本連載の第219回では「情報が多ければ良い意思決定ができるとは限らない」という話をお伝えしました。今回は職場での課題に取り組む際に気を付けるべきことをテーマにお話します。
どのような業界や業種、職種においても、「課題が全くない」という状況はなかなかありません。きっとあなたの職場でも、何かしらの課題があるのではないでしょうか。そうした課題に一つずつ対応していくことが仕事の醍醐味なのかもしれませんが、目の前の課題に片っ端から取り組むのはあまり効率が良い方法ではありません。その理由を以下で説明します。
目の前の課題から取り組むのは、モグラたたきのようなもの
日々発生する課題に即座に対応し続けているのに、暫くするとまた同じ課題が発生することがあります。これは実は課題に対応しているつもりが、課題ではなく現象に対応しているだけかもしれません。
顧客から度々入るクレームに対処したり、部下のミスを叱ったりするのはこの手の部類に入ります。如何に鮮やかにクレームに対応しても、部下のミスを漏れなく指摘したとしても、それによってクレームやミスを減らすことには至りません。
「なぜクレームが発生しているのか?」
「なぜ部下は同じミスを繰り返すのか?」
それらの問いを突き詰めて考えることで、クレームやミスの真の原因を突き止めて対応することによって、課題への対応を完了させることができます。なお、巷では「なぜを5回繰り返せ」と言われます。それくらい深掘って、ようやく真の原因が見えてくるということです。
課題に対応したことによって、また別の課題が生まれてしまう
目の前の課題に対応したと思ったら、全く予期しないところで悪い結果をもたらしてしまったという経験はありませんでしょうか。部下の仕事が終わらないのを見かねて手伝ったら、他の部下から「あの人ばかり贔屓している」と非難されたり、ノー残業デーを設定して、その日は強制的に帰宅させるようにしたら帰宅後にサービス残業していることが後に発覚して問題になったりということはよくあります。
課題に対して表面的に対応することで、却ってより深刻な結果を生んでしまうということを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。それには「課題を構造化」して捉えるのが効果的です。しかし、やってみると分かりますが課題の構造を文章だけで表すのも、理解するのも難易度が高いです。
そんなときは課題の構造を図で表して可視化するのがよいでしょう。PowerPointなどのアプリを使って、四角形などのオブジェクトの中に課題の端的な記述を入れます。その課題の原因として「これがあるのでは」というものを、また別のオブジェクトの中に記載して、それらを矢印で繋ぎます。これを繰り返すことで課題の構造を解き明かすことができます。
なお、一発で納得のいく構造が出来上がることは稀です。構造を描いたら確認・修正を何度も繰り返すことで徐々に質を上げていくことになるでしょう。
また、課題への対応についても同様に構造化すると、予期せぬ悪影響の回避に繋がります。課題に対して「こう対応しよう」という記述をオブジェクトに記述したら、今度は「その結果、どこにどのような影響が現れるだろうか」というのを別のオブジェクトに記述し、それらを繋げます。それを繰り返すことで、課題への対応がどこにどのように波及するのかを可視化し、対応内容が適切かどうかを判断する根拠になります。
日々、多くの課題が発生する職場では、このように考える時間がなかなか取れないかもしれませんが、目の前の課題に対して条件反射的に対応するだけでは一向に楽にはなりません。ぜひ一度、時間を取って課題を構造化して、本当に対応すべき課題を見つけ、予期せぬ悪影響に見舞われるリスクを最小化して対応策を作ってみてください。