月20日の開業を待たず、3月14日のダイヤ改正から適用され、代行バスを利用した場合の運賃も変わる。
仙石東北ラインとして運行する仙台~石巻間は、震災以降、高速バスが増発され、約1時間20分で結んでいる。運行本数は36往復もあり、運賃は大人片道800円で回数券もある。これに対し、仙石東北ラインの運賃は840円とちょっと高め。ただし、所要時間はJRのほうが20分早い。仙台以外の地域からJRを利用する場合は、運賃が通算される仙石東北ラインのメリットが大きい。仙石線の仙台駅は地下にあり、仙石東北ラインは東北本線の地上ホームから乗車できる。東北新幹線および東北本線から高城町~石巻間の各駅へ行く場合も、仙石東北ラインのほうが乗換えに便利だ。
仙台市では今年12月、地下鉄東西線も開業予定となっている。仙石線・石巻線の全線復旧と合わせて、鉄道による公共交通が充実し、ますます魅力が増えそうだ。
北近畿タンゴ鉄道、長距離バスのノウハウで生まれ変わる!?
長距離バスの運行やオンライン予約サービスで知られるWILLER ALLIANCEが、新たに鉄道事業会社「WILLER TRAINS」を設立。1月29日に事業内容の説明会を実施した。4月1日から北近畿タンゴ鉄道の鉄道事業を引き継ぎ、事業名を「京都丹後鉄道」とする。路線名も変更。駅名については7駅で変更し、観光客や地元の人々からのわかりやすさに配慮するという。列車ダイヤについては、当面の間は3月14日のJRダイヤ改正に関連した修正ダイヤを継続する。ただし、企画切符を増やし、観光列車「くろまつ号」のサービスアップなどの施策を実施。チケットのウェブ割引など、長距離バス運営のノウハウも導入する。
北近畿タンゴ鉄道は線路施設などの保有会社となり、列車運行事業を民間から募集。2014年5月にWILLER ALLIANCEが最終提案事業者に選定された。このとき以来、「ピンクのバスのウィラーがピンクの列車を走らせる」「東京・大阪から天橋立行の直行バスで接続する」と予想する人が多かった。しかし、この日発表された説明会の趣旨はそんな予想を超えて、「鉄道を軸とした地域再生への決意」だった。ピンク色はアクセント程度には入りそうだが、大阪との連絡はJR西日本との連携を重視するとのこと。長距離バスの延長ではない、新しい鉄道事業を手がけると考えたほうが良さそうだ。
「名車の引退」で地方鉄道の車両更新に動きが
熊本電気鉄道は1月16日、5000系車両の平成26年度中の引退を発表した。5000系は1985年に東急電鉄から譲渡された車両で、熊本電鉄は「5101A」「5102A」の2両を保有していた。地元紙の報道によると、引退はこのうちの「5102A」のみで、3月上旬まで上熊本~北熊本間で運行し、残る「5101A」は平成27年度、2016年3月に引退予定とのこと。東京の渋谷駅ハチ公広場に展示されている緑色の電車が、いまだに熊本で走っていることに驚く読者も多いかもしれない。
東急電鉄の旧5000系は、独特の丸みを帯びた正面2枚窓が特徴で、その姿は東急時代から「青ガエル」の愛称で親しまれていた。当時は高性能車両として、東横線の急行などでも活躍。しかしその後、東急電鉄はステンレス製車両を推進することになり、旧5000系は引退。福島交通、松本電気鉄道、上田交通、長野電鉄、岳南鉄道などへ譲渡されたが、いまも現役で運用している会社は熊本電気鉄道のみ。ちなみに現在、渋谷駅ハチ公広場に展示されている「青ガエル」は、上田交通に譲渡され、廃車後に東急電鉄へ里帰りした車両だ。
東急電鉄といえば、1月29日に7600系電車の2月引退と2月7日の記念イベント開催が発表されていた。7600系は18m級のオールステンレス車体で、正面デザインに特徴があり、「ダイヤモンドカット」と呼ばれた。元は1967年から導入された7200系で、編成を短縮するにあたり、先頭車を電動車へと改造して7600系となった。東急電鉄からは全車引退となるけれど、改造前の7200系は上田電鉄「まるまどりーむ号」や豊橋鉄道で活躍中。また、大井川鐵道は十和田観光電鉄線(2012年3月廃止)が保有していた7200系を譲受し、今年度中に営業運転を開始するようだ。
西日本鉄道では1月24日、貝塚線の313形が引退。同日に引退セレモニーが開催された。この電車は1952年に製造され、当初は大牟田線で運用され、後に宮地岳線(現・貝塚線)に転籍した。製造からじつに60年以上にわたって活躍した名車だ。長寿命だけでなく、鋼鉄製車体で初めて支柱を持たず、外板で車体の強度を保つモノコック構造を採用した車両でもある。鋼鉄製車体の軽量化に成功し、前述の東急電鉄旧5000系にも影響を与えた。
ここで挙げた熊本電気鉄道5000系、東急電鉄7600系、西日本鉄道313形の共通点は、「狭軌18m級車両」であること。車体長が18m前後で、国鉄・JRの在来線と同じ軌間(1,067mm)に対応している。かつては国鉄や大手私鉄でも多かった規格で、現在も地方私鉄では標準的だ。そこで多くの地方鉄道が、「狭軌18m級車両」を大手私鉄から譲受する傾向にある。しかし、大手私鉄でこの規格の車両の新造が減り、車両を更新したい地方鉄道にとっては悩みのタネになっている。
一畑電車は当初、中古で2両編成6本と1両単行6台を導入する予定だった。しかし大手私鉄からの中古車両の出物が少なかったため、計画を変更。2両編成3本は元東急電鉄1000系を譲受し、1両単行電車4台は新造、残りは現在の車両を修理して使い続けるという。東急電鉄1000系は、東急東横線や東急多摩川線・池上線で活躍してきた車両だが、東横線と東京メトロ日比谷線の相互直通運転が廃止されたため、余剰が発生した。1000系は18m級車両の中では年式が新しく、東急多摩川線・池上線ではいまも現役。上田電鉄や伊賀鉄道へも譲渡される人気車両となっている。
熊本電気鉄道は5000系の後継車種として、東京メトロ銀座線01系の譲受を決めた。しかし01系は第三軌条方式で軌間も異なるため、新たにパンタグラフを設置し、台車を他車から流用するなどの大改造が必要となる。同様の例として、銚子電鉄1000形(元営団地下鉄2000形)がある。今後も名車の引退と引き替えに、ユニークな改造車の登場が続くかもしれない。
2015年1月はその他にも、JRグルーブから春の臨時列車が発表された。また、私鉄中古車両の他に、JR九州の新型通勤電車305系の試乗会、JR西日本の城端線・氷見線向けキハ40形改造車両、特急「サンダーバード」681系・683系車両リフレッシュ、えちごトキめき鉄道のリゾート列車計画、博物館明治村の蒸気機関車9号の修理完了、国鉄EF55形「ムーミン」の鉄道博物館の保存決定など、車両関係の話題が多かった。