本連載の第207回では「心理的安全性を土台に働きやすい環境を作ろう」という話をお伝えしました。今回はスキルの向上に必須な、ポジティブなフィードバックについてお話します。
ビジネスの世界は変化と競争が激しいため好むか好まざるかに関わらず、私たちは日々新たな挑戦に挑み続けなければなりません。新たな市場への参入、プロジェクトの成果、チームマネジメント、売り上げ目標の達成。これらは全て、自分自身を成長させ、スキルを向上させることで対応可能な課題です。このような課題をクリアする上で重要なのが、ポジティブなフィードバックの力を理解し、活用することです。アメリカ、ノースカロライナ大学のバーバラ・フレドリクソンによって提唱されている「拡張・形成理論」は、このテーマを理解する上で大変参考になります。
フレドリクソンの理論は、ポジティブな感情が我々の心と行動の領域を「拡張」し、新たな思考パターンや行動スキルを「形成」する能力を持つと説明しています。たとえば、あなたがプロジェクトを成功させ、その結果を上司から賞賛されたとします。その感情はただの一時的な喜びではありません。それはあなたの視野を広げ、新たな可能性について考える勇気を与え、それが再び起こり得るという希望を育てるのです。
このフレドリクソンの「拡張」のコンセプトが具体的にビジネスの世界でどのように機能するかを考えてみましょう。仮にあなたが若手の営業パーソンだったとします。あなたは初めて大きな契約を結んだ後、上司から具体的なポジティブフィードバックを受け取りました。「あなたのプレゼンテーションは非常に説得力がありました。その説得力が功を奏して、無事に契約できました。ありがとう。」と。このようなフィードバックを受けることで、どのように感じるでしょうか。きっと、プレゼンテーションや顧客とのリレーション構築に関する自信が生まれ、それが次のプレゼンテーションに向けて、思考と視野を拡張することになるでしょう。。
次に、「形成」について考えてみましょう。これは、ポジティブなフィードバックが、私たちが特定のスキルや行動を強化し、それらを繰り返す動機づけとなるプロセスを指しています。スキルの向上には、そのスキルを繰り返し実践し続けることが必要です。リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決能力など、ビジネスで重要なスキルの多くは、「繰り返し」によって最も効果的に学ぶことができます。
たとえば、あなたが新人マネージャーだったとします。あなたのチームがプロジェクトの期日内に完了したことについて、上司から以下のようにフィードバックを受けたとします。「あなたの計画的なアプローチと日々のメンバーとの適切なコミュニケーションのおかげで期日内にやり遂げることができました。」と。このフィードバックは、あなたが今後も今回と同じような成功を再現し、さらにそのリーダーシップスキルを形成するための基盤となることでしょう。
ただし、ポジティブなフィードバックが必ずしも「褒め言葉」だけを意味するわけではない、ということを覚えておいてください。ポジティブなフィードバックは、具体的で、目標指向の、そして建設的なフィードバックを意味します。それが、どのスキルを改善したか、どの行動が結果につながったのか、どの方法が最も効果的だったのかを指摘することで、私たちは自分の能力を最大限に活用する方法を学びことができます。
なお、フィードバックは一方的なものではなく双方向のものであり、ポジティブなフィードバックを与えること自体もまた重要なスキルです。他人の成功を認め、それを具体的に指摘することで、あなたは周囲の人たちに対するリーダーシップと影響力を高めることができます。
新しいことへの挑戦には、常に失敗のリスクを伴います。しかし、ポジティブなフィードバックの力を理解し、それを活用することで、あなたは自分自身と他人のスキルと能力を向上させることができます。フレドリクソンの「拡張・形成理論」を日々の仕事で活用し、ビジネスで求められるスキルの向上や成長に活かしましょう。そして、あなた自身がポジティブなフィードバックを与えることで他の人々の成長も促して、チーム全体としてさらなる活躍を目指していきましょう。