本連載の第82回では「リモートワークでも上司を安心させるためにやるべき4つのこと」と題し、上司からの過度な干渉をやめてもらうために自らが取るべき行動をお伝えしました。今回はリモートワークの成否にかかわる心構えについてお話します。
この度の緊急事態宣言の再発令で企業は更なる感染対策の強化を求められています。特に政府からは「出勤者数の7割削減」を目指すのが妥当という考えが表明され、人と人との接触を減らすためにリモートワークのより適用範囲拡大は「待ったなし」の状況です。
その一方で従来のオフィスでの管理スタイルに慣れている企業の多くでは、急にリモートワークになったからといってすぐに管理スタイルをリモートワークに合うように切り替えられるとは限りません。リモートワークを上手く運用するためのテクニックは前回までの記事でお伝えしましたが、本稿ではテクニック云々の前に最も必要な心構えについて触れていきます。
オフィスとは異なり上司と部下が離れた場所にいることによって、上司としては「部下がサボっているかもしれない」と不安になるのは当然でしょう。しかし不安だからといって部下に過度に干渉してしまっては業務効率が落ちる上に部下のモチベーションも下がってしまいます。
リモートワークへの移行というと社員へのノートパソコンの貸与やネットワーク環境の整備、セキュリティーリスクへの対策といったハード面の対応を思い浮かべる方も多いかとお察ししますが、社員ひとりひとりの心構えとして「覚悟」と「信頼」がなければ幾ら立派な環境を構築しても様々な問題が起きることは避けられないでしょう。
上司は部下に任せ、助けを求められたら助けること
まず、上司の側に必要な覚悟には2つあります。1つ目は「部下に任せる」という覚悟です。これは部下に仕事を一旦任せた以上は、それを自分で完了するまで過度に干渉しないということです。「任せる」と口では言っていながら過度に頻繁に「今、どういう状況ですか?」と連絡を取ったり仕事の進め方について細かく口を出したりするようではいけません。一旦任せたのなら覚悟を待ってどっしりと構えましょう。
そして2つ目は「部下から助けを求められたら如何なる状況であろうが必ず助ける」という覚悟です。これは1つ目と矛盾するように感じる方もいるでしょうが、必ずしもそうではありません。部下が自分の力ではどうしても解決できない問題にぶつかって上司の助けを求めてきた時に「あなたに任せたのだから自分でなんとかしなさい」と言ってヒントも何も与えずに突き放してばかりいると、部下としては「困った時に力になってくれないのでは、何のために上司がいるのか」と不信感を募らせてしまってもおかしくはないでしょう。
自分が真に困ったときでも最後は必ず上司が助けてくれるという信頼を持つことは、部下が安心して仕事に精を出すために不可欠なことです。その一方で些末な相談でもすぐに助けてしまうと今度は部下が育たなくなってしまいます。そのため部下からの相談に対しては「あなたはどうすべきと考えますか」と一度問いかけることで部下が思考停止に陥ってしまうのを防ぎましょう。
部下はアウトプットや成果を出し、周りに助けを求めること
次に部下の側に必要な覚悟ですが、こちらも2つあります。1つ目は「上司から求められるアウトプットや成果を必ず出す」という覚悟を持つということです。これは無論、「与えられた仕事をこなせばよい」というのではなく、求められる品質を維持することや納期に間に合わせること、コンプライアンスを遵守することなども含まれます。任された以上は責任を持って自分が完遂するという覚悟を持つことはリモートワークに限らずビジネスマンとして必須のマインドですが、新しい環境下では特に意識することが求められます。
そして2つ目は「自分では越えられない壁が立ちはだかった際には必ず周りに助けを求める」という覚悟です。こちらもまた、1つ目と矛盾するのではないかと捉えられるかもしれませんがそうではありません。仕事をしていて、自分の権限では判断できないような意思決定を迫られることは珍しくはないでしょう。それにも関わらず「この仕事は自分に任されているから」と独断で突っ切ってしまうと却って問題が大きくなってしまいます。
また、発生した問題に対してスキル不足や経験不足のためにどうやっても解決できないと分かったときや、仕事量が多すぎて自分ひとりではにっちもさっちもいかないようなときに自分で抱え込んでしまっても事態は悪化の一途をたどるだけでしょう。このような行動は却って「責任を持って自分で仕事を完了させること」を妨げることにしかなりません。そのため、本当に困った時にはいち早く上司や周りの助言や助けを求めるべきですし、それが責任ある行動のはずです。
ここまで見てきたように、上司も部下もそれぞれの立場に見合った「覚悟」を持って仕事をすることはそもそもビジネスマンとして必要な心構えですし、お互いに姿が見えないリモートワークにおいて、その重要性はさらに向上します。企業で上司の立場の方も部下の立場の方も「覚悟」を持って仕事を進めることで円滑なリモートワークを実現させましょう。