本連載の第185回では「Power QueryでExcel作業の負荷を減らそう」という話をお伝えしました。今回は年末ということもありますので普段とはちょっとテーマを変えてNFTという最新のテクノロジーについてお話します。
早いもので2022年もあとわずか。みなさまにとってどのような一年でしたでしょうか。ご存知の方も多いかもしれませんが、今年はテクノロジー面で人類にとって大きな意味を持つ飛躍的な進歩がありました。その中でも私が注目したのはNFTというテクノロジーです。
NFTとは"Non-Fungible Token"の略で「非代替性トークン」と訳され、「このデジタルデータは替えが効かない唯一絶対のものである」と証明できる技術です。しかし「NFTとは」という話を十分に語り尽くすには誌面が足りないので、ここでは「NFTを活用することでこんなことができるようになっている」というお話をします。
デジタルデータが世界規模で売買される
突然ですが、「ミッキーマウスのデジタル画像を1万円で買いませんか?」と言われたらあなたは買いますか? 恐らく、ほとんどの方は買わないのではないでしょうか。なぜならデジタル画像はコピー&ペーストで幾らでも複製できてしまいますし、そもそも本物か偽物かという区別すらつかないからです。
それでは、「ミッキーマウスの原画を1万円で買いませんか?」と言われたらどうでしょう。恐らく「原画なら買うよ」という方がちらほら出てくるのではないでしょうか。同じミッキーマウスの絵でも原画なら買うというのは、その原画がこの世に一つしか存在しないということが分かっているからではないでしょうか。
同様に著名なアーティストの版画の例で考えてみましょう。版画は原画の複製ですが、人気のあるアーティストのものでは数十万円から百万円を超える値が付くことも珍しくありません。なぜなら、版画は点数が決まっており、それぞれの版画にはシリアル番号が振ってあるため、「自分が買った絵は作品点数が限定されており、かつ自分の絵が本物であると証明されている」と誰もが信じることができる仕組みになっているからでしょう。
それと同じことをデジタル上で実現するのがNFTという技術なのです。デジタル画像そのものは無限にコピーが可能ですが、デジタル画像の限定性と、本物であることの証明ができるため、欲しい人がいれば価値がつくことになるのです。
そのため、2022年末の時点でも既にデジタル画像、特にTwitterのアイコンなどに使えるPFP(プロフィール画像)がNFTとして販売され、高いものでは数百万円、或いは数千万円で売買されるものまで存在します。
なお、NFTで売買されるものはデジタル画像に留まらず、デジタルの音楽や写真、動画なども含まれます。ニーズさえあれば、デジタルデータで多様な作品が売れる時代が到来したのです。さらに、暗号資産を通じての取引であれば国境の壁はおろか通貨の壁すら乗り越えて海外の人に自分の作品を買ってもらうことすら容易にできる時代が到来しているのです。
証明書がデジタルデータに置き換わる
マイナンバーカード、運転免許証、保険証、社員証、学生証、ジムの会員証などなど、身分を証明するカードには様々あります。また、大学の卒業証書や成績証明書、資格試験の認定証など、何かを成し遂げたことを証明するものも無数に存在しています。
このような証明書も今後はデジタル化が進み、さらにはNFT化する世界が到来するかもしれません。実は既に千葉工業大学の学修履歴証明がNFTで発行されています。しかし、ここで鋭い方は「おや?」とお気づきになったかもしれません。
「NFTで証明書を発行すると売買されてしまうのでは?」
先ほどNFTのアート作品が売買されているというお話をしたので、同じように有名大学の卒業証書などが売買できると「悪用されてしまうのでは」と危惧を抱くのも無理はありません。
しかし、そこはご安心ください。譲渡不可能なNFT(これをSBT、Soul Bound Tokenと呼びます)を使えば売買はおろか他の人に送ることもできないので、一度発行されたら証明書としてしっかり機能します。
さらに勘のいい人は、デジタルの証明書なんてクラウド上のデータを活用すればよいのでは、と思うかもしれません。しかし、クラウドのデータとは結局のところ、どこかのデータサーバー上に存在するものです。そのサーバーがダウンしたり、ハッキングに遭うようなことが万が一にもあればデータを一時的に使えなくなったり、改竄されてしまったりするリスクがあります。
しかしNFTは基盤技術のブロックチェーンの特性上、どこか特定のデータサーバーに保管する場合と比べてそういったリスクは遥かに低いのです。万が一証明書の発行元が破綻するなどしてなくなった場合でも証明書のデータが失われることはありません。
本稿ではNFTを活用してどんなことができるのか、というのをご紹介しました。ここでお伝えした内容はNFTの可能性のほんの一端に過ぎません。ぜひご自身でも調べてみて、さらには実際にNFTを保有していただくと、どんなものか実感を得られると思います。ぜひ年末年始のお休みの間にトライしてみてください。