本連載の第242回では「議論が噛み合わないときの対処法」という話をお伝えしました。今回は、議論がループしているときの要因と対処法についてお話します。

長丁場の会議に参加していると、時として「あれ?さっきも同じことを議論したような気がする」と感じることはありませんか。そのような時は議論がループしている可能性があります。意見が出ているので議論は停滞せずに進んでいるように見えるのに、気が付かないうちに同じ議論を延々と繰り返してしまうところがこの現象の厄介なところです。

なぜ、このような議論のループに陥ってしまうのでしょうか。それには5つの要因が考えられます。

  • 会議のゴールが不明瞭だから
  • 会議のゴールまでのアプローチが不明瞭だから
  • 議論の進捗を把握できていないから
  • 論点そのものをループ構造で捉えているから
  • 判断が必要なところで議論しているから

まずは1つ目、「会議のゴールが不明瞭だから」です。会議のゴールがわからないままに会議を進めるのは、目的地を決めずにドライブしているようなものです。目指すものがないままに議論を行っていても、先に進めるはずがありません。そもそも「どこが先でどこが後なのか」を決めることすらできないはずです。ドライブであれば過程を楽しむのもありかもしれませんが、「参加者の時間」という貴重なリソースを投じる会議でこれでは、成果を上げるどころではないでしょう。

もし議論がループしていると感じたなら、そもそも会議の目的が明確になっているか、そしてそれが参加者間でしっかりと共有されているかを確認しましょう。

続いて2つ目、「会議のゴールまでのアプローチが不明瞭だから」についてです。これは、会議で目指すゴールはわかっているのに、そこまでのアプローチ(進め方)が曖昧になっていることを指します。

たとえるなら、ある日突然フランス旅行に行こうと思い立ち、まずはルーヴル美術館を目指すことにして飛行機でパリ近郊のシャルル・ド・ゴール空港までは着いたものの、そこからどうやって美術館までたどり着くのかが分からずに途方に暮れてしまう状況のようなものです。なんとなく美術館がありそうな方向に進もうとしたところで、地図や鉄道などの情報が一切なく行き方が分からなければグルグルと同じところを回ってしまっても不思議ではありません。

会議においても、ゴールを定めたらどうやって達成するのか、その道筋を考えておかなければ議論が迷走するのは当然です。できれば会議が始まる前に考えておきましょう。

3つ目の「議論の進捗を把握できていないから」に移ります。会議のゴールとアプローチが設定されていても、自分たちの議論が「今、どの位置にいるのか」を把握できていないような状況を想定しています。そんな自分たちの議論の現在地が分からなくなるなんてことがあるのだろうか、と疑問を持たれた方もいると思います。しかし、少なくとも私の観測範囲においては全く珍しくない現象です。むしろ油断するとすぐに議論の現在地を見失ってしまいます。その理由には3つあります。

  • (1)そもそも議論が複雑だから
  • (2)議論の構造が途中で変化したから
  • (3)些末な議論に入りこんでしまったから

議論が入り組んでいてあまりに複雑な場合には、ふと気が付くとどこまで進んでいるのかが分からなくなることがあります。それは、複雑な迷路の途中まで進んでいても気を抜いた瞬間に、どこまで進んだのかが分からなくなる感覚に近いです。それを防ぐには、議論をリアルタイムに可視化するのが最も効果的です。参加者の発言をホワイトボードやパワーポイントなどで可視化しながら進めていくことで、どこまで議論が進んだのかも一緒に可視化することができます。迷路でいえば、ゴールに向かって進んできた足跡をペンで書きこんでいくようなイメージですね。

また、議論の構造が途中で変化した際にも現在地を見失うことがあります。これは途中まで迷路を進んでいたところ、突然迷路そのものが変化してしまうのに似ています。

会議の参加者のバックグラウンドが異なる場合には、会議の途中まで積み重ねてきた議論を根底からひっくり返す主張をする人が現れることがあります。もし、その主張が的を射ていた場合には、元々想定していたアプローチに致命的な欠陥があるのかもしれません。そうすると当然、自分たちの現在地が不意に分からなくなってしまいます。

このような場合、無理に元の議論の流れを押し通そうとするのは悪手です。それよりは会議を一旦仕切り直してアプローチや、場合によってはゴールから見直す方が結果的には、より早く成果を上げられるでしょう。

そして些末な議論に入りこんでしまった場合にも現在地を見失うことがあります。これは目的地に向かって高速道路を進んでいる途中、知らない土地で下道に下りて迷子になるのに似ています。全社の方向性について話すべきところを社員個人の話をしてしまったり、プロジェクトの大枠の進め方について話すべきところを作業レベルの話をしてしまったりといったことによって、たとえ方向性が同じでも、些末な議論にはまり込んで現在地を見失ってしまうことがよくあります。

このようなときには、会議の目的やアプローチについて再確認し、些末と思える議論が今、本当に必要なのかどうかを問うのがよいでしょう。その議論が仮に重要だったとしても、それを「今話すべきかどうか」は別なので、タイミングも留意してどうすべきかを決めるのが肝要です。

ここまでで、議論がループする5つの要因の内、3つを説明しました。残りの2つは次回のコラムで説明します。ぜひそちらもご覧ください。