本連載の第204回では「仕事の質を上げるクリティカルシンキングを身に付けよう」という話をお伝えしました。今回は、ビジネスに影響を与える「認知バイアス」についてお話します。

認知バイアスという言葉をご存知でしょうか。認知バイアスは、私たちが物事を見る方法、考える方法、決定する方法に影響を与える心理的な偏りや誤解のことです。ビジネスの世界では、これらのバイアスが意思決定に影響を及ぼし、企業の成果に重大な影響をもたらす可能性があります。今回は、若手ビジネスパーソンが知っておくべき7つの主要な認知バイアスと、それらのビジネスへの影響について説明します。

1. 確証バイアス

最初に取り上げる認知バイアスは確証バイアスです。これは、自分の信念や仮説を裏付ける情報を優先して探し、信じやすい傾向を指します。

例えば、あるプロジェクトの成功を確信しているマネージャーが、その成功を裏付けるデータや情報にばかり気を取られて、プロジェクトに悪影響を与えかねない問題点を無視してしまう場合があります。このバイアスは、問題の早期発見と解決を妨げ、結果的にプロジェクトの失敗につながる恐れがあります。

集めたデータや、その解釈が自分たちにとって都合の良いものばかりであった場合には、確証バイアスに捉われていないか今一度確認する癖をつけましょう。

2. バンドワゴン効果

バンドワゴン効果とは、他の多くの人々が行っていることを自分もやるという社会的な圧力のことを指します。

例えば、市場で競合他社が特定の戦略を取っていると、それが自社にとって最善の策であるかどうかを慎重に検討することなく、同じ戦略を採用しようとする誘惑に駆られることがあります。しかし、その戦略が他社にとっては成功をもたらしていても、自社の状況や目標には必ずしも適していないかもしれません。

「皆がやっているから」というだけで同じ判断や行動を取っていないか、意識的に注意しましょう。

3. ハロー効果

ハロー効果とは、一部分の印象が全体の評価に影響を及ぼす現象のことを指します。

例えば、ある従業員が特定のスキルに優れていると、その人が全体的に優れたパフォーマンスを発揮していると誤って判断する可能性があります。しかし、その従業員が他の重要なスキルや業務で問題を抱えている場合、その問題を見逃してしまう可能性があります。

人の評価をする際には、組織や自分による評価にハロー効果が影響していないかを点検し、評価項目ごとに客観的な判断ができているかを確認するようにしましょう。

4. アンカリング

アンカリングは、最初に与えられた情報(アンカー)に意思決定が過度に依存する傾向を指します。

例えば、交渉の初期段階で提示された価格が後の交渉に大きな影響を与える場合があります。それが明らかに不適切な価格であったとしても、その価格が参照点となり、結果的に合理的な価格設定を阻害する可能性があります。

転職の面接で「あなたの経歴を踏まえると年収は700万円くらいが妥当ですね」と面接官から最初に提示されると、700万円を基準として話が進むことになりがちです。そうなると1000万円とか、それ以上の金額は話にすら上がらなくなるかもしれません。

最初に提示された数値は本当に妥当なものなのかを意識的に検証しましょう。

5. 可用性ヒューリスティック

可用性ヒューリスティックは、情報をどれだけ容易に思い出せるかに基づいて判断を下す傾向を指します。

たとえば、社内で最近発生した問題が頭に強く残っているために、その問題の再発確率を過大評価してしまう場合があります。しかし、これは個々の経験や記憶が現実の確率を必ずしも反映していないため、不適切な意思決定につながる可能性があります。

仮に最近成功したプロジェクトや戦略を思い出すのが容易であれば、その成功を再現するために同様の手法を採用しようとするのではないでしょうか。しかし、その手法が今の状況に適しているとは限りません。前回の成功は特定の状況や要素に依存していた可能性があるため、それらを考慮しないと適切な意思決定を妨げることになります。

6. 自信過剰バイアス

自信過剰バイアスとは、自分の知識や能力を過大評価する傾向を指します。

例えば、ビジネスパーソンが自身の予測や見積もりに過度の自信を持つことでリスクを見落とし、失敗する可能性があります。適切な情報収集と客観的な自己評価が必要となります。

プロジェクトマネージャーが自身の能力やチームの能力を過大評価し、プロジェクトの完了に必要な時間を過小評価する場合があります。それによって結果的にプロジェクトが遅延したり、予算オーバーになったりする原因となります。

特に重要な意思決定をする場合には自信過剰バイアスに陥っていないか、よく注意しましょう。

7. 基本的帰属エラー

基本的帰属エラーは、他人の行動をその人の性格や能力に帰属させがちであり、状況的な要因を軽視する傾向を指します。

ある従業員が仕事でなかなか成果を出せないとき、マネージャーはその従業員を「能力が不足している」とか「モチベーションがない」と判断するかもしれません。しかし実際には、成果が出ない原因は過度な仕事量、必要な教育の欠如、または組織の問題など、外部的な要因によるものかもしれません。

これらの認知バイアスを理解し、自己反省することは、ビジネスの世界でより良い意思決定を下すための重要な一歩となります。認知バイアスが私たちの視点と行動をどのように影響させているかを常に問い続けることで、より明確で効果的な意思決定が可能になるでしょう。