本連載の第45回では「テレワークをきっかけに成果主義に移行しよう」と題し、テレワークで部下の姿が見えないからこその成果主義へのシフトを提言しました。本稿では新型コロナウイルスが猛威を振るっている今、緊急事態に応じた仕事の進め方をお伝えします。

仕事に余裕を持たせよう

この深刻な状況下において、無事に全社員がテレワークに移行できていたとしても安心するのは時期尚早です。テレワークへの移行によって通勤時の感染とオフィスでのクラスター感染のリスクを大幅に下げることは期待できますが、それでも従業員が私生活において家庭やスーパー、飲食店などで感染するリスクをゼロにはできません。もし社員のうち1人、あるいは数人が新型コロナウイルスに感染して職務から戦線離脱した場合に、それでも仕事がどうにか回るような仕組みを作っておくことが急務なのではないでしょうか。

そもそもテレワークという慣れない環境に移行したばかりなのに移行当初からこれまでと同等以上の生産性を発揮することはあまり期待できないでしょう。それに加え、もし社員が新型コロナウイルスに感染して入院したり隔離されたりしたら、何も備えていない状態では仕事が回らずに納期を守れなくなるリスクもあります。

これまで通りの仕事量を死守しても、少なくとも2週間以上に渡って残された社員だけで乗り切るには社員への負荷が過剰に高まって疲弊することが予想されますし、通常通りの納期を設定していても守れなくなれば取引先の信用をなくしてしまいます。

このように、社員の離脱が発生した途端に仕事が正常に回らなくなることが予想されるのであれば、そうなる前にいっそのこと仕事に余裕を持たせておくことをお勧めします。そのためには、もし可能であれば通常時より仕事の総量をセーブしたり、納期に余裕を持たせたりしておくことが効果的な備えになります。

そして、万が一社員の誰かが突然戦線離脱しても他の社員に無理をさせずにカバーできるようにしておくのです。このように急な事態にも無理なくカバーできるようにゆとりを持たせておくことは、社員に安心して働いてもらえることにもつながるでしょう。

各人の仕事を可視化・共有しよう

仕事の量と納期に余裕を持たせることができたとしても、まだ安心はできません。ある日、社員の誰かが新型コロナウイルスに罹患して自分の仕事を他の社員に引き継ぐ間もなく入院してしまったとしても問題が起こらないような仕組みを整えておくことが必要です。

それは先ほど挙げた「仕事量や納期の余裕」に加え、いざという時に引き継ぎをしなくても他の社員がカバーして仕事が回るようにしておくために各人の仕事を常日頃から可視化・共有しておくことです。

・誰が何の仕事/案件を抱えているのか
・その仕事/案件の納期と進捗はどうなっているのか
・取引先とはどのようなやり取りがされているのか
・社内の関連部署への依頼状況はどうなっているのか
・その仕事/案件で使用している資料はどこに保管されているのか

このような情報を整理して明文化し、社員間で共有し、随時最新の状態に更新しておくことによって引き継ぎがなくてもある程度は他の社員がカバーできるようになるでしょう。なお、一度明文化できた時点で他の社員に読んでもらい、わかりにくいところや曖昧なところなどを客観的な視点から指摘してもらってブラシュアップさせるとなお良いです。

それによって当人の仕事についての情報が精緻化され、重要な漏れを減らせると同時に、読んで指摘した社員自身もその仕事についての理解が深まるという効果も期待できます。

また、自分たちの仕事について部署内で適宜シェアする機会を設けるのもお勧めです。なかなか明文化するのが難しいような情報、いわゆる暗黙知は仕事を円滑に進めるうえで重要な役目を果たしている場合があります。形式知だけではどうしてもカバーしきれない類の情報を口頭でのコミュニケーションで伝達しておくのです。

バックアップ体制を整えよう

新型コロナウイルスの脅威は社員のポジションに関わらず等しく存在します。メンバーが罹患する恐れもある一方、チームリーダーや部課長などの役職者が罹患する恐れも当然あります。つまり、いつ誰が罹ってもおかしくないということですね。

そのため、社員が休んだ場合に備えて仕事の量や納期、情報面で備えておいたとしても、「では誰が休んだ人のバックアップをするのか」を巡って混乱が生じる恐れはぬぐいきれません。特にチームリーダーや役職者などのポジションについては、有事において職務を代行する人を予め決めておくことは円滑な引き継ぎのためにも欠かせません。

また、指揮命令系統や権限以外では能力差も考慮する必要があると考えます。まだ若手で経験も浅い社員1名の不在を補うのであれば他の社員が2~3名で分担すればすむかもしれませんが、エース級のスキルの高いベテラン社員1名の不在を補うにはそれでは足りないということもあるでしょう。ましてベテラン勢が複数名不在となってしまったような場合には部署全体で総力を挙げてカバーすることが必要になるかもしれません。

こうした事態に予め備えておくには平時から、誰が何のスキルをどのレベルで持っているのか、そしてどれだけの仕事量をこなしているのかを把握しておくことと、それらの情報を基にして「どういうスペックの人が不在になったときには、周りの社員がどうやってカバーするのか」というバックアップ体制を決めておくのがよいでしょう。

なお当然、先のことが読めない中で全員分のシミュレーションまで個別に作成するのは、部署の人数が多ければ現実的ではないという場合もありますので、そのような場合には想定されるパターンを作って、パターンごとのバックアップ体制を整えておきましょう。

新型コロナウイルスという見えない敵、そしてかつてない状況において「完璧な備え」を構築することは極めて困難でしょう。しかし、だからといって有事への備えが何もないままにウイルスの脅威に晒されることは業務、さらには経営に致命的な影響を与えかねません。完璧ではなくともできる限りの知恵を絞って最悪の事態に備えておくことで、深刻な事態を乗りきることができるかもしれません。本稿の内容がその一助となれば幸いです。