本連載の第79回では「うちにはリモートワークは向いてない、と諦める前に知っておいてほしいこと」と題し、リモートワークを諦めてしまうよくある言い訳は本当に妥当なのか、ということを検証しました。今回はリモートワークの推進を職場の生産性向上につなげるために押さえておくべきポイントについてお話します。

コロナ禍を受けて、元々導入するつもりではなかったリモートワークを余儀なくされたという企業や個人も少なくないかと思います。また、世間的にリモートワークを推進している中で、「自社だけ取り残されてはいけないから」という理由で検討を進めているところもあるでしょう。

例え渋々であったとしてもリモートワークを推進するのであれば、それをきっかけに業務効率を上げて生産性を向上させないと大変もったいないですね。せっかくリモートワークをやると一度決めたのなら、推進の手間に見合ったメリットをしっかり享受したいところです。

但しこのことは「リモートワークにすること」が即ち「業務効率を上げること」に繋がるということを意味しません。それどころか進め方を誤ると、むしろ業務効率が下がってしまうことも十分にあり得ます。そして上手くいかなったら、「やはりリモートワークはわが社には合わない」といって取り組みを諦めてしまう事態にもなりかねません。

それでは、リモートワークの導入・推進をきっかけにして業務効率を上げるために気を付けるべきことは何でしょうか。以下、そのための3つのポイントを解説します。

ポイント1. 既存の業務ありきでリモートワークにしない

リモートワークを導入しようとする企業の担当者から「現状の業務をそのままリモートワークにしたい」というご相談を受けることがしばしばあります。確かに、今の業務を変えることなくリモートワークにできれば取り組みそのものにかかる手間は減るのでお気持ちは分かります。

その一方で、既存の業務プロセスや使用しているツールや社内ルール、組織体制などがリモートワークに適しているとは限りません。例えば紙とハンコを使った決済稟議プロセスを維持したままリモートワークにしてしまうと、稟議書を郵送でやり取りすることになり意思決定スピードが非常に遅くなってしまいます。この例は極端だとしても、稟議書をプリンターで印刷して押印したものをスキャナーで取り込んでPDF化し、それをメールに添付して次の承認者に送るというようなやり方をしているというような場合には要注意です。こちらも郵送ほどではないにせよ、余計な手間と時間がかかってしまうのは明白です。

リモートワークを導入する際には、対象範囲の業務についてシミュレーションを行ってボトルネックになりそうなところを洗い出し、それを解消するように業務プロセスや使用ツール、ルールや組織体制などを変更することまで考えておくとよいでしょう。

ポイント2. 短期間で改善のプロセスを回す仕組みを作る

リモートワークを導入する際のシミュレーションの必要性については既に述べましたが、それだけでは安心するには早すぎます。事前に備えておくことの重要性は言うまでもありませんが、それでもやはり実際にリモートワークを導入すると必ず想定外のことが起きるものです。

そこで、想定外のことが起きるのを「問題」として捉えるのではなく「前提」として捉え、むしろ想定外のことが発生したら「改善機会」として扱い、更なる効率化に繋げることが大事です。そのために、積極的に現場の声を吸い上げて不平不満に関する情報を基に課題を洗い出し、対応策を適用するための仕組みを構築するとよいでしょう。

その際は最初から完璧なものを目指すのではなく、短いスパンでPDCAを回すことで現場の実情に合った効果的な対策を徐々に浸透させていくのが現実的です。

ポイント3. リモートワークへの組織全体の理解を得る

業務プロセスや改善の仕組みに加えて、決定的に重要なのがリモートワークへの組織全体の理解を得ることです。たとえ業務プロセスやツールや制度などが整っても、リモートワークへの理解が不足したままでは業務効率を上げるどころか業務の停滞やミスの発生を誘発しかねません。

そしてリモートワークへの理解を得るには、取り組みを推進する部署から一方的に情報提供するだけでは不十分です。社員からの声に耳を傾けて適切な対応を取る体制があることを何度も伝達して周知徹底しましょう。また、どのような情報でも必ず何らかのアクションを取ることを伝えて安心させることが大事です。また、対象部署で実際にリモートワークを実践する社員はもとより、リモートワーク対象外になっている部署の社員に対しても不都合が生じないようにサポートするのを忘れないようにしましょう。

単に「ツールや制度を整えたから後は自分たちで勝手にやってください」というのではなく、推進する部署がしっかりケアしているというのを伝えることで社員からリモートワークへの前向きな反応を引き出し、それを前提として効率的な働き方へと導くことができるでしょう。