本連載の第19回では「その仕事、いつ終わるか5秒以内に答えられますか?」と題し、仕事の効果的な進捗管理のコツについてお伝えしました。本稿では仕事をうまく回すためのリソース管理について説明します。

リソース管理を疎かにする弊害

チームを組んで仕事をするようになると、自分ひとりのことだけ考えていては仕事がうまく回らなくなります。特にチームリーダーやプロジェクトマネージャーなどを任された際には、チーム全体のことを考えて、仕事を回さなくてはならなくなります。

本稿ではメンバーの稼働状況の管理、いわゆるリソース管理に焦点を当てますが、コンサルティングプロジェクトやシステム開発プロジェクトなどの様々なプロジェクトを回している歴戦のプロジェクトマネージャーでも、どうしても納期や品質に目が行きがちで、リソース管理まで十分にできている人はあまり多くはないように思います。

それではリソース管理を疎かにすることで、どのような弊害が生じるのでしょうか? 稼働状況が見えない中で無制限に仕事が増え続けることにより、長時間労働や慢性的に残業が発生することがまず考えられます。また、無理な仕事のさせ方をすることによる納期遅延、一部のメンバーへの仕事の偏り、新規案件を受け入れられるか判断がつかなくなってしまうなど、様々な弊害を招きかねません。

稼働率と業務量を可視化しよう

ここで挙げたような弊害を生まないためにも、リソース管理をすべきですが、具体的に何をすればよいのでしょうか? リソース管理のためには最低限、「稼働率」と「業務量」の2つを定量的に把握しておく必要があります。

まず「稼働率」ですが、これは所定労働時間(会社で定められた始業時刻から就業時刻までの時間から休憩時間を引いた時間)に占める実労働時間(実際に働いた時間)の割合で、実労働時間を所定労働時間で割って計算します。与えられた仕事を所定労働時間内に終わらせれば稼働率は100%を切り、所定労働時間を超過すれば100%を超えることになります。

稼働率を把握するためには「所定労働時間」と「実労働時間」の2つの値が必要ですが、その内「所定労働時間」は会社で予め定められているはずなので、調査等は必要ありません。一方の「実労働時間」については、何らかの手段で調べる必要があります。というのも、出退勤のデータだけでは「何時から何時まで会社にいたのか」はわかりますが、休憩時間や移動時間なども含まれるので実労働時間とイコールにはならないからです。

そこで、毎日の仕事終わりに、その日1日で何の仕事にどれだけの時間を費やしたのかをメンバーに申告させるとよいでしょう。その際、エクセルなどで共通のフォーマットを作成して共有フォルダなどに格納し、そこに日々入力してもらうとメールでの送付などの余分な手間を省けます。また、あまりに細かい内容を入力させようとすると、手間が多くなって続かないので、30分~1時間くらいの粒度で、ざっくりと入れてもらうようにすることをお勧めします。

そして、日々入力したデータを集計・分析することで、各メンバーの稼働率および業務量の内訳を、定量的に把握することが可能になります。

状況に応じて機動的に仕事を再配分しよう

さて、ここまでで稼働率と業務量の実態を日々把握できるようになったわけですが、それだけではリソース管理の半分を行ったにすぎません。残りの半分は、可視化した情報を用いて仕事を再配分することです。

仕事の再配分における原則は「メンバー間の業務量の平準化」で、そのために「稼働率が高い人の仕事の一部を低い人に割り振る」ことと、「新規の案件が来たら稼働率が低い人に割り振る」ことの2つを実施します。

これを単純なケースで考えると、前者は例えばAさんとBさんがいて、Aさんの稼働率が120%、Bさんが80%だった場合はAさんの仕事の20%をBさんに割り振ることでAさんの稼働率を100%に抑えつつ、Bさんを100%に上げるということになります。後者は同じくAさんが120%、Bさんが80%の状況で新規の案件が来た場合は、その案件をBさんに割り振るということです。

ただし、上記の例はあくまでも単純な理論上のケースなので、現実には考慮すべき要素が増えます。それは「スキル」と「経験値」です。先ほどの例でいえば、Aさんの仕事をBさんに割り振ろうとしても、現実にはその仕事をこなせるだけのスキルを持ち合わせていなかったり、BさんのスキルがAさんに劣っていたりする場合は、仕事を割り振ったところで、そもそも対応できなかったり、納期に間に合わなかったり、作業結果の品質に問題が生じてしまったりします。また、たとえBさんがAさんと同等のスキルを持っていたとしても、その仕事と類似した経験値をBさんが持ち合わせていなかったり、少なかったりするとやはり、Aさんより時間を要することが予想されます。

そして同様のことは、新規の案件をメンバーに割り振るときにも当てはまるので、その際にも稼働率に加えてメンバーの「スキル」と「経験値」を考慮すべきでしょう。

リソース管理に向けて入念な準備をしよう

ここまでで稼働率の可視化や仕事の再配分について見てきましたが、唐突に「今日からリソース管理をしっかりやることにしたから、よろしく」とメンバーに伝えたところで、残念ながらきっとうまく回らないでしょう。

効果的なリソース管理を行うためには、しっかりした可視化の仕組みと仕事の配分ルール、それにメンバーの理解が必要不可欠です。可視化の仕組みについては既にお伝えしましたので、残りの2つについてお話します。

まず仕事の配分ルールですが、こちらは可能な限り客観的なものを策定の上、書面に記述しておくことをお勧めします。そしてルールに入れるべき内容としては最低限、「どのような状況において」「どのような仕事を」「誰に振るのか」という情報が必要です。

「どのような状況において」は、例えばあるメンバーから別のメンバーに仕事を再配分する場合であれば「メンバー間の稼働率に20%以上の差が生じた場合」などと規定します。また、「どのような仕事を」は「誰に振るのか」とセットで、例えば「クライアントへの報告書のレビューは、稼働率が相対的に低いチームリーダー以上の職責の人に割り振る」などと規定します。

そして、ルールの策定が済んだら導入する前に、メンバーの理解を得るための説明会を開いて目的や内容、手段について懇切丁寧に説明し、メンバーの不安や疑問を解消することを忘れてはなりません。また、現場のメンバーにしか気づかないことも多々あるでしょうから、そこでの意見や疑問を踏まえてルールや仕組みをブラシュアップするのもよいでしょう。

最後に、リソース管理を導入する前に、試行期間を設けることをお勧めします。そこで試しに一部の人や仕事を対象にして導入・運用することで、ほぼ確実に机上では想定できなかった問題が発生します。その度に原因分析をして、対策をルールや運用の仕組みに取り込むことで、実運用に耐えるものを作りこんでいくのです。ここまで用意周到に準備することで、ようやく効果的なリソース管理が可能になります。

さて、本稿ではリソース管理の意義と仕組み、準備方法について説明しました。これから始める場合は、これまで自由気ままに仕事をしていたメンバー側から反発されることもあるでしょうが、全体最適の観点から根気強く説明して、理解してもらうことが肝要です。壁にぶち当たっても、ぜひ不屈の精神でトライしていただければ幸いです。