本連載の第8回では「『マニュアルを守っていればいい』はNG」と題し、業務マニュアルの見直しによる業務改善をどう進めたらよいのかについてお伝えしました。今回は自分に任された仕事の範囲にとらわれないようにすることで、かえって残業削減につながる可能性があることを説明します。
自分の仕事の範囲にとらわれてはいけない
残業が多い会社で話を伺うと、「自分の仕事だけでも手一杯なのに、他人のことまで気にかける余裕はない」という人が少なくありません。自分が忙しいときは往々にして余裕がなくなるので、そのように考えてしまう気持ちはわかります。
ところが実際には、逆説的ですが自分の仕事の範囲にとらわれず周りのことを気にかけることで、かえって部署や自分の業務が効率化されて残業が減る可能性があります。
以下ではその理由を3つ、お伝えします。
理由その1.業務の流れの詰まりが解消される
会社での仕事というのは通常、多くの部署や人を経て行われます。モノや情報が次から次へと追加・加工・伝達されながら次の工程へと進んでいく様は、川の流れのようなものです。
もし自分の仕事が、何らかのトラブルの発生やモチベーションの低下などで進みが悪くなれば、後に控えている人たちの仕事が自分のアウトプットを待つ間、止まることになってしまいますし、自分より前の工程の人の仕事が遅延すれば、今度は自分が待たされてしまうことになります。それはあたかも川の流れが途中でせきとめられてしまうようなものです。
それゆえ自分の仕事の範囲にだけ意識を向けるということは、上流から下流までの川全体の一部だけを見ているのと同じようなもので、そこだけ流れを良くしようとしても、大きな効果を得ることは難しいだろうことは容易に想像がつくでしょう。
したがって、自分の仕事の生産性を大きく上げようとするならば同僚や、場合によっては取引先の協力も取り付けて、自分の仕事の範囲を超えて視野を広げ、最初から最後までの仕事の流れを可視化して、流れが詰まっているところを解消しましょう。
理由その2.メンバー間の繁閑差が平準化される
自分が早めに仕事を終えたとき、同僚で残っている人がいたらどうしますか? 自分が早く帰るためには見て見ぬふりをして、そそくさと帰ってしまうという方もいるでしょう。
しかし、これは短期的にはよくても長期的にはNGです。
一般的には、たとえ同じ部署でも人によって抱えている仕事の量が異なり、繁閑のタイミングにも差があるものです。また、締め切りに追われているときなどは集中して仕事を進めて平常時より生産性が上がったりしますが、そうでないときはのんびりと仕事を進める方も多いのではないでしょうか。これらを考慮すると、自分に余力があるときは多忙な同僚を手伝ったほうが、長期的には自分のためにもなるのです。
例えば、ある日の仕事量が多いAさんと少ないBさんがいたとします。Aさんは集中して仕事を進めていますが、それでも2時間ほどの残業は免れそうもなく、一方のBさんは余裕があり、通常のペースなら定時の2時間前には仕事を終えられそうなのですが、のんびりと仕事をして定時に帰ろうとしています。このときBさんが通常のペースで仕事を進めて、定時2時間前から仕事を多く抱えているAさんを手伝ってあげたら、理論的には2人とも残業せずに帰れることになります。
そしてきっとAさんはこのことに感謝して、立場が逆になってBさんが多忙になってしまった際には、きっと自ら進んで手伝ってくれるでしょう。それゆえ多忙を極めている同僚を助けることは、今度自分が同じ状況に陥ったときの残業を減らすことにつながるのです。まさに「情けは人の為ならず」ですね。
理由その3.欠勤時のカバーが迅速化される
働いていれば誰しも、自分や家族の病気や冠婚葬祭、または有給休暇取得などで会社を休むことはあります。一方で会社としては当然営業を続けているので、休んだ人の仕事自体は止められないことも多々あるかと思います。
そのようなときには周りがカバーすることになりますが、その人たちが常日頃から「自分の仕事のことだけ考えていればよい」と思っているようだと、休んだ人の仕事の内容や進捗などの情報がわからず、右往左往することになります。
例えばAさんが休みの日に取引先から会社に電話があり、「昨日Aさんに出してもらった見積もりの件、条件を見直して5%引きで対応できませんか。急いでいるので今日中に回答をお願いします」などと相談があった場合、Aさんの出した見積もりの資料や条件のやり取りの経緯などの情報が共有されていなければ、それを探すところから始めなければならないので、非常に手間と時間がかかることになるでしょう。
そうならないためにも、部署の中では互いの仕事に関心を持って常日頃から情報を共有し、仕事の進め方についても意見を交わすなどコミュニケーションを取っておくことで、誰かが休んだ際にも迅速な対応ができるように備えておくことが重要です。また、それは自分たちのためだけではなくて、お客様やサプライヤーなど、取引先に迷惑をかけないためにも必要なことです。
会社で働く以上、仕事は自分ひとりだけで完結するものではなく、周りの人たちとの協力は不可欠です。そのため普段から周りの人の仕事にも関心を持ち、ときには助けることも必要です。ただし、それは決して人のために自分自身が身を削るという自己犠牲の精神を持とうというわけではなく、むしろ自分の仕事の効率化に役立つということをご理解いただけたら幸いです。
著者プロフィール:相原秀哉(あいはら ひでや)
株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。