本連載の第86回では「リモートワークがうまくいかないのは本当にリモートワークのせいなのか」と題し、その理由は別のところにあるかもしれないと疑ってみてはどうでしょうか、とお伝えしました。今回は1月29日に小池都知事が提唱された「テレハーフ」についてお話しします。
新型コロナウイルスとの闘いでは緊急事態宣言の効果が見えてきているようですが、医療提供体制は依然として厳しい状況が続いているようです。政府からは以前より、企業に対してテレワークの導入・推進によって出社比率を7割減らしてほしいという要請が出ていますが、達成できている企業は多くはないようです。
そこで1月29日に小池都知事から提唱されたのが、半日や時間単位でのテレワークとローテーション勤務を組み合わせた「テレハーフ」でした。もちろん、これまでにもこうした働き方をしている会社もありましたが、それに分かりやすい名前を付けたことで認知度を上げて一気に広める効果が期待できるかもしれません。
それではこのテレハーフ、テレワークとなにが違うのでしょうか。従来型のテレワークが「終日在宅勤務」を想定しているのに対してテレハーフは、例えば「午前中だけ出社して午後は在宅勤務の人と、午前中は在宅勤務をして午後は出社する人」が混在するといった働き方なのでしょう。
では、テレハーフのメリットには何があるのでしょうか。それには以下の3つがあると考えられます。
テレハーフのメリットその1. オフィスでしかできない仕事があっても対応できる
一つ目のメリットは当然、テレワーク導入の最大のネックになっているであろう「出社しないとできない仕事がある」という壁を取り払うことにあります。接客業など、常に現地にいなければならない職種を除けば多くの職場では「出社しないとできない仕事」と「テレワークでもできる仕事」が混在していて、それがネックになってテレワークの導入に二の足を踏んでいるというところが多いと考えられます。
テレハーフによって出社する時間帯に「出社しないとできない仕事」をこなして、後は在宅勤務としてしまえばこの問題をクリアしつつ、出社比率を下げることができるというわけです。
テレハーフのメリットその2. 引継ぎで情報共有が促される
ローテーションで出社するということは、出社した人が仕事をこなして退社するタイミングで、次の時間帯に出社する人にオフィスでの仕事の引継ぎを行うことが想定されます。もともと全社員がフルタイムで出社していたなら引き継ぐ必要がなかったのでその分の手間は増えてしまいますが、その一方で引継ぎによって社員間で情報が共有されることになります。
情報を共有せずに一人で抱え込んでしまうことは部署や会社にとっては、その人が休んだり退職した際にトラブルが発生したり、業務が滞ってしまうリスクを大きくしてしまいます。そこで、テレハーフの導入に伴う仕事の引継ぎによって仕事に関する情報が共有されることでリスクを軽減させるとともに、組織全体にとっても風通しが良くなることが期待できます。
テレハーフのメリットその3. テレワークのボトルネックが浮き彫りになる
昨年の緊急事態宣言の際に準備不足のままテレワークを導入した企業の多くは、仕事が全く回らずに「テレワークなんてうちには無理だ」とさじを投げてしまったのではないでしょうか。全く準備せずに、それも一気にテレワークに移行してしまえば数多くの問題が発生して収集がつかなくなってしまうのも無理はありません。また、その際の苦い教訓のせいで再度テレワークにトライするのをためらう気持ちも分かります。
そういう会社こそ、まずはテレハーフを試してみる価値があると考えます。半日または時間単位で区切ってローテーションで出社しながら仕事を回せばテレワークに伴うリスクを抑えながらも、そのボトルネックを発見することができるからです。
テレハーフを実践すると「出社しないと絶対にできないもの」「出社しなくてもできるもの」「今は出社しないとできないが、電子化するなど工夫すればできるもの」という仕事の区分けが徐々に分かってくるはずです。それを逐一、皆で共有することでテレワークのボトルネックをあぶりだすとともに、それを解消するための手段についての議論も深まるのではないでしょうか。
このように、テレハーフには単にオフィスへの出社比率を下げるということに加えて、出社比率の低減とオフィスでしかできない仕事の両立が可能になること、組織内の情報共有を促進すること、そしてテレワークのボトルネックを浮き彫りにすること、という3つのメリットが挙げられます。まだ十分にテレワークが浸透していない職場は是非、これを機に試してみてはいかがでしょうか。