本連載の第57回では「自分の仕事を楽にするための4つの問い」と題し、面倒な仕事を楽にして生産性を上げるための問いについてお話しました。今回は視点を変えて、仕事を楽しもうという意識を持つことによって成果を上げるというお話をします。
最近は減ってきているような気もしますが、今でも「仕事は辛いのが当たり前だ」とか「仕事はつまらないけれど生活のためだから仕方ない」といった声を聴くことがあります。さらには「好きなことは仕事にしないで趣味に留めておくほうがよい」という話を聞く機会もありました。
これらの話を聞いたときに、確かに仕事をしていれば辛いこともあるし、生活していくためには働いてお金を稼がなくてはならないし、趣味としてやっていた方が気楽かもしれず、各々の主張に一理あるとは思いました。
しかしその一方、社会で働く大人たちが楽しみながら生き生きと働かなくてどうする、という想いもあります。毎日、仕事が嫌で憂鬱な大人がうつむき加減で電車に乗っているところを通学途中の未来ある子どもたちに見せるのはいかがなものでしょうか。一社会人として、自分の仕事に誇りを持ち、生き生きと働きに行く姿を見せてあげたいものです。
そもそも自分の仕事が「辛いもの」や「つまらないもの」、「やらされているもの」と認識している人が、自分の能力を100%発揮して最高の成果を上げられるとは到底思えません。その反対に、周囲に「仕事が楽しい」と話している人の多くは難題にも果敢に取り組み、高いパフォーマンスを上げ続けているのではないでしょうか。
このような話をすると「成果が上がっているから楽しいのではないか」という見方もあるが、筆者はやはり「仕事が楽しいから成果が上がる」ものと考えます。その要因は4つあって、1つ目は「視野の広さ」、2つ目は「リスク選好」、3つ目は「周囲への伝播」、そして4つ目は「周囲からの評価」です。
要因1. 視野の広さ
これは既存の枠にとらわれずに斬新な発想ができるかどうかに関わってきます。自分の仕事に対して否定的な感情を抱いている人の多くは「面倒なトラブルを起こさず、巻き込まれずに目の前の仕事を淡々とこなして勤務時間を終えること」を最重要課題として仕事をしているのではないでしょうか。その一方、自分の仕事を楽しんでいる人の多くは視野が広く、仕事の先にいる顧客や周囲の人のことを考え、気遣い、どのように工夫をしたら喜んでもらえるか、というところまで想像して働いています。どちらの方が良い仕事ができるかは言うまでもないでしょう。
要因2. リスク選好
仕事に対して否定的な人は必要最低限のことを達成すればよいという意識が強いので、リスクを伴う意思決定を求められた際には守りに入ってしまう傾向があります。そのため「失敗したらどうしよう」「怒られるかもしれない」「余分なことはやらない方がよい」という意識が働いて新しいことにチャレンジできません。それではリスクは回避できますが、リターンも望めません。また、そのような人は自分の限界を勝手に決めて、そこから出ようとしない傾向があります。自分が確実に成果を上げられる範囲内にとどまり、それ以上のことをしようとしないので新しい学びが少なく、成長も滞ってしまうでしょう。
翻って、仕事を楽しんでいる人が同様にリスクを伴う意思決定を求められると、その可能性に目を向けて「よし、難しいかもしれないけどやってみよう」「やったことがないけど、どうしたらできるか考えてみよう」と、リスクを取ってチャレンジしようという決断を下すことができます。無論、リスクを取る以上は失敗する恐れもありますが、失敗したら二度と立ち直れないほどのハイリスクでない限り、怯まずにチャレンジすることをお勧めします。仮にチャレンジして失敗したとしても、そこから多くの学びを得て成長し、次のチャレンジの成功確率を上げられるからです。
要因3. 周囲への伝播
これは一緒に働く人への影響の話です。毎日長時間、一緒に仕事をする人というのは良くも悪くも周囲に影響を与えるので、もし自分が仕事を嫌々していて「仕事がかったるい」と口癖のように言っているのだとしたら、同僚の士気の低下を招いている恐れがあります。そして、同じように仕事に否定的な感情が職場全体に蔓延してしまうと成果を維持するのも困難になることが想定されます。
しかし反対に、自分が仕事に対して前向きに生き生きと仕事をしていれば、それもまた周囲に伝播して職場全体に好影響を与えます。多くの人のモチベーションが上がって、全体としても成果を上げやすい環境が整うことが期待できます。
要因4. 周囲からの評価
これは偏に「つまらなさそうに仕事をしている人」と「生き生きと楽しそうに仕事をしている人」のどちらの人と一緒に仕事をしたいですか、という問いに関連します。
仕事に対して否定的な人と共に仕事をしたいという人は稀でしょう。そのような人から何かしら頼み事をされても、仕事だから引き受けるのはやむを得ないとしても関与を最低限にしたいという意識が働くのではないでしょうか。それに対して仕事を前向きに捉えて生き生きと働いている人からの頼みであれば、進んで引き受けようということになるのではないでしょうか。
また、上司が部下を評価する際にもどちらが好印象かは一目瞭然です。上司も感情を持った人間ですから、もしも営業成績が全く同じ営業担当者が2人いて、1人が仕事を渋々やっていてもう1人が生き生きやっていたら、後者をより高く評価すると考えられます。
ここまで、せっかく同じ仕事をするなら成果を上げるためにも楽しんでやった方が良い理由をお伝えしました。もし仕事がつまらないし成果も芳しくないと悩んでいる人がいたら、まずは仕事を楽しもうと意識を変えるところからチャレンジしてみてはいかがでしょうか。