本連載の第56回では「自分の業界から遠い人との繫がりを持とう」と題し、自分の業界からかけ離れた人との繫がりが斬新なアイディアやイノベーションを生むのに役立つ、というお話をしました。今回は自分の仕事を楽にするにはどうしたらよいのか、というお話をします。
自信を持って「仕事が楽しい」と言える人は世の中にどれくらいいるでしょうか。統計調査をしたわけではないのであくまでも主観ですが、「楽しくない」と回答する人も一定数いるのではないかと思います。
実際に、このような声を聞くことがあります。
・面倒臭い仕事ばかりやっているとモチベーションが上がらず、ついダラダラやってしまう
・正直、面白くもないので頑張ろうという気も全くない
・つらいだけの仕事なので仕事が終わってからの趣味や食事を拠り所にして働いているだけ
・日曜日の夜になると翌日仕事に行くのが億劫で精神的にきつい
もはや「仕事はつまらないものだ」と割り切っている人も中にはいますが、一日のほとんどの時間を費やす仕事が楽しくないというのは大変もったいないと思いませんか。それならば面白い仕事をするために、つまらない仕事にかける時間と労力を減らしませんか。
やりたくない仕事はやらずに済めばそれでよし
つまらない仕事を毎日、渋々やるくらいなら嫌いな仕事を極力やらなくて済むようにして、面白い仕事にシフトできたらいいですよね。そんな都合の良い話は胡散臭いと思われるかもしれませんが、しっかり考えれば自分の抱えている面倒な仕事について、その全てとは言いませんが部分的に減らせる可能性はあります。ここではそのための4つの問いをご紹介します。
問い1. その仕事は本当に必要か?
この問いは、今やっているその仕事が本当に必要なものかどうかを問うものですが、「こんなこと考えるまでもない、必要に決まっている」とお怒りになる方もいるかもしれません。
では次に、その仕事が必要だと回答頂いた方に伺います。
「その仕事はなぜ必要なのですか?」
このような問いかけをすると、「上司からの期待に応えるため」「会社の規則で決まっているから」とか「前任者から引き継いだため」といった返答が返ってくることがあります。しかし、これらの返答はいずれも的外れと言わざるを得ません。本来、仕事である以上は「誰かに」「何らかの価値を」提供するものであるはずで、それこそが「その仕事が必要な理由」なのです。
その仕事の必要性を明確に説明できないのであれば、その仕事そのものが実はやらなくても困らないものなのかもしれませんので、上司や関係者に相談してみてはいかがでしょうか。
問い2. 自動化できないか?
先ほどの問いで、その仕事が必要な理由がはっきりと説明できたら無くすことはできませんが、まだ諦めるのは時期尚早です。やりたくない面倒な仕事をやらずに済むための二つ目の問いは「その仕事、自動化できないか?」です。
もしも、その仕事の価値を自動的に提供できるのであれば、わざわざ時間とコスト、労力をかけて人が行う必要はないはずです。人がやる場合と同等以上の質を保つことができるならば、「早く、安く、手間をかけずに」できる方法を選択するのは合理的です。
ではどうすれば自動化が可能かということですが、その点に関しては仕事の内容によって異なるので唯一絶対の解は残念ながらありません。ただし、自動化し易い仕事というものはあります。以下では2つの例を示します。
例えば電卓を使って大量に計算・集計した結果を書類に記入したり表計算ソフトに入力したりしているという仕事があれば、表計算ソフトの機能を駆使することでほぼ確実に計算・集計の部分を自動化することが可能です。さらにはExcelのマクロという機能を使うことで計算・集計以外でも定型的な作業の多くを自動化できます。そして、自動化の仕組みを入れることで作業が楽になることに加えて精度が飛躍的に向上することも期待できます。
また、顧客や他部署からの頻繁な問い合わせへの対応であれば、予め自社のサイトに「よくある質問」のQ&Aを掲載して誘導したり、最近では問い合わせに自動で応答してくれるチャットボットもあるので、それを活用したりという手もあります。
問い3. 簡素化できないか?
この問いは面倒な仕事を「やらずに済ませる」というわけにはいかないものの、面倒臭さを軽減するためのものです。その仕事が必要な理由、つまりは仕事の目的を達成するために最低限必要な要素を満たすことに集中して、後はバッサリと切り捨てられるところがないかを検討するということです。
純粋に作業量を減らしたいということであれば、例えば資料に毎日入力している項目が100項目あったとして、それを半分に減らして困ることはあるかと考えてみてはいかがでしょうか。もし特に誰も困らないのであれば入力する手間が半分になります。または、入力する頻度を半分に減らしてみたらどうだろう、と考えてみるのもアリです。両方実現したら、単純計算で労力が4分の1になりますね。
また、何かを分類したり判断したりするときのルールが文書化されておらず、その都度上司にお伺いを立てなければならないという場合には、そのルールを整理して文書にまとめてしまえば次からはわざわざお伺いを立てる必要はなくなります。また、ルールは文書化されているものの複雑過ぎて毎度読み解くのに時間がかかるのであれば、ルールを見直してシンプルに作り直したり、図や絵を用いて直感的に理解できるものにしたりすることで手間を省けるかもしれません。
問い4. トレードできないか?
ここまでの問いのいずれも適用できない場合にも最後の手段が残されています。それは、同僚との間で仕事をトレードすることです。この問いの根底には「人にはそれぞれ異なる強みがあるはずで、自分が苦手なことは他の人が得意かもしれないし、その逆もまた然り」という考え方があります。
例えば、自分が「大量のデータ入力が苦痛でしかたない」と感じていて、しかもミスが多くて頻繁に周囲に迷惑をかけている一方、「顧客や他部署との調整や交渉ごと」は得意だったとします。一方で、同僚の中に「大量のデータを素早く正確に入力すること」が得意で作業中は時間の経過を忘れてしまうくらい没頭するものの「顧客や他部署との調整や交渉ごと」は大の苦手で、この仕事のせいで鬱々とした日々を送っている人がいたとします。
この場合、お互いの仕事をトレードすれば双方共、やりたくない仕事の比率を下げて自分の好きな仕事の比率が上がりますし、生産性が飛躍的に上がるのではないでしょうか。
もちろん、得手不得手が正反対の同僚がいないと成立しませんし、仕事を割り振る上司の意向や組織としての役割分担もあるでしょうから、そこのハードルをクリアすることが前提です。ただ、ハードルがあるからといって最初から諦めることはありません。各々が自分の強みを活かせる仕事に集中できれば組織全体としても生産性が上がるはずですから、一考の価値はあるのではないでしょうか。
さて、本稿では仕事を楽にするための考え方をお伝えしました。仕事を楽にすることは決して悪いことではなく、「頭を使って仕事を効率化し、生産性を上げる行為」と捉えることができます。ぜひ、ご自身の仕事でも検討してみてください。