『転職』。それはビジネスマンにとって、その後の人生を大きく左右する転機になり得るもの。働き方改革が推進されている今、自身のより良いビジネスライフのために転職を視野に入れている人も多いはず。ここでは、ビジネススクールで代表理事も務めるビジネス・モデル・デザイナーの中山匡氏に「『他社に求められる人』になるための転職学」をテーマに解説してもらった。
転職は、いわば『戦』
「敵(彼)を知り、己を知れば、百戦危うからず」。これは、軍師として有名な孫子の残した名言だ。敵の実状をしっかりと把握し、加えて、自分の強みも十分に理解していれば、百回戦っても一度も負けるようなことはないという意味である。
実は、その名言には次の言葉が続く。「敵を知らずして己を知れば、一勝一負す」。これは、自分の強みが把握できていたとしても、敵についての情報収集を怠ると、勝ち負けが五分五分になってしまうということを意味する。
転職活動において、企業は決して敵のような存在ではない。が、企業に対して自分の良さを理解して頂き、採用されるために試行錯誤をするという過程は、まさに勝負であり戦いだと言えるだろう。
自分の強みを見つけろ、高めろとは言うものの……
「自分の強みを見つけろ、高めろ」とはよく言われるものである。それが重要であることはさておき、孫子の言葉に基づけば、転職先の企業があなたに何を求めているのかを、しっかりと把握することが必要だということになる。そういったことは既にしていると思うかもしれない。が、本当の意味で実行できている人は、現実的にはそう多いものではないのが実状だ。
当社でも常時求人を行っており、毎月100名ほどの方々にエントリーを頂いている。志望動機の欄には、多くの場合「~がしたいから」、「私は~ができます」といったことが書かれているケースが多い。一方で、当社が期待している業務を通じて、どのような形で力になりたいか、という視点に触れられているのは、多い場合でも5%未満だろう。
求人情報に記載されている内容は、その企業のほんのごく一部にすぎない。最近では、インターネットを通じての集客をどの企業も重視するようになり、Webサイトに企業情報の詳細を掲載する会社が増えている。そういった情報をリサーチの上、その企業が何を目指しているのか、その上で、どんな人材を求めているのかを理解することが重要である。
私自身もそうだが、過去の実績をアピールし、あれができます、これもできますと主張する採用候補者よりも、事前に情報収集をしているのはもちろんのこと、当社がどのようなことを目指しているのかに関心を持って、それについて逆にもっと掘り下げた質問をする候補者の方に関心が向くものである。
転職の勝敗を分けるのは、情報入手
孫子の言う通り、戦争においては、どれだけ相手の情報を把握しているのかが、勝負の半分を決める。先の戦争において、米国は日本がハワイ真珠湾を攻撃し、空母を沈没させることで、戦争を早期に終わらせる戦略を持っていることを、事前に把握していた。その上で、空母をハワイ沖に逃がし、日本に真珠湾を攻撃させた。そのときに叩けなかった空母が、翌年のミッドウェー海戦で、日本を完全に壊滅に追いやり、敗戦への下り坂につながったのは有名な話である(※参考文献:映画『トラ・トラ・トラ』)。
転職活動においては、非道に思える場面も多々ある。他の候補者よりも、客観的に見て能力も実績も優れているのに、面接で落ちてしまうことは決して珍しいことではない。そして、その命運を分ける大きな要素の1つが、どれだけ企業が求めている人材に近いかという観点である。
強みを知り、それを磨いていくことは確かに重要だ。だが、それが、企業の求めていることとずれていたとしたら、どんなに素晴らしい能力があっても採用が見送られる確率が高まることになる。だからこそ、他の候補者以上に、企業が求めているものは何かを知るための努力が重要になってくるのである。
仮に今、営業、財務、人事といった職種の求人があったとした場合にも、現場スタッフの人員不足のために追加採用をするのか、それとも、そういった部門の管理責任者候補を探しているのか、それとも、業務改善を期待されているのかなどによって、求められる人材は変わってくる。
あなたが医療業界での営業の経験値が高いと仮定し、あなたはその営業力をアピールしていこうと考えたとする。一方で、企業としては、医療業界に新規参入するためにあなたの医療業界の知識にこそ、価値を感じている可能性がある。
今、企業に求められる人材とは
最近では、各種SNSを活用すると、自分が関心を持っている企業の社員とつながり、情報収集がしやすい時代である。そこまでするのかと思うかもしれないが、本当にそうしている人が少なからずいるのも事実だ。
企業に求められる人材は、採用面接の場であっても、その企業が何を目指し、そのための課題が何であるのかなどを、逆に質問することに長けていることが多い。
言えることは、他社に求められる人材になるためには、他社が求めていることに応えられるようにすることであり、そのためには、そもそもその会社が本当のところ、何を一番求めているのかを知る努力だということである。
では、以上を大前提とした上で、あなたの強みをさらに伸ばしていくためには、どういうことに注力する必要があるのだろうか? それについては、次回、解説したいと思う。
筆者プロフィール: 中山匡
ビジネスモデル・ロードマップ・デザイナー。一般社団法人シェア・ブレイン・ビジネス・スクール代表理事。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学院修了後、フランチャイズ本部立ち上げ支援最大手の経営コンサルティング会社に入社。31歳で起業し、「月刊アントレプレナー・コーチング」を創刊。2009年には「在宅秘書サービス」を創業。現在、150社以上に導入。1,500名以上の秘書が登録。ビジネスモデルのロードマップを描けるコンサルタント養成にも力を入れ、「ビジネスモデル・デザイナー認定講座」を開講。著書『失敗をゼロにする 起業のバイブル』(かんき出版)。