本連載の第64回では「スキルを伸ばさないと成果が上がらないと思い込んでいませんか」と題し、すでに自分が持っているスキルを活かすためにどうしたらよいか考えることの必要性をお伝えしました。今回はスキルからメンタル面にテーマを移し、今まさに仕事で悩んでいるという人に向けたお話をします。

仕事で問題が山積していて、今まさに「一体どうしたらいいのか」と悩んでいる人は多いのではないでしょうか。悩み過ぎて心身ともに疲弊しているという方も中にはいらっしゃるかもしれません。

コロナ禍を受けて売上が急減している、慣れないリモートワークへの移行に戸惑っている、職場の人間関係がうまく行っていない、新しく任されたプロジェクトが頓挫してしまっているなど、様々なケースが想定されます。

このような問題の渦中にいる人たちは、目の前で起きている問題への対処に追われて精神がすり減らされる日々を送っているかもしれません。

しかしながら、敢えてその方々にお伝えします。

「仕事で悩むのは時間のムダです」

このようなことを言うと「ムダとはなんだ、こっちは真剣なんだぞ」とか「人の気持ちが分からないのか」と強烈にバッシングされそうですが、それを覚悟の上で敢えてお伝えしています。

では、なぜ悩むのがムダなのかということをお伝えしますが、それは2つの問いに対して論理的に答えると「悩む」という選択肢が消えるからなのです。では実際に見てみましょう。まずは1つ目の問いからです。

問い1. あなたが悩んでいることは、本当に悩まなければならないほど深刻なことですか?

これは「深刻だから悩んでいるんじゃないか」と反論される方もいるかもしれませんが、本当に深刻なのかどうかを今一度、客観的に評価してみてください。意外と、自分が勝手に深刻だと思い込んでいるだけで傍から見るとそうでもない問題というのは世の中にありふれているものです。

例えば「職場の人間関係がうまくいかなくて悩んでいる」という問題を抱えていたとして、その問題が本当に深刻なのかと自問自答してみるのです。その時に「改めて考えてみると、自分は人付き合いが苦手だし煩わしいから実は気にすることはないのかもしれない」とか「自分にとっては趣味や友人との関係の方が大事だし、そちらは良好なので職場での人間関係が少しぐらいうまくいかなくても実はさほど支障がないのでは」などと気が付く可能性もあります。

また、この問いに対して「悩むほど深刻かどうかが分からない」という場合には「悩むほど深刻ではない」と結論づけてしまってよいでしょう。なぜなら、本当に深刻なことであればこの問いに対してYesと即答できるはずだからです。

そして、この問いへの回答がNoであれば「そもそも自分にとってそれほど深刻ではないから悩む必要はない」という結論に至ります。その一方、回答がYesであれば次の2つ目の問いに移ります。

問い2. あなたが悩んでいることは自分で解決できる可能性がありますか?

前提として、この問いには「誰の手も借りずに自分ひとりで」という意味は含まれていませんので、問題を解決できるツールやスキル、お金や人脈などを持っている人に協力を依頼することで解決できる場合も「自分で解決できる」範疇に入ると考えてください。

その上で、自分が何をしてもどうあがいても絶対に解決できない場合にはNo、それ以外の場合にはYesと回答してください。そしてNoだった場合、つまり「自分には為す術無し」と判断した場合には、もはや何もできないので悩んでも仕方がありません。

例えば「自分が任されているプロジェクトの予算が足りなくなってしまった」という問題に対してどれだけ悩んだとしても「予算が不足した」という事実は取り消せないので悩むだけムダです。悩むことで問題が解決することはありませんので、悩むだけムダだと割りきってきっぱり諦めましょう。

一方で、問いに対してYesと回答した場合、つまり「ほんの僅かでも自分が解決できる可能性がある」と判断した場合には、もはや悩んでいる場合ではありません。「悩む」のではなく、「どうやったらこの問題を解決できるのか」ということを考え、それを行動に移すべきです。 そして、それが上手くいけば悩みの種であった問題は解決してなくなりますし、万が一上手くいかなかったら「なぜ解決できなかったのか」という理由を考えて、対応を修正すればよいでしょう。

先ほどのプロジェクトの予算の問題に関して言えば、問いに対してYes、つまり「自分で解決できる」と判断した場合には問題を捉え直して「予算が不足してしまったプロジェクトをここから持ち直すためにどうしたらよいか」という打ち手を考えて実行に移せばよいということになります。「プロジェクトの内容を見直し、今後発生する予算で削れるものがないかを精査する」とか「特例で予算を追加投入してもらえるように上層部を説得する」といった行動に移す余地があるかもしれません。

仕事に関して自分が悩んでいるという場合や同僚が悩んでいるという場合には、これら2つの問いを投げかけて答えを出すことで悩みを解消することができるはずです。それによって悩んでいる時間とエネルギーを、もっと前向きなことに向けましょう。