「スカパー! 鉄道チャンネル」(Ch.546)などで放送中の「鉄道ひとり旅」シリーズが累計100回を超えた。ゆったり、まったりとしたリアルな旅が人気の番組だ。旅の始まり、思い出の旅、これからの旅の行方はどうなるのか。
現在は「新・鉄道ひとり旅」として放送されている番組の出演者の1人、“鉄道好き芸人”の吉川正洋さん(ダーリンハニー)にインタビューした当連載。第4回は思い出に残る電車・気動車や旅先での印象的な出会いなどについて紹介していただいた。(聞き手は本誌連載「鉄道トリビア」「鉄道ニュース週報」を担当する杉山淳一氏)
懐かしい電車を見るとうれしいよね
杉山 : 「新・鉄道ひとり旅」では熊本電鉄にも乗っていましたよね(第84話。2018年6月放送)。取材から放送までどのくらいかかりますか?
吉川 : いろいろな都合でけっこう開いちゃうんですよ。だいたい3カ月後くらいに放送されますね。
杉山 : 季節が変わっちゃうくらい。
吉川 : 「衣装が合ってませんよ!」とよく言われます。熊本電鉄はいろいろ降りましたね。八景水谷という駅ではオシャレな古着屋さんがあって、そのお店で次回のひとり旅のための衣裳を買いました。
杉山 : それもぶっつけ本番の飛び込みでしょう?
吉川 : 飛び込みです。その場で交渉します。アポは取らずに。
杉山 : 説明が大変そう。
吉川 : そうですね。もちろん僕が説明します。こういう番組で、ここで降りて、いいお店を見つけたので、入らせていただいたんですけど……って。みなさんびっくりされますね。
杉山 : カメラマンがそばに居るとわかりやすいでしょう?
吉川 : それが、相笠D(番組ディレクターの相笠文寿氏)はちょっと離れたところから撮っているんです。勝手に敷地に入って撮影はできませんから。
杉山 : それじゃ1人だけで交渉ですか。大変そう。
吉川 : 急なので当然断られることも多いですよ。それもリアルですね。
杉山 : 鉄道会社には事前に許可を得るわけですよね。
吉川 : はい。もちろん鉄道会社さんには許可を取ります。でも、大体この路線の中で、どこかで降りますということが多いです。
杉山 : どこかで(笑)。鉄道会社さんによっては、ゆるいところもあれば堅いところあるでしょう?
吉川 : そうですね。でも趣旨をご理解くださって「自由に降りてください」っていうところが多いですね。
杉山 : 「ここで降りてください」というリクエストとか、おすすめとかは?
吉川 : ないですねぇ。ありがたいことにすべて任せていただいてます。
杉山 : 熊本だと当然5000形(※1)ですよね。
吉川 :青ガエルですね。もちろん見ました! ピカピカになってましたよ! あそこは銀座線(※2)もいますし、都営線(※3)もありますし、電車が楽しい路線ですよね。
杉山 : 「くまモン」を貼った銀座線が走る。
吉川 : そうですそうです(笑)。
(※1)「青ガエル」と呼ばれた元東急電鉄5000系。筆者も吉川さんも東急沿線育ちのため、思い入れがある。
(※2)熊本電気鉄道01形。元東京メトロ銀座線01系。
(※3)熊本電気鉄道6000形。都営三田線で活躍した元東京都交通局の車両。
気動車が好きになりました
杉山 : 懐かしい電車の話題が出ましたけど、車両の好みはありますか。古いほうがいいとか新型がいいとか。
吉川 : 熊本電鉄もそうですけど、小さい頃は東急や小田急や京急によく乗ったので、その頃の電車が地方で走っているとグッときます。
杉山 : 小田急のLSEは引退しましたけど、HiSEは長野電鉄にいますね。
吉川 : そうですね。富士急にも元「あさぎり」がいます。元東急電鉄の7000系も福島交通、水間鉄道、弘南鉄道、北陸鉄道にいますね。新玉川線(現・田園都市線)沿線に住んでいたので、長電の元東急8500系も懐かしい。ただ、ひとり旅をするようになって、気動車が好きになってきました。地方はキハ40・47とか多いじゃないですか。僕は東京生まれ東京育ちなので、あんまり気動車に接する機会がなかったんです。
杉山 : ああ、わかります。私も東急沿線で育ったんですよ。池上線の洗足池、旗の台、電車ばっかりのところで過ごしました。だから旅に出て、まずは気動車って面白いなと。関東だと、当時は八高線でキハ35とか。
吉川 : ああ、そうですねー。
杉山 : あと、いすみ鉄道になる前の木原線。
吉川 : 国鉄木原線!
杉山 : 久留里線。
吉川 : 外吊りドアの! あの車両は水島臨海鉄道にひとり旅で行ったときに車庫で見せていただきました。すごく魅力的な車両ですよね。
杉山 : それはうらやましい。
吉川 : あそこは気動車好きにはたまらないですね。
杉山 : キハ20もまだありますか。
吉川 : 車庫にいましたね。旅をするとそういう車両がどんどん好きになりますね。
杉山 : 水島さんは工場の通勤で使われていますよね。観光はあんまり考えてないというか、逆にそれが普段着のローカル線を見せてくれる感じで、いいんですよねぇ。
吉川 : いいですよねぇ。気動車はエンジンの唸りとか振動の伝わり具合がまたいいんですよね。
杉山 : ガリガリガリガリ……ドリュドリュドリュ……っていう。
吉川 : あとはにおいとか煙とか、そういうのがいいと思うようになりましたね。大人になってきたせいか。田園風景を行くタラコ色。もぉう、いいなあ!って。
杉山 : においって大事ですよね。実際に旅した気分になりますよね!
吉川 : なりますよね!
杉山 : 写真だと伝わらないし、テレビもそうですけど。煤の香りとか油っぽさ、なんか目が痛いみたいな臨場感。
吉川 : 気動車って「頑張って走ってる感」があるじゃないですか。
杉山 : 勾配を上がっていくときの、ゴーッという音が大きくなる感じの。
吉川 : ひとり旅をやり始めて、気動車の魅力にすっかりハマりました。
海を越えた出会いもある
杉山 : お客さんとお話ししたりとかは?
吉川 : ありますあります。夕方になると学生さんがたくさん。「なんか撮ってるぜ」とか「あれ誰だ?」とか。そういう会話が聞こえてきて。その流れで学生さんと話したりもします。ひとり旅で生徒さんたちと一緒に乗っていると、彼らがお客さんとして鉄道を支えているんだなと、よくわかります。
杉山 : 通学風景だと、男の子車両と女の子車両が分かれていたり。
吉川 : たしかに分かれて乗ってるところもありますね。
杉山 : ローカル線の通学風景だなって思うんですよね。で、こっちは事情がわからないから女の子車両に乗っちゃって、にぎやかなんだけど「おじさんが混ざってゴメンね」なんて思います(笑)。
吉川 : そういう感じの路線もありますけど、どちらかというと今は混ざってる方が多いですかね。
杉山 : 最近は1両だけの列車も多いから、分けられないかもしれないですね。
吉川 : そうですね。そういえばびっくりしたのは山陰本線に乗った回で、特牛(※4)という駅で降りたんですよ。あまり降りる人がいなくて、秘境駅みたいな感じなんですけど、ホームで「ヨシカワさんですか」ってカタコトで話しかけていただいて。
(※4)特牛駅。「こっとい」と読む。難読駅名としても有名
杉山 : 外国の方?
吉川 : 「モシカシテ、ヨシカワサンデスカ。ワタシ中国の鉄道ファンで、鉄道ひとり旅を観てます」って。カップルで。じゃあ一緒に特牛を旅しましょうかと。
杉山 : 吉川さんと一緒に!
吉川 : 中国でも見てくださっている方がいるんだと思って、うれしかったですね。「特牛」って中国語だとすごくおめでたい響きみたいですね。
杉山 : いいですねぇ。秘境駅の特牛って、何がありましたか?
吉川 : 島があるんですね。バスで、角島大橋を渡って。その橋がインスタ映えするって話題になってるんですよ。
杉山 : ああ、海の上をシュッと延びている橋ですね。
吉川 : はい。橋を渡って海へ行って、すごく楽しかったなあ。そして、後日談があるんです。「鉄道ひとり旅」をクラウドファウンディングでDVDにしようって企画があって、皆さんからご支援をいただいて、DVDが発売されたんです。そこで発売記念にライブをやったんです。相笠Dとステージでしゃべったんですけど、その会場に、特牛で会った中国人の女性が来ていたんですね。
杉山 : え、わざわざそのために日本にいらした?
吉川 : そうなんですよ!
杉山 : それはすごい。
吉川 : 来場していたファンの方のほとんどが特牛の回を覚えていて、「あの人だ」「あの人がいらした」とすごく盛り上がりました。
杉山 : そうか、視聴者というより出演者ですもんね。彼女は。
吉川 : そうです (笑)。僕はまったく知らなかったので驚きました。
杉山 : そういう出会い、いいですねー。
やっぱりそばが好き!
杉山 : さっき古着屋さんの話が出ました。立ち寄るお店はどんなところですか?
吉川 : 食べ物屋さんが多いですね。おそば屋さんが多いです。本当にそばが大好きで。「またそばかい!」とよく言われます(笑)。
杉山 : 印象に残ったおそば屋さんはどこですか。味とか構え、雰囲気でも。あっ、そういえば中央線の駅で、すごく入口が狭いおそば屋さんがありますよね。
吉川 : 塩尻! 良かったですよ。狭くて。2人くらいしか入れない。それが面白いだけじゃなくて、そばが美味しいんですよね。田舎そばって感じで。きのこそばを食べましたが、すごくおいしくて。あと、三沢の、十和田観光電鉄(※5)。あそこも美味しかったなあ。
(※5)十和田観光電鉄。三沢~十和田市間を結んだ。2012年に鉄道事業廃止。
杉山 : 廃止されて残念でした。十和田市駅のそばがうまいという話は聞いたことがあります。
吉川 : 2つあったんですよね。終点の十和田市と起点の三沢と。
杉山 : どちらに行かれましたか?
吉川 : 両方行きました(笑)。
杉山 : え、両方行ったんですか? 乗車時間が何十分も経っていないでしょう……。あ、そうか、降りて散歩して、時間は空いてるんですね。
吉川 : 三沢でも食べ、あまりにもおいしいので十和田市でも食べ(笑)。
杉山 : 塩尻、三沢、十和田市ときまして……。
吉川 : あとは長野の小布施。ふらっと入ったおそば屋さん。ここは駅そばではなくて、おそば屋さんです。
杉山 : 小布施に行って、そばって珍しいかも。観光客は大体「栗おこわ」を食べに行くでしょう。
吉川 : ああ、でもやっぱりおそば屋さんに入っちゃったんですよ。
杉山 : そば、大好きなんですねぇ!
吉川 : 好きですねぇ。やはり長野はそばどころですからたまらないですよね。
杉山 : 私も学生時代の4年間、長野県松本市にいましたからわかります。美味いそばは本当に美味いですね。高いけど。
吉川 : そばは相当食べましたね。
杉山 : 鉄道ファンにとって有名なそばといえば、音威子府ですね。
吉川 : 黒いおそばですね。「鉄道ひとり旅」ではまだ行ってないです。
杉山 : 近いところだと、我孫子の……。
吉川 : 唐揚げが大きくて有名な「やよい軒」。あそこもまだですね。
杉山 : でも常磐線だから、行きづらいかも? ローカル線がのんびりしていていい感じでしょう。「新・鉄道ひとり旅、山手線」と言われても……。
吉川 : いや、逆に行ってみたい気がします。
杉山 : 吉川さん流の山手線の旅、見てみたいかも。