本連載の第4回では日々の仕事の中から「やらなくてよいこと」を効率的に見極める方法をお伝えしました。今回は「仕事を行う際は同時並行ではなく順番に行うこと」をお勧めし、その理由をお伝えします。
作業は同時並行ではなく順番に行うべし
パソコンのアプリケーションを頻繁に切り替えながら複数の作業を同時並行でこなすビジネスパーソン、一見すると「仕事ができる」ように見えますよね。一般的に、仕事ができる人にはより多くの仕事を任される傾向があるので、そのような方は結果的に複数の作業を抱え込み、同時並行で処理せざるを得ない状況になっているケースが多いことも一因でしょう。
ところが、基本的には複数作業の同時並行での処理は生産性を悪化させる要因になります。
こう書くと「そんなはずはない。1つずつ順番に対応するより、例えば3つのことを同時にやったほうが早いはずだ」と反論される方が多くいます。そこで、同時並行で進めるより1つずつ順番にこなしていくほうが効率がよい理由を、同時並行作業に起因する「作業切り替えのロス」「進捗管理のロス」「作業完了のロス」という3つの弊害をキーワードにご説明します。
同時並行作業の弊害 その1:作業切り替えのロス
そもそも同時並行で作業を行うとは、どういうことでしょうか。例えば(1)今朝の会議の議事録の見直しと加筆・修正、(2)本日中に上司に提出する報告書の作成、(3)今週分の作業計画の進捗入力、(4)顧客からの問い合わせメールへの回答、(5)市場調査データの分析とプレゼン資料作成、の5つを同時並行で進めていたとします。
しかし、この5つを本当にまったく同じタイミングで同時に行うことなど可能でしょうか。パソコンを2台とスマホを1台用意して、右手で1台目のパソコンを使って議事録を加筆・修正しながら左手で2台目のパソコンを使って報告書を作成し、さらにスマホの音声操作で進捗入力したとしても、まだ2つの作業が残りますし、そもそもこの時点ですでに人間離れしていますね。
そうすると、「同時並行で作業する」とは各々の作業が完了する前のある程度キリのよいところで作業を切り替えて、5つのタスクの進捗を徐々に進めていくと解釈したほうが現実により近いと考えます。
そこで、例えば5つの作業の所要時間が等しかったと仮定した場合、1つの作業が半分終わった時点で次の作業に移り、またそれが半分終わった時点でその次の作業に移るというのを繰り返すと、すべての作業完了までに9回の作業切り替えを行うことになります。そして3分の1ずつで作業を移ったとすると14回、4分の1ずつで作業を移ったとすると19回の作業切り替えが必要になり……と、5回ずつ作業切り替えが増えていきます。そのため、作業切り替えにかかる時間が1分だったとすると各々の例では9分、14分、19分とかかることになります。
さらに作業切り替えにはファイルやアプリケーションの切り替え以上に、「頭の切り替え」に時間がかかります。議事録なら先ほどまでの作業で「どこまで見直したか」「どんな視点で見直したか」、報告書なら「全体の話はどんな流れだったか」、顧客からの問い合わせメール対応なら「どの時点のメールまで回答したか」などを思い出す、あるいは確認しなければなりませんし、そもそも切り替え後の作業に完全に思考を合わせるのにも多少の時間がかかるでしょう。
このとおり、作業切り替えによるロスは、時間の面でも労力の面でも無視するには大きすぎると考えます。
同時並行作業の弊害 その2:進捗管理のロス
次に、10や20、場合によっては数十といった数多くの作業を同時並行で行う場合を考えてみましょう。この場合でも先ほど同様、途中で切り替える際に作業切り替えロスが発生する上、そのロスの大きさは何倍にもなりますが、それだけに留まりません。
このように作業の数が多くなると、通常は表やグラフを作成・更新して進捗管理を行うことで、各々の作業の進捗と仕事全体の進捗管理を行います。その際に同時並行で作業を行っていたとすると、1つの作業から次へと移るごとに進捗管理表への入力や更新といった手間が発生することになります。
そして、この手間は先ほど同様、対象作業の数と切り替えのタイミング(半分ごと、3分の1ごと、4分の1ごと、など)に応じて増えていきます。そのため、例えば1件当たりでは30秒というわずかな時間だったとしても、仮に20件の作業を4分の1ずつで切り替えながら進めていったとすると、すべて完了するまでに79回の切り替えが発生し、39分30秒の時間を費やすことになります。
この進捗管理表への入力や更新にかかる時間は、もし1件ずつ順番に終えていたら、19回の切り替えに伴う9分30秒の時間で済むことになります。つまり30分の時間が丸々浮くわけです。
毎日30分早く帰れるとすれば、同時並行ではなく、順番にこなしていく方法を選ばない理由はないですよね。
同時並行作業の弊害 その3:作業完了のロス
そして同時並行作業の3つ目の弊害ですが、こちらは上記の2つよりも深刻な影響があります。それは、先ほどの「作業切り替えのロス」と「進捗管理のロス」を抜きにしても、同時並行作業のほうが1つずつ順番に完了させていくより「同じ時間で区切ったときに完了している作業の数が少なくなる」ということです。
恐らく多くの方は「そんなはずはない、先ほどの2つのロスを省いた場合、すべての作業を終えるのにかかる正味作業時間の合計は同時並行で実施しようが順番に完了させていこうが同じなので、差が生じるはずがないだろう」とお考えではないでしょうか。
そのご指摘は、確かに「すべての作業が完了するタイミング」で比較すると正しいです。
しかしながら、「すべての作業が完了する以前のタイミング」で比較すると、やはり同時並行作業のほうが完了する作業の数が少なくなります。このことは直観に反するので簡単な例で考えてみましょう。
ここに100枚の折り紙があったとします。1枚の折り紙から1個の折り鶴を折っていき、最終的には100個の折り鶴を折ることになりました。なお、折り鶴1個を完成させるのにかかる時間は1分とします。そうすると1個ずつ仕上げていく方法においても、同時並行的に15秒までの作業が済んだら次の折り紙に移る方法においても、いずれも作業開始から100分後に100個の折り鶴が仕上がりますね。
では、作業開始から1時間後の完成個数で比較するとどうでしょうか。1個ずつ仕上げていく方法では60個ですが、同時並行的に進めていく方法では0個になります。なんとたったの1個すら完成せず、途中まで折られた鶴が100個できるだけです。そしてようやく1個目が完成するのは75分15秒の時点になります。
この例は折り紙に限った話ではなく、仕事でもまったく同じことが起こります。ある日の仕事が全部で10個あったとして定時の時点で進捗を確認すると、1個ずつ完成させていく場合では9個終わっているけれど、同時並行だと「まだ何も終わっていない」という恐ろしいことが起こる可能性があるということです。もちろん各仕事の進捗は途中まで進んでいるはずですが、どちらがよいかは明白でしょう。
ただし、1つずつ順番に作業をする際に「所要時間が長いものから」順番に行ってしまうと定時の時点で完了している作業の数が減ってしまうので、その点は注意してください。
以上、3つの弊害「作業切り替えのロス」「進捗管理のロス」「作業完了のロス」という観点から、同時並行作業より1つずつ順番に作業を完了させていくことをお勧めする理由をお伝えしました。仕事を早く終えて定時帰りを実現するために参考になれば幸いです。
著者プロフィール:相原秀哉(あいはら ひでや)
株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役 慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。