本連載の第5回では「仕事を行う際は同時並行ではなく順番に行うこと」によって仕事をより効率的に進められることをお伝えしました。今回は職場での効率的なコミュニケーション手段についての考察をお伝えします。

何でもメールやチャットはNG

最近はLINE WORKSやChatwork、Slack、Microsoft Teamsなどビジネスチャットが普及してきましたが、まだまだ社員間や取引先とのやり取りにはメールを用いている会社が大勢を占めているのではないでしょうか。

特に若手のビジネスパーソンは、コミュニケーションにメールを使用することが多いようで、なんでもかんでもメールで済ませようとしている人をちらほら見かけます。

確かにメールは便利ですが、使い方や使うシチュエーションによっては、かえって非効率になったりトラブルを招いたりする危険もあるので、気を付ける必要があります。そこで、コミュニケーション手段について「情報量」「即時性」「記録」という3つのキーワードを基に、メールに加えて対面、電話、ビジネスチャットの4つのコミュニケーション方法の中から最適なものがどれかを考察します。

言語情報と非言語情報の双方を考慮すべし

最初の「情報量」については「言語情報」と「非言語情報」に分けて考えます。まず「言語情報」についてですが、これは文字通り言葉で伝える情報です。伝えるべき言語情報の量が多い場合、基本的には対面または電話で話した方がメールやチャットより遥かに早く済みますね。

それは一般的には文章を記述するスピードより話すスピードの方が早いことと、文章の場合は「書く」という行為と「読む」という行為の間にタイムラグが生じますが、口頭の場合は「話す」と「聞く」が同時に行われるという違いに起因します。

次に「非言語情報」についてですが、こちらは電話ならば声のトーンや話す速さ、抑揚などによって相手に伝わる情報を指します。また、対面ならば身なり、姿勢、動作、表情、ジェスチャーなどがそれに加わります。この「非言語情報」は「言語情報」に劣らず重要で、特に相手を説得したり、感情に訴えかけたりする際には強力な武器になり得ます。

例えば取引先に迷惑をかけたことを謝罪する際や、大口の取り引きを提案する際などは、チャットやメール、電話よりも対面でコミュニケーションを取ることで「言語情報」に加え「非言語情報」も総動員した方が、相手への誠意が伝わったり、説得力が増したりするので、一般的には成功確率が上がるものと思います。無論、言うまでもなく伝達される「言語情報」と「非言語情報」の双方が適切であることが前提ですが。

ただし、対面や電話は「相手も同じタイミングに同じ時間、拘束される」ことになるので、相手の都合を考慮することが求められる点に気を付けましょう。

情報が届くまでの時間と認識されるまでの時間を考慮すべし

2つ目に挙げるポイント「即時性」というのは「情報が即座に相手に伝わること」です。これについては「情報が相手に届くまでの時間」と、届いてから「情報を相手が認識するまでの時間」の2つに分解して考えてみます。

まず「情報が相手に届くまでの時間」ですが、通信トラブルなどがなければ、メールやチャットは送信直後に届くので意識する間もないほど短いですね。電話は相手がすぐに応じてくれれば即座に情報を伝えられますが、会議中の場合などは時間を置いてかけ直すか折り返してもらうこともあり、その場合は時間がかかります。最後の対面については相手との距離によって大きく異なります。社内、それも席が近くにいる人なら即座に会話できますが、相手が社外の方なら一般的には「アポイントを取ってから」になりますし、移動時間を考慮すると最も時間がかかるということになります。

そして「情報を相手が認識するまでの時間」ですが、対面と電話ではこちらが情報を伝えるのとほぼ同時に認識されるので、通常は無視できるほど短いと言えます。チャットは送ったメッセージに「既読」が付けば認識してもらえたと思いたいところですが、誤操作で開いてしまったけど読んでいない可能性も考慮すると、返信があるまで油断できません。そしてメールも送ったからといって相手が読んでくれているとは限らないですし、読むことを後回しにされている可能性もあります。そのためチャットにせよメールにせよ、相手が情報を認識するまでの時間が予想以上にかかることを常に想定しておき、なかなか返信がないときなどは、送信後に電話をかけてフォローするといった組み合わせも考慮するとよいでしょう。

これら2つの時間を考慮した上で、その時々の状況を考慮し、情報を迅速に届ける方法を選択しましょう。

備忘録または証跡を残す必要性を考慮すべし

3つ目のポイントは「記録」で、これには2つの役割があります。1つ目は「備忘録」としての役割で、もう1つは「証跡」としての役割です。

まず「備忘録」としての役割ですが、こちらは自分が相手に伝えた情報について「いつ」「誰に」「何を」「どのように」伝えたかを後から振り返って確認するためのものです。そして「証跡」としての役割は、後から「言った、言わない」の水掛け論で相手と揉めることがないように、しっかりと文章を残しておくことです。

そして考えるまでもなく、いずれの目的においても対面や電話では録音/録画しない限り「記録」は残らないので、もし残す必要があるのならば、必然的にメールやチャットを使うことになります。ただし、前述した「情報量」と「即時性」との兼ね合いにより、どうしてもメールやチャットだけでは非効率になってしまう場合もあります。

例えば商品の価格や配送方法の条件交渉などは、メールやチャットだけでは言語、非言語問わずやり取りする「情報量」が多くなってしまい、また密なやり取りが必要な点で「即時性」も高くなることもあり、その場合は対面または電話でのやり取りがメインになるかと思います。そのような場合には交渉後に、必要に応じて経緯も含めて、結論をメールまたはチャットに記載して送ることで「記録」を残すという方法をお勧めします。

なお、「備忘録」としての役割なら、ご自身の手元にメモを書いて残しておくだけでもよいのですが、特に相手との重要な交渉事など、「証跡」が求められる可能性のある情報に関しては、場合によっては裁判沙汰になる恐れもあります。必ず手元のメモに留めずにメールかログが残るチャットに記載して相手に送付し、相手の認識と相違がないことを確認しておきましょう。

以上、「情報量」「即時性」「記録」という3つのキーワードを頼りに、適切なコミュニケーション方法について考察してきましたが、いかがでしたでしょうか。目的や状況をよく考慮して最適な方法をとることで、効率的に仕事を進めていただければ幸いです。

著者プロフィール:相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役 慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。