本連載の第73回では「職場で「脱ハンコ」を進める上で押さえておくべき4つのポイント」と題し、今流行りの脱ハンコを効果的に進めるためのポイントをお伝えしました。今回も引き続き脱ハンコに着目し、テレワークを推進するために脱ハンコをどのように進めるべきかをお伝えします。
巷では脱ハンコの動きが加速していますが、このように何かが流行っているというだけで何も考えずに乗っかるようではいけません。ハンコを悪者に仕立て上げて職場から撲滅しようというのではあまりに短絡的と言わざるを得ませんし、下手をすれば却って業務効率が低下する恐れすらあります。特に脱ハンコそのものを目的として捉えてしまっているような場合には要注意です。
「流行っているから」とか「ハンコは悪だから」ハンコをなくせというのではなく「脱ハンコによって何を成し遂げたいのか」という目的をしっかり定義することと、それを関係者の間で共有すること、そして目的を達成するためのポイントをしっかり押さえておくことが何より欠かせません。
現在のコロナ禍における「脱ハンコ」の取り組みの多くは「テレワークを進めたいのにハンコを押すために出社を余儀なくされている社員が存在する」という現状を打破したいというのが目的ではないかと推察します。
目的が「テレワークを進めること」であれば、脱ハンコはそのための手段ということになります。しかしそうであったとしても「脱ハンコ=テレワークの実現」という構図になるほど単純ではありません。
例えば、これまで出社してハンコを押していた書類について押印するのをやめて代わりに署名するようになったとしても、物理的に署名する以上は出社して対応するか郵送で自宅などに送ってもらうといった対応が必要になってしまいます。郵送であれば署名する人はテレワークで対応できますが日数がかかる上に郵送の手間と費用がかかってしまいます。これではかえって業務効率が下がってしまいます。
それでは、以下でテレワークを進めるための手段として脱ハンコを進める際に効率よく行うためのステップをお伝えします。
ステップ1. テレワークの阻害要因を洗い出す
「押印がネックになって出社せざるを得ない」という話は一見もっともらしく聞こえるのですが、だからこそ丁寧に検証していくことが必要です。テレワークを目的とするならば、本来であれば「円滑なテレワークを妨げているのは何か」ということについてよく考えて洗い出すことが先決です。最初からハンコに焦点を絞るのではなく、ハンコも含めて「テレワークを実現するには何を変えなければならないのか」という条件を整理しておかないと、後になって「脱ハンコを達成したのにテレワークが進まない」という本末転倒な状況に陥りかねません。
その上で、やはり押印がテレワーク実現のネックになっているということであれば次のステップに進みます。
ステップ2. その押印、あるいは押印している紙資料自体を単純になくせないか検討する
ビジネスを取り巻く環境や組織、業務は常に変化し続けています。その中で、かつては必要であった業務がいつの間にか不要になっているということはよくあります。もしかしたら、テレワークの妨げになっている押印、あるいはその紙資料は前任者から脈々と受け継がれてきたものの、さまざまな変化によって今は「なくしても困らないもの」になっているかもしれません。
例えば、かつて「電子データは正式な資料とは認めない」という文化が根付いていたような会社では基本的に情報のやり取りを全て紙に印刷し、作成者や閲覧者の確認のために押印していたりします。しかし、会社としてテレワークを推奨するということであればこのような不文律に従う必要はもはやないでしょうし、それに従っていては一向にテレワークの実現など望むべくもありません。押印作業や紙資料そのものをゼロベースでチェックし、なくすことで業務上困ることがあるのかを検証し、何も困らないのであれば躊躇なく資料の作成や押印をやめてしまいましょう。
ステップ3. 紙資料と押印を電子データで代替できるかを検討する
作成・共有している紙資料と押印を問答無用でなくしてしまうと困ることがあるという場合において、ようやく電子化で代替できないかを検討します。なお、一口に電子化といっても色々な方法が考えられます。最も単純なのは今までパソコン上で作成して印刷していた資料について、印刷せずにメールやチャットなどでやり取りすることです。場合によっては共有フォルダを使ってもよいでしょう。そしてどうしても押印が必要だという場合には資料をPDFファイルに変換してデジタル印影で対応するという方法があります。
また、申請承認を行うワークフローであれば、紙資料と押印に替わって全てオンラインで完結できるクラウドサービスのワークフローを導入することで意思決定スピードの迅速化を実現することも可能でしょう。紙資料と違ってオンラインで申請するとすぐに承認者に通知が飛んだり、条件に合わせて承認プロセスを変更できたり、何の案件の承認プロセスがどこまで進んでいるのかという進捗を把握できたり、過去にどの案件が承認または却下されたのかという履歴を確認できたりするので申請承認プロセスを大幅に効率化できる余地があります。もちろん、オンラインで全てが完結するということはテレワークにも適しているということです。
まとめると、テレワークを推進したいからといってすぐに脱ハンコに飛びつくのではなく、まずはテレワークの妨げになっているものを全て洗い出して、ハンコ以外にも視野を広げて対応すべきことを特定します。やはりハンコがネックになっているということであれば、押印や紙資料を単純になくしてしまうことが可能かを考えます。単純になくすことは難しいということであれば電子化で代替できないかを検討する、という流れです。このステップに沿って脱ハンコありき、電子化ありきではなく、効率的・効果的にテレワークを推進しましょう。