本連載の第94回では「他部署への異動前にやっておくべき3つの『可視化』」と題し、異動を控えている人がやっておくべきことをお伝えしました。今回は異動先の部署で活躍する人材になるために、この機会に考えておくべきことについてお話しします。

新年度になり、部署を異動したばかりという方も多くいらっしゃるでしょう。環境の変化に戸惑ったり、未経験の仕事内容を覚えるのに四苦八苦したり、色々な苦労があるのではないでしょうか。今は目の前のことをこなすのに必死かもしれませんが、その部署で活躍する人材になるためにこのタイミングでやっておくとよいことがあります。

いち早く業務マニュアルの内容を覚えたり、新しい部署の人達に顔と名前を覚えてもらったり、初めて利用するツールの使い方を習得したりするのは円滑に仕事をこなせるようになる上で重要なのは言うまでもありません。こうしたことは「やって当然」ですが、それだけではその部署で重宝される存在になるというところまではいかないかもしれません。

厳しいことを言いますが、与えられた仕事を求められる品質で納期までに仕上げるだけであれば、他の人でもできるのではないでしょうか。特に細かくマニュアルが整備されていて、高度な判断や創意工夫の余地が少ない仕事であれば別の人でも十分に替えが効くでしょう。

そのような仕事を問題なくこなすことができるようになったとしても、それだけで部署に欠かせない人として周囲から一目置かれる存在になることは難しいかもしれません。

ではどうすればよいかということですが、その部署において「自分をどう差別化するか」が鍵になります。

1. 自分をどう差別化するかを決める

例えば、業務に関する差別化であれば次のようなことが考えられます。

  • 他の誰よりも圧倒的に迅速かつ正確に仕事をこなす
  • どんな難題が発生しても問題解決スキルを活かして必ず解決に導く
  • 仕事のムダを徹底的に省いて部署全体の業務効率を上げる また、組織に関するものは以下のようなイメージです。
  • 新しいことにチャレンジする際に部署の人たちをリードする
  • 部下や後輩のスキル育成に尽力して、いち早く活躍できる人材に育てる
  • 部署内のコミュニケーションを活性化して組織全体のモチベーションを向上させる

これらはあくまでも例ですが、新しい部署で自分をどう差別化するかを考える際の参考になれば幸いです。

2. 差別化の要素を考える際に考慮すべきこと

なお、自分の差別化ポイントを考える際には気を付けるべきことが4つあります。「本当に必要とされているか」「他の人と競合しないか」「ニッチ過ぎることはないか」、そして「自分の強みを活かせるか」ということです。

最初の「本当に必要とされているか」ですが、前の部署では役に立ったスキルや経験などが異動先の部署ではあまり必要とされていないかもしれません。そこで無理に「私はこれが得意です」とアピールしても煙たがられるだけなので注意しましょう。そこのギャップに気が付いたら差別化ポイントを修正して、新しい環境に合わせるとよいでしょう。

次に「他の人と競合しないか」ですが、例えば前の部署ではエクセルが得意で、複雑な計算処理などを同僚から任されていたとしても、異動先に自分よりエクセルスキルが上の猛者が多くいれば、差別化どころではありません。そこで差別化を試みるよりは別の差別化ポイントを考える方が得策です。

「ニッチ過ぎることはないか」については、目指す差別化ポイントがあまりにもニッチ過ぎて活躍の場が限定されてしまうことが問題と言えます。例えば「文書の誤字脱字を誰よりも早く見つけることができる」という差別化ポイントでは、広報などの部署であれば重宝されるかもしれませんが、営業や人事、総務など多くの部署ではそれだけで「活躍する人材」として周囲から認識されるには不十分でしょう。もちろん、誤字脱字を早く見つけられるスキルが役に立つであろうことは言い添えておきます。

そして最後の「自分の強みを活かせるか」ですが、差別化ポイントを考える際に「こうなりたい」という願望だけを基にしてしまうと、このトラップにハマります。

公の場で話すのが苦手なのに「プレゼン力で営業成績トップを取る」などと差別化ポイントを設定してしまうと理想と現実のギャップが大きすぎて実現は困難でしょう。仮に自分が話し下手だったとしても「相手の考えを理解し、気持ちに共感できる」という強みを持っていたとしたら、プレゼン力ではなく「顧客の求めているものを先回りして準備し、それを相手の気持ちに寄り添って提案することで営業成績トップを取る」とすれば、遥かに実現可能性が上がるでしょう。

これら4つのポイントを踏まえて、異動先の部署で自分をどう差別化し、活躍するのかをこの機会に考えてみてはいかがでしょうか。