本連載の第59回では「自分の得意なことに注力できていますか?」と題し、苦手なことの克服より得意なことを伸ばすのに注力した方がよい理由をお話しました。今回は個人が今後生き抜くために差別化を追求することが求められるというお話をします。

これからの時代は個人にも差別化が求められる

競争の激しい業界において企業が存続するには他社との差別化が必要だということは周知の事実でしょう。商品やサービスで差別化できる要素がなければ、価格を下げなければ顧客に買ってもらえなくなってしまいます。そして自社が価格を下げると競合他社も同じように価格を下げて対抗してくるので業界全体の利益率が下がり、体力勝負の様相を呈することになるでしょう。もちろん、資本力があれば体力勝負で勝てるかもしれませんが、そうでない企業が存続するには常に差別化を追求することが求められます。

翻って個人はどうでしょうか。これまでの社会では何かに特別秀でていなくても何事もほどほどにできていれば十分という組織が多かったのではないでしょうか。なぜなら営業などの一部の職種を除いては、個人の成果より把握しやすい勤務態度や努力に重点を置いて評価されていたり、個人よりも組織全体でパフォーマンスを上げていればそれでよしとされていたからです。

しかしコロナ禍によりリモートワークが急速に拡がる中で状況は変わりつつあります。出社しなくなったことで個人の勤務態度や努力している姿などは周囲から見えにくくなり、仕事の評価はアウトプットや成果でしか測れなくなっているからです。

また、リモートワークがさらに進んで常態化すると「仕事の依頼を受ける」→「結果を返す」という極めてシンプルな働き方へとシフトしていき、業務委託に近い形式になることが予想されます。そうすると、仕事の分野や内容によっては自分が依頼される仕事について、アウトソースを請け負っている会社やフリーランスなどの社外のプレイヤーとの奪い合いが起こり、これまで全く意識する必要がなかったはずの社外との競争にさらされることになりかねません。

会社側の立場に立つと、あなたが任されている仕事の価値とコスト(給与+社会保険料+福利厚生費+諸経費など)を社外に依頼する場合と比較して、より費用対効果が高い方に依頼するというのが合理的な判断です。そして社外に依頼するメリットの方が大きいと判断すれば、その仕事はそちらに移管されることもあり得ます。

もちろん、日本の会社では従業員は労働基準法と労働契約法で守られているので、それによってすぐに解雇されるということは考えにくいですが、自分の仕事が奪われて他のやりたくない仕事を回されることになるかもしれません。

差別化を武器にキャリアの可能性を拡げよう

では社員の立場では「これは世の中の流れだから仕方がない」と諦めるしかないのかというと、全くそんなことはありません。むしろこの状況を自身のキャリアアップのチャンスとして活かすことも十分にできます。そのために必要なのが個人の差別化です。

リモートワークで社員の仕事が疑似的に業務委託のような形になることで外部との競争にさらされるということは、裏を返すと市場の原理を活用してより有利なキャリアを手に入れるチャンスが増えるということでもあります。そして、そこで勝ち抜くためには個人としての差別化が必要、というわけです。

自分の仕事で他者との差別化が出来て、それが会社の枠を越えて評価される分野であれば自身の市場価値が高まるので、転職によって今より高い年収をもらえる環境を手にしたり、そのスキルを活かして起業したり、今の職場でもさらに重要なポジションに就いたりするといったように今後のキャリアの可能性が拡がります。

これを機に、ご自身の仕事の差別化について考えてみてはいかがでしょうか。なお次回のコラムでは差別化する際のポイントをお伝えしますので、ご覧頂けましたら幸いです。