本連載の第188回では「AIチャットボットの普及で重要性が増すスキルとは」という話をお伝えしました。今回は前回の結論としての「問いを立てるスキル」について深堀りしてお話します。
「知りたいことがあったら、まずはGoogleやSNSで検索する」
この行動は近いうちにガラリと変わるかもしれません。なぜなら、ここ最近はAIチャットボットの進化が目覚ましく、問いかけにぴったり合った答えを迅速に返してくれるようなツールが現れているからです。
AIチャットボットが社会に広く普及すれば「聞かれたことに正確に回答するスキル」の重要性はこれまでより低下することは避けられません。それに伴って「そもそも何を聞くべきか」という、適切な問いを立てるスキルが求められるようになるはずです。
それでは、ビジネスで役に立つ「問い」とはどのようなものでしょうか。以下、3つの種類別にご説明します。
1. 情報を得るための問い
これは最も一般的なもので、「今日の天気は?」とか「東京駅から大阪駅まで最短で行くための交通手段は?」といった問いです。職場では「関西営業部の昨年一年間の売上推移は?」とか「競合他社の新商品リリースに伴う自社商品への影響はどの程度出ているか?」といった問いが該当します。
この類の問いは、「その問いへの回答によって、その後に取るべき行動をどうするか」というところまでセットで考えると筋が良くなります。
たとえば、先ほどの例で「関西営業部の昨年一年間の売上推移は?」という問いを立てたとしても、その問いの答えの如何によって何も行動が変わらないのであれば、そもそもその問いは不要だったということになります。
しかし、関西営業部の売上推移が計画を下回っている場合には原因を究明してリカバリープランを立てよう、という行動に繋がるのであれば、意味のある問いになります。なお、計画通り或いは計画を上回っているのであれば何か別の行動を取るということになるでしょう。
2. 思考を深めるための問い
「なぜ、顧客数が減少傾向にあるのか?」とか「どうしたら顧客のニーズをより正確に把握できるだろうか?」というような、既存の情報や事実のような回答ではなく、思考を深めるための問いもあります。
この類の問いへの回答は何か唯一絶対の解があるわけではありません。まして、検索したりAIチャットボットに聞いたりすれば自身が求める回答を過不足なく得られるかというと、ほとんどの場合においてそれは期待できないでしょう。
そのため、この手の問いには自分自身が徹底的に考え抜くことが求められます。もちろん、他の人と問いについて議論していく中で考えを深めていくことも可能ですが、最終的には自分自身で答えを導かなければいつまで経っても思考は深まりません。
なお、このような問いに関しては、その回答の「仮説」を先に考え、検証するための次の問いを立てることをお勧めします。たとえば「なぜ、顧客数が減少傾向にあるのか?」という問いに関しては、「自社商品へのクレームの件数が増えていることと併せて考えると、商品またはサービスに何らかの問題が発生していて、リピーターが減少しているのではないか」などと仮説を立てます。
次にそれを検証するために「商品またはサービスに関するクレームの件数は増えているか?」「リピート率が下がっていないか?」などの「仮説を検証するための問い」を立てる、といった具合です。
3. 相手に行動を促すための問い
「その問題を解決するために、あなたがすべきことは何でしょうか」とか「なりたい自分になるために、どのような道がありますか」といった、相手に何らかの決断や行動を促すための問いもあります。
相手がその問いに答える中で、「自分がすべきことに気が付き、自ら行動に移す」ことを期待した問いです。但し、この類の問いを相手に投げかける際に気を付けるべきことがあります。それは、「本当にその問いが相手にとってプラスになるか?」を自問自答するのは当然として、さらに「相手との関係性」「タイミング」「環境」なども考慮しないと上手くいかないでしょう。
それゆえ、以上3つの問いの中でも最も難しい類の問いと言えます。
しかし、問いによる働きかけが上手く行くと、直接的に相手に指示や命令して行動させるより高いモチベーションで行動に移してくれるはずです。なぜなら問いをきっかけとしつつも、最後には自分自身で結論を出し、納得した上で動こうとするからです。
以上見てきたように、一口に「問い」といっても様々なバリエーションがあります。これらの問いの使い分けは今のところまだAIには難しいでしょう。そのため、当面の間はこうした問いを上手く使いこなす力は重宝されるのではないでしょうか。