本連載の第18回では「共有フォルダが迷宮化していませんか?」と題し、効率的な共有フォルダの構造設計や管理体制等についてお伝えしました。本稿では仕事を期日までに終える上で欠かせない進捗管理に焦点を当てて、その効果的な方法を説明します。
上司から「その仕事、あとどれくらいで終わりますか?」と聞かれたら、咄嗟に答えられますか? できれば5秒以内、遅くとも10秒以内に回答できない場合は、改善の余地ありと考えます。それ以上かかるようでは、聞いた側に「リアルタイムで進捗を把握できていないのではないか」、ひいては「期日に間に合わないのではないか」という疑念を抱かせることになりかねません。
進捗がわからないと何が困るのか
「現時点での進捗を即答できないからといって、本当に困るのだろうか」と思われる方や、「すぐに答えられずとも、自分自身がなんとなく把握しているから問題ない」と思われる方もいるかもしれません。
ところが進捗を把握できていない、または曖昧にしか把握できていないというのは「期日までに仕事を終えられるかわからない」ことと同義といえます。これを登山に例えると「これまでにどれだけ登って、今どこにいて、あとどれくらい登れば山頂に着くのかがわからない」という状況と同じです。これではいつ登頂できるかわからず、場合によっては遭難してしまってもおかしくありません。
また、進捗管理を疎かにすることの弊害はもうひとつあります。それは期日間近になって急に間に合わないことが判明し、慌てて長時間の残業や休日出勤をしたり、他の人の助けを借りたりして対応せざるを得なくなることです。さらに、これでなんとか間に合えばまだマシですが、この時点で致命的なミスが発覚した場合などは、もはや手遅れになることもあり得ます。
これは小学生の夏休みの宿題が「残り3日の時点で、ほとんど手付かずのまま残っていることが判明し、家族総出で夜なべをして片づけようとする」のに似た状況です。仕事も夏休みの宿題と同様、常に進捗を把握しておくことで最後の最後に慌てなければならない状況を作らずすむようにしておくことが肝要です。
進捗把握の考え方
では、適切に進捗を管理するためにはどうすればよいでしょうか? それにはまず作業計画を立てることが必要ですが、作業計画の立て方や気をつけるべきポイントについては、当コラム第1回~第3回で細かく説明していますので、本稿では割愛し、ここでは作業計画がすでにあることを前提とした進捗管理の仕方についてお伝えします。
そもそも進捗管理の最も重要な目的とは何でしょうか? それは「このまま仕事を進めていった場合、期日までに仕事を完了させられるかどうかを判断すること」といえます。そして、それを判断するために必要な要素として「全体の行程」「現在位置」「ペース」「期日までの時間」の4つの情報が必要です。
まず「全体の行程」ですが、これは仕事の開始から完了までの作業計画のことで、ゴールまでの道のりと捉えることもできます。次に「現在位置」、これは現時点で全体の行程のどの部分を進めているかという情報です。「ペース」は計画通りなのか、計画より先に進んでいるのか、もしくは遅れているのかという情報で、「期日までの時間」は期日までの間にその仕事に費やすことができる時間で、残業は含めずに考えるのがよいでしょう。
もう少し具体的にイメージしていただくために、マラソンに例えてお伝えします。「全体の行程」はマラソンのコース全体および、どの地点をいつまでに通過するかというプランに該当します。「現在位置」は今どこを走っているのかという位置情報で、「ペース」はプランより速いのか遅いのか、「期日までの時間」はプラン上のゴール予定時刻までの残り時間に該当します。
そして、これら4つの情報を使うと、例えば「ペース」がプランより10分遅れているが、まだ「現在位置」が「全体の行程」の半分少々過ぎたところで、あと20km残っており、かつ「残り時間」が1時間としたとき、ここから平均時速を20kmに上げて走れば間に合うな、というような計算に使うことができます(※通常、ペースは1kmあたり何分で走るか、というような使い方をしますがここではプランとの乖離の有無と程度として使用しています)。
では、次に仕事の例で考えてみましょう。例えば今週金曜日の17時締め切りの仕事があったとします。そのために今週月曜日の午前中に他の仕事も勘案して作業計画を立案し、その日の午後から取り掛かりました。なお、完了までに必要なタスクは5つあり、いずれも所要時間は2時間で、1日にこの仕事に費やせる時間も2時間です。計画通りにいけば月曜日から金曜日までの5日間でちょうど完了できるはずでしたが、想定外のトラブル対応に時間を割いたため、水曜日定時の時点で2つ目のタスクが完了したところで、2時間分(タスク1つ分)遅れを取っています。
この場合、期日までにこの仕事に費やせる時間の残りが4時間なのに対して、残タスクが6時間分(タスク3つ分)あることがわかったので、早急にリカバリーするためのアクションを取ることが必要だと判断し、対応することになります。
遅延が発覚した場合の対応方法
それでは、進捗管理をする中で遅延が発覚した際の対応について考えてみます。進捗が予定より遅れていた場合は、大きく4つの打ち手があります。
遅れを取り戻すための打ち手の1つ目は「作業のスピードアップ」です。これは元々予定していたアウトプットを出すための作業に、何らかの工夫を加えて迅速化するということです。例えば表計算ソフトを用いた集計や分析作業ならば、関数やピボットテーブル、マクロ/VBAなどを駆使することで時短できないか、プレゼンテーション資料の作成ならば、以前に作成した資料を手直しすることで使い回せないか、などと検討することで作業の迅速化を図ります。
2つ目の打ち手は「余分な作業の省略」です。これには最終的に出す予定のアウトプットの中から余分なものをそぎ落とすこと、最終的なアウトプットを出すまでの中間作成物を減らすことの2つが含まれます。前者は予定しているアウトプットを精査して、過剰な機能や装飾などのオーバースペックを特定したり、できればあった方がよいが、なくても支障がないものを特定し、省略したりすることで、その部分の作成工数を浮かせることができます。また、後者は最終アウトプットを作成する過程で、作成を予定していた中間成果物の中で重要度が低いものを特定し、優先度を落として作成を中断する、あるいは後回しにするという手です。
3つ目の打ち手は「残作業時間を増やす」です。これは期日までの間に当該タスクに使用することのできる時間を増やすということで、そのために他の優先度の低いタスクを一旦中断するか後回しにするか、あるいは他メンバーに任せることで対応します。また、やむを得ない場合には、あらかじめ積んでおいたバッファーを使うという手もあります。
そして4つ目の打ち手は「応援要請」です。1つ目~3つ目の打ち手を考慮しても自分だけでは間に合わないと判断した場合は、早急に上司や同僚に掛け合って手伝ってもらうことが重要です。自分の仕事を他の人に頼むことに抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、納期に間に合わないことでお客様に迷惑をかけてしまっては、会社全体の評判を落とし、ひいては上司や同僚にも悪影響を及ぼしうることを考慮すると、躊躇している場合ではありません。もちろん、そのためには、常日頃から互いに助け合うような関係性を作っておくことが重要です。
ここまで、進捗管理の重要性と管理する上で押さえるべきポイント、ならびに遅延発生時の対応の考え方について説明しました。本稿の内容を踏まえて進捗管理と遅延対応を適切に実施し、日々の仕事で余裕をもって納期遵守を続けていただければ本望です。