本連載の第61回では「個人が差別化するために考えるべき5つの問い」と題し、組織だけでなく個人も差別化が求められる中で、自身が提供する価値をベースにして差別化するために考えるべき問いをご紹介しました。今回はさらに別の角度から個人が差別化するための考え方をお話します。

前回のコラムで「価値の希少性」について触れましたが、他の人と同等以上の価値を提供するといっても労働市場に多くの人がいる中で会社の看板を背負わず、一個人として差別化できるほど希少な価値を提供することは難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。

例えば自身の英語力で差別化を図ろうとしても、昨今は本腰を入れて英語学習をする人が多くなっており英語圏への留学経験がある人も珍しくなくなっている上に、そもそもネイティブスピーカーも大勢、日本で働いている現状において英語力だけで差別化を図るのはあまり現実的ではないかもしれません。

ではデザイン力ではどうでしょうか。AdobeのIllustratorやMicrosoft PowerPointなどを駆使してイラストを描いたり図を用いて様々な情報を可視化する力があれば社会で重宝されそうですが、これらのソフトを使いこなせる人もまた年々増えてきている上、一般の大学を出た人がデザイン系の専門学校などで深く学んできたデザイナーに太刀打ちできるかというとなかなか難しいのではないでしょうか。

それならば会議のファシリテーション力で差別化は可能でしょうか。参加者の議論を活性化し、適宜方向修正をしたり論点を整理しながら会議のゴール達成を果たすファシリテーションはどこの組織でも求められる需要の多いスキルと言えるでしょう。それにファシリテーションを高度なレベルで実現できるほどのスキルを持つ人もあまり多くはなさそうです。

しかしその一方、自分がファシリテーションをどれだけできるのかを言葉で説明するのは難しく、それだけで差別化を周囲にアピールするのはなかなか骨が折れそうです。

ここまで見てきたように英語力、デザイン力、それにファシリテーション力での差別化について考えてみましたが、どれも決め手に欠けるようです。

では考え方を変えて英語力、デザイン力、ファシリテーション力の3つのスキルの掛け合わせではどうでしょうか。仮にあなたの英語力が10人に1人のレベル、デザイン力も10人に1人のレベル、ファシリテーション力も10人に1人のレベルだったとすると、単純化して考えると英語力×デザイン力×ファシリテーション力のスキルでは1,000人に1人のレベルになります。それぞれのスキルだけでは10人に1人の差別化にしかならなかったのが、希少性が一気に1,000人に1人のレベルに跳ね上がったということです。

しかしながら、ここで油断してはいけません。英語とデザインとファシリテーションができます、と3つのスキルを並列でアピールしても「1,000人に1人の価値」を感じてもらうことは期待できません。それはスポーツでいえば「バスケットボールとサッカーと野球ができます」と言っているのに等しく、それぞれのスポーツはある程度できても、それによる相乗効果が全く分からないからです。

そこで、アピールするスキルは並列で捉えるのではなく、相互に関連付けて捉えるのがよいでしょう。

先ほどの例でいえば、英語力とデザイン力とファシリテーション力を別々に使うのではなく、それらを組み合わせると何ができるかを考えるということです。そうすると、外国の人を含めた会議において、アプリケーションもしくはフリップチャートを用いて会議の内容をリアルタイムに図にしていく「グラフィックファシリテーション」を英語でできます、ということが言えるかもしれません。

これなら自分が得意な3つのスキルを組み合わせて何ができるのかが明確になる上、できる人が極めて限られるので十分な差別化を図れるのではないでしょうか。

掛け合わせによる差別化は、もちろん例に挙げた英語とデザインとファシリテーションだけではありませんし、スキルでなくても構いません。例えば広告業界の幅広い顧客を担当した営業経験、プロジェクトマネジメント力、それにエンジニアの豊富な人脈を持っていれば、それらの経験、スキル、人脈を掛け合わせて広告業界へのプロジェクトベースでのエンジニア派遣サービスなど考えられるかもしれません。

このようにスキルだけにこだわらず自分が持っている強み、資産は何かを洗い出し、それらを掛け合わせたら何ができるのか、誰にどのような価値を提供できるのか、ということを考えることで個人として強力な差別化ができるかもしれないということです。一度、ご自身のケースで考えてみてはいかがでしょうか。