本連載の第215回では「リーンシックスシグマに学ぶ業務改善のコツ」という話をお伝えしました。今回は「DX(デジタルトランスフォーメーション)のポイント」についてお話します。
テクノロジーの進化は止まりません。AI、クラウドコンピューティング、IoTなどの革新的な技術は組織のビジネスプロセスを根底から変え、競争のルールを再定義しています。それを可能にするのが「デジタルトランスフォーメーション」(DX)です。しかし、DXはただ新しいテクノロジーを導入するだけのものではなく、組織全体の変革を伴うものです。
さて、このDXを自社に導入しようと思ったとき、何から始めれば良いのでしょうか。 ここでは、その準備と進め方について解説します。
まず、第一に考慮すべきは「目的とビジョンの明確化」です。最近ではDXがバズワードになっていて、「我が社もDXしなければ!」と焦る会社を散見しますが、DXはあくまでも手段に過ぎません。そもそも何のためにDXするのかを考えなければ、取り組みを成功させるべくもありません。
DXの目的を明確に定義し、その目的を達成した際には自社がどのような状態になっているのかというのを描き、さらには全体のビジネス戦略とどのように連携するのかを理解することが重要です。例えば、ある製造業の企業では顧客のニーズの変化に合わせて最適な商品を最適なタイミングで投入できるようにすることを目的として生産プロセスを自動化し、効率化を図ることを目指し、DXを進めることにしました。その結果、製造コストを削減しつつ、顧客ニーズに見合った商品をいち早く投入できるようになり、競争力を向上させることができました。
次に考慮すべきは「組織の現状分析」です。どの組織の何の業務が現在どの程度デジタル化されているのかを把握し、それに基づいてDXのロードマップを作成することが求められます。その際、特に目的の達成に資する対象範囲を先に決めてから始めることをお勧めします。その上で、その業務が紙やFAXを使っているのか、電子ファイルを使っているのかといった情報の在り方に加えて、どのように保存しているのか、さらには他の人とどうやって共有しているのか、といったところまでしっかり調査して現状を把握することが重要です。
また、「データの管理と保護」はDXを進める上で重要な側面です。単に紙の情報をデジタル化して、使いやすいような仕組みを整えるだけでは十分とは言えません。データの最新性、正確性しつつ、漏洩しないように適切なアクセス権限の管理も行えるように仕組みを整えることが重要です。また、定期的にデータの内容や更新方法、保存方法、共有方法、廃棄方法などについてもチェックを行い、不備がないかを点検するプロセスを設定しておくのも有効です。
「スキルと能力の強化」も必要不可欠です。DXは新しい技術とビジネスモデルの理解を必要とするため、従業員のスキルと能力の向上が必要です。例えばIT企業であれば、クラウドコンピューティングやAIに関するトレーニングを提供し、従業員のデジタルスキルを強化は欠かせないでしょう。
さらに、「ステークホルダーのコミットメント」を確保することは、DXの成功に不可欠です。経営陣やその他のステークホルダーがDXの目標を理解し、それを支持し、リソースを提供することが必要です。
最後に、「パートナーシップとベンダーの選択」です。DXは複雑なプロジェクトであり、特定の領域の専門知識を必要とする場合があります。そのため、自社内でのリソースで完遂することに拘泥せず、必要であれば適切なパートナーとベンダーを選び、自社の目標とニーズに最適なソリューションを提供することが重要です。
DXの準備は一見すると大仕事のように思えるかもしれません。しかし、確固たる戦略を持ち、明確な目標を設定し、全社一丸となって取り組むことで、必ずやその果実を手にすることができるでしょう。DXの波を見逃さず、新たなビジネスの世界を切り開きましょう。