本連載の第2回では、
出社したらすぐに仕事の全体像を把握し、優先度を付与し、時間配分を行うことの重要性をお話しました。そこで、時間配分を行う上で必要な作業計画を立てる際に気を付けるべきポイントをお伝えします。
作業計画を緻密に立てようとしてはならない
一日の時間配分を考える上で各仕事にどれだけの時間がかかるかを見積もり、作業計画に落とし込む。このこと自体はとても重要なのですが、そこには特に「几帳面な人」が陥りがちな落とし穴が存在します。この落とし穴に陥ってしまうと、効率的に仕事を行うために作業計画を立てていたはずなのに。かえって効率が悪化して残業が増えてしまうという残念な事態を招きかねません。
そこで、作業計画を立てる上での落とし穴の正体と、それらへの対応策をお伝えします。
作業計画はさくっと作ろう
一日分の作業計画を立てる際、あれやこれやと考え込んで気が付いたら30分も1時間も過ぎていた、という経験に心当たりはありませんか。しかも、それでもまだ完璧な作業計画とはほど遠い……。
このような状況に陥っていたら、作業計画の落とし穴に陥っていることが疑われます。
複数の人やグループ、会社が関与するようなプロジェクト等を除いて、そもそも個人の作業計画というのは、一般的には公式のアウトプットにはならないでしょう。故に作業計画を作ること自体は目的ではなく、効率よく仕事を進めるための手段に過ぎません。ですが几帳面な人ほど、そこを誤解して作業計画を完璧に作ろうとして、過大な時間を費やしてしまいがちです。
ここで断言します。最初から完璧な作業計画を作ろうとすることはナンセンスです。その理由は「見積もり精度の限界」にあります。
そもそも一日の仕事の全てが、これまでに幾度も経験しているものだけであれば、経験則を基に作業計画を立てるのに、それほど多くの時間を要することはないでしょう。時間をかけても完成しないということは、その日の仕事については経験が乏しく、「わからない」要素が多いということでしょう。その「わからない」要素について、自分ひとりであれこれ悩んでも「わかる」ようにはならないでしょうから、その時点でより高い精度を求めることは無謀と言わざるを得ません。
これは例えば経理部から人事部に異動したばかりの人が、上司から「わが社の入社試験の評価項目案を作成せよ」と指示を受けたとしても、経験が全くない中で緻密な作業計画など到底作成しようがないようなものです。
とはいえ、全くの手探りで仕事を始めるのも効率が悪いので、まずは第1回のコラムでお伝えした「目的・目標の確認」「作業結果イメージのすり合わせ」「アプローチ(手段/方法)の熟考」の3つを行うことで、緻密とまではいかなくとも、ある程度の精度を伴った計画の立案ができるはずです。
そして、仕事が終わった後に、当初立てた計画と実績を比較して修正すべき点や考慮すべき点を洗い出しておいて、次回以降に同じ仕事を行う際の計画を洗練させていけばよいのです。
作業計画には柔軟性を持たせよう
これまでに豊富な経験のある仕事についての作業計画を立てる場合は、緻密な計画を仕上げることができるかもしれません。しかし、その場合においても落とし穴に落ちないように気を付ける必要があります。
一日の初めに緻密な作業計画を立て、それに沿って順調に仕事を進めるはずだったのに、隣の部署から急ぎの依頼を受けたせいで計画が総崩れになる恐れが……。計画を修正しようにも、緻密に作りこんでいるので後から変更するのも容易ではない。
これもまた、作業計画の落とし穴に陥ってしまった例の一つです。
どれほど緻密な作業計画を立てても、それとは無関係に計画立案時には想定し得なかった事柄が突発的に発生することはあるものです。このような「イレギュラーの発生」によって、当初計画通りに仕事を進められなくなってしまった場合には、計画を修正する必要があります。そして、そのためには、予め計画にある程度の「柔軟性」を持たせておくことが効果的です。
そして「柔軟性」を持たせるためには、計画に「一定のゆとり」を持たせることと、あえて「緊急度の低い仕事」を含めておくことの2通りの方法があります。
計画に「一定のゆとり」を持たせる
最初に、計画に「一定のゆとり」を持たせることについてご説明します。例えば、その日にやるべき仕事について緻密に計画を立てて、各々の作業見積もりを50分とか30分などと細かく設定し、それらの合計がそのまま勤務時間になるように作っていると、イレギュラーが発生した際に追加できるゆとりが計画の中に存在せず、そのままでは残業の発生を免れないでしょう。これはパズルの全てのピースがぴったりとはまって隙間がない状態なのに、さらに新たなピースを投入しようとしているようなものです。
そのため、作業計画作成時には、各作業の間に5分間や10分間等の「ゆとり」を持たせておくのです。もしイレギュラーが入ってしまったら「ゆとり」として取っておいた時間を活用すればよし、イレギュラーが入らなければリフレッシュして次の仕事に備えるか、次の仕事を前倒ししてしまえばよいでしょう。なお、どれだけの「ゆとり」を入れるべきかは、業界や職種などによって変わってくるので、ご自身の職場環境に見合った時間を設定してください。
「緊急度の低い仕事」を含めておく
次に、あえて「緊急度の低い仕事」を含めておくことについて説明します。最初から緊急度が高い仕事だけを積み上げて作業計画を作ってしまうと、前述した「ゆとり」だけでカバーし切れない量のイレギュラー発生時には、すでに計画した仕事をずらすことができないため、やはり残業で対応せざるを得なくなってしまいます。
そこで、作業計画に予め「緊急度の低い仕事」を一定量含めておくことで、いざイレギュラーが発生した場合にも、その仕事とイレギュラーをトレードする余地が生まれるようにしましょう。もちろん、後回しにした仕事は、翌日以降の作業計画に追加することを忘れないようにすることが前提ですが。これは先ほどのパズルの例で言えば、全体を構成するピースの一部を「交換可能」なものにしておくことで、新たなピースが追加された際にも交換することで対応するようなものです。
なお一点、補足ですが「緊急度の低い仕事」を含めましょうといっても、「自分の仕事は全て緊急度が高いものなので実現不可能である」という方もいらっしゃるでしょう。そのような場合は、「本当に全ての仕事が等しく緊急度が高いのか」「全ての仕事が当日中に対応しなければならないほどの緊急度か」「緊急度は高いが重要度が低い仕事はないか」について再点検してみてください。最初の2つのいずれかについて譲歩の余地があればイレギュラー発生時に「交換可能」なピースが存在するということになりますし、最後の1つが当てはまるものは部下や同僚に任せるなどの方策を取れる可能性があります。
ここまでで、作業計画を立てる際に落とし穴にはまらないよう気を付けるべきことをご説明しました。作業計画を作る際は「さくっと作る」「柔軟性を持たせる」という2点を実践して、定時帰りに近づけましょう。
著者プロフィール:相原秀哉(あいはら ひでや)
株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。