本連載の第24回では「職場で起こる問題は、発生する前に片づけてしまおう」と題し、リスクを捉えて先手を打つことの意義と方法についてお伝えしました。本稿では仕事のやり方を見直し、スピードを上げることで問題の要因となる作業ミスが減る理由と、その方法をお話しします。

変化の激しい昨今のビジネス環境では、目の前の仕事に忙殺され、さらには日々発生する問題の対応に追われて、先のことを考える余裕がないという方も多いのではないでしょうか? しかし、その忙しさは逆に「目の前のことだけに対処している」ことに起因するのかもしれません。そこで、目の前のことをこなしつつも、先を見通して行動することの意義を考えてみましょう。

「仕事のスピードを上げるとミスが増える」は逆

仕事を早く済ませて定時で上がろうと思っても、仕事の量が多くてなかなか終わらず、結局残業が続く毎日。最近では会社全体で働き方改革を進めようとしているようで、上司から「仕事のスピードを上げて残業を減らせ」と言われるようになった。それならば、とスピードを上げてミスが起きたら「何をやっているんだ。仕事は丁寧にやれと言っているだろ」と叱られる。「仕事のスピードを上げろ」と言いつつ「ミスなく丁寧にやれ」と叱るなんて、無茶言わないでくれよ。

このように上司の理不尽な指示に辟易している方、いらっしゃるのではないでしょうか。ですが、ここで一度立ち止まってよく考えてみましょう。ご自身の職場に、仕事のスピードがダントツに速いのにミスをした話を一度も聞いたことがないという、エース級の社員はいませんか? 直感に反するかもしれませんが、実は「仕事のスピードを上げるとミスが増える」というのは逆で、実際には「仕事のスピードを上げるとミスが減る」というのが正しいのです。

スピードを上げるとミスが減るのはなぜか

一般的には、仕事のスピードを上げるとミスが増えると考えられていますが、それはなぜでしょうか? きっと、「仕事のスピードを上げる=雑にこなす」というイメージがあるからではないでしょうか。確かに本来チェックすべきところを省いたり、10個の情報項目を入力すべきところを5個しか入れなかったり、といった具合に仕事を雑にこなせば、スピードは上がりますが、ミスが増えることは避けられません。

ここで「仕事のスピードを上げる」ということは、仕事を雑にこなすのではなく、本来やるべきこと、必要なことを丁寧にこなしつつスピードを上げることを想定しています。具体的な方法は次項でお伝えしますが、その前に仕事のスピードを上げるとミスが減る理由をお伝えします。

ここで突然ですが、寿司屋を想起してください。美味しいお寿司に欠かせない要素の一つは「ネタの鮮度」にあるということに異議を唱える方は少ないでしょう。そして「ネタの鮮度」を保つのに寿司職人の作業スピードは欠かせないはずです。もし寿司職人の作業スピードが極端に遅くて、一尾の魚を捌くのに何十分もかかったら、お客が待ちくたびれてしまうのはもちろんですが、せっかくの新鮮な魚の鮮度が落ちてまずくなってしまうでしょう。

オフィスでの仕事で扱う情報も、寿司屋の魚と同様に鮮度が重要です。仕事のスピードが遅くて扱う情報や資料などを長時間放置してしまったり、収集や加工に手間取ってしまったりすると、情報の鮮度が落ちて刻一刻と変化する状況とのズレの発生や、作業や連絡の失念、納期遅延などにつながるリスクを生むことになります。

例えば、商品の仕入れ先から届いたメールを数日間放置してしまうことで、返信する頃には材料の価格変動に伴い、売買価格交渉からやり直さなくてはならなくなってしまったり、もっとひどい場合には、返信そのものを失念してしまったり、さらには納期に間に合わなくなったりして信用を失ってしまうことにもつながります。そのためスピーディーな対応が、このようなミスを防ぐのに必要不可欠なのです。

また、仕事のスピードが遅い原因が「余分な手間をかけていること」に起因する場合は、それもまたミスを誘発することにつながる可能性があります。例えば、ある資料を作る際、情報の加工1,000回につき1回の割合(0.1%)でミスが発生したとすると、1つの資料を作るのに10回の加工で済めば資料を100個作ると1個の割合でミスが現れますが、1つの資料を作るのに100回の加工を施すと資料10個中、1個の割合でミスが発生してしまうことになります。つまり、仕事に余分な手間をかけることは、結果として作業ミスの発生件数増加という弊害を生むのです。これは裏を返せば、手間を減らすことがミスの削減に繋がるということです。

ミスを減らす仕事のスピードアップ方法

ここまでで、仕事のスピードを上げるとミスが減る理屈についてお伝えしましたが、その内容を踏まえて、仕事のスピードを上げてミスを減らす方法を考えてみましょう。

まず、発生した仕事は極力溜め込まず、できるだけすぐに対応するよう心掛けることです。仮に期日まで日数があっても、早く対応して差し支えがないものはさっさとやってしまいましょう。それによって情報の鮮度が高いうちに対応完了できますし、もし追加や修正の依頼などが入っても、余裕を持って対応でき、その結果としてミスが減ることにつながります。

先ほども挙げたメール対応では、自分に届いたメールを読んで「急ぎではないので返信は後でいいや」と思って一旦放置すると、送り手側の状況に変化が生じたり、そのまま返信を忘れてしまったり、数日後に同じ文章を再度読み返す手間が増えたりして業務効率が落ちますので、極力読んだときに返すようにしましょう。それはミスを減らすことにつながる上に、迅速な返信でメールの送信者に信頼感を与える副次的な効果も見込めます。

また、仕事が溜まって対応すべきタスクが増えると、それらを管理する工数も比例して増えてしまいます。あれもこれもと多くのタスクを抱えた状況では、どこから手を付けてよいか考えるのに手間取って、パニックに陥るという方もいるのではないでしょうか。そうならないよう仕事のスピードを上げて、次から次へと完了させることで、常にタスクが少ない状態を維持できれば、管理工数はその分、減りますので、手間と同時に精神的な負荷も抑えることになるでしょう。

また、仕事の目的を考慮して、目的達成に不要な資料や情報などはノイズと捉え、極力排除しましょう。目的をしっかり見据えることができていないと、不安になってしまって「念のためにあれも入れておこう、これも入れておこう」となりがちですが、余分な手間がかかる上にミスも誘発するので、良いことは何一つありません。本来の目的達成に必要なものでないのならば、思いきってなくしてしまいましょう。

また、タスクについても同様に、そもそも今やっているタスクの中で「最低限必要なものは何か」を考えて、それ以外は極力削ってしまいましょう。さらに、残ったタスクについても「ツールを使って自動化できないだろうか」と考えてみましょう。特にエクセルを使った集計などは、自動化する余地が大きい可能性があるので検討をお勧めします。

余談ですが、以前お会いした方が「私はエクセルを信じない」と言って、すべての計算を電卓でこなしていました。ですが、そもそも計算処理においては数式さえ間違わなければ、電卓を使うよりエクセルの方が圧倒的に正確ですし、所要時間には雲泥の差があります。また、計算ミスの確率の違いに加え、電卓では計算式が残らないので、ミスをしても後から検証するのが大変なのでお勧めできません。エクセルなら計算式が残って検証可能なので、検算が圧倒的に楽です。

本稿では仕事のスピードを上げてミスを減らす方法をお伝えしましたが、「手間を減らすこと」については、「汗をかいて労働すること」が「仕事をすること」だと信じている方には受け入れがたいかもしれません。一般的には労働時間に対して給料が支払われるので、そのように信じてしまうのも致し方ない面はあります。しかし、顧客がお金を払う対価として求めているのは「労働」そのものではなく、その結果として得られる付加価値です。

究極的には「労働」が一切なくても「付加価値」を得られれば十分なので、やはり働く側としては「いかに労力を減らしつつ、顧客に求められる付加価値を生むか」を考えるべきだと思います。そして、それは自身の業務効率を上げると同時に、顧客にとってもより高い品質でより早く付加価値を得られることにつながるのです。